コラム・地域脱炭素と人材育成④ 〜欧州の地域・人材支援

脱貧困を目的として、いち早く脱化石エネルギーに取り組み有名になった、オーストリア・ギュッシング市
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これまでは、日本の地域脱炭素や人材をめぐる課題について論じてきたが、今回は地域エネルギー事業の先進自治体が多く存在する、欧州の事例を紹介したい。

欧州の地域脱炭素

ドイツ・オーストリアで言われる「エナギーヴェンテ(エネルギー転換)」という言葉は、再生可能エネルギー(以下「再エネ」とする)へのエネルギー源の転換とCO2削減の環境的目標だけではなく、地域の生活の質を高め、エネルギーや経済の自立を実現していく、持続可能な地域社会への転換プロセスそのものを指す。
筆者は2019年に、ドイツ・オーストリアの研究機関・金融機関・事業者・自治体を訪問する機会を得たが、その際に特に印象的だったのは、脱炭素を、地域の人々が地域の持続可能な未来を切り拓くためのチャンスと捉え、主体的に取り組んでいること。加えて、そういった地域主体の事業を支える、地域や広域的なファイナンスシステム、人的・技術支援ネットワーク組織などの「社会的基盤」の存在である。

地域のエネルギー自立は、
経済の自立と生活の質向上につながる

欧州では人口数百~数千人といった小規模な自治体が、「カーボン・フリー」「再エネ100%」といった目標を掲げ、各種エネルギー政策を活発に展開する事例が多数見られる。そして、そのきっかけとして、地域の経済的窮状は「エネルギーを化石燃料に頼り、そのすべてを外部から購入する構造で、大量のお金が域外に流出しているから」であることに気づき、その活路として、省エネと地域の資源を徹底的に活用する方向にいちはやく転換した事例も少なくない。

専門的知見・人的不足を補う
「中間支援組織」

では、なぜ、そのような小規模自治体がエネルギー自立政策・事業を推進することができるのか。知見や人材が不足している、という状況は当然日本と同様にある。ただし、そこを埋める存在として、同分野に関する専門性を有し、非営利・中立的な立場から地域の関係主体に対して支援を行う担い手=「中間支援組織」の役割が大きい。
欧州では、そのような組織を「エネルギー・エージェンシー」と呼び、EUなどが主導するかたちで、自治体の関連計画の策定や政策の実施・評価等の関する作業の支援、各種調査、職員を対象にした研修の実施など、自治体によるエネルギー政策にも積極的に関与している。そのため自治体は、地域の実情を把握した専門的な支援組織から、一過性ではない、継続的できめ細かい伴走支援を得ることができる。
日本でも、自治体のエネルギー自立政策・事業支援のために、企業等との包括連携協定の推進、国や県の人材派遣制度の整備、まだ少数ではあるが、地域密着型の中間支援組織も見られるようになっている。しかし「非営利・中立的な立場」「支援の質・継続性」については、まだ十分担保できている状況とは言い難い。
欧州のケースをそのまま日本に当てはめるのは困難であるとしても、自治体支援・人材育成の環境整備としては、大いに学んでいくべきであろう。


注)本稿を執筆するにあたり、自身の2019年ドイツ・オーストリア訪問でのヒアリングや、以下の文献を参考にした。

1)BIOCITY「オーストリアのエネルギーづくりと持続可能な地域づくり」2021年 No.87
2)的場信敬、平岡俊一、上園昌武 編『エネルギー自立と持続可能な地域づくり:環境先進国オーストリアに学ぶ』(昭和堂、2021年)
3)歌川学「地域の省エネ・エネルギーシフトを支援する人材 専門的知見を地域で活かすシステム」月刊事業構想、2020年6月号、pp94-95
4)的場信敬、平岡俊一 他『エネルギー・ガバナンス:地域の政策・事業を支える社会的基盤』(学芸出版社、2018年)
5)ルイジ・フィノキアーロ「オーストリア・ギュッシング 人口4000人の寒村に起きた奇跡」月刊事業構想、2015年3月号

第1回「今注目される『地域脱炭素』とは」はこちら
第2回「地域脱炭素に必要な人材とは(1)」はこちら
第3回「地域脱炭素に必要な人材とは(2)」はこちら
第4回「欧州の地域・人材支援」(この記事です)
第5回「地域の実例にみる人材育成の鍵(1)」はこちら
第6回「地域の実例にみる人材育成の鍵(2)」はこちら

重藤さわ子 重藤 さわ子
英国ニューカッスル大学、農業・食料・農村発展学部にてPhD取得(2006)後、持続可能な社会への移行に関する多分野横断型の研究開発プログラム・プロジェクトや地域の主体的実践支援に携わってきた。専門は地域環境経済学。著書に『「循環型経済」をつくる』(共著、農文協、2018年)、『新しい地域をつくる -持続的農村発展論』(共著、岩波書店、2022年)ほか。