コラム・地域脱炭素と人材育成③ 〜地域脱炭素に必要な人材とは(2)

世界的に進む脱炭素は地域にとって振興戦略であるともいえる。多様な分野・業種・部署・世代を横断的につなぐ人材が不可欠だ
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脱炭素はこれからの「地域づくり」に不可欠な要素であり、地球規模の環境課題解決という側面のみならず、地域振興戦略として捉え、その促進に向けて強い信念で、分野・業種・部署・世代横断的につなげていける人材が必要だ。

今回は、そういった人材をめぐる課題について、自治体の環境行政の変化から掘り下げてみたい。

地域の地球温暖化対策の変化

自治体の地球温暖化対策は、2016年に閣議決定された国の「地球温暖化対策計画」に即して、全ての都道府県及び市町村の事務及び事業に関し、温室効果ガス排出量の削減等のための措置に関する計画(地方公共団体実行計画(事務事業編))の策定と公表が義務付けられたことに始まる。多くの自治体では、環境基本計画や一般廃棄物処理計画と紐づけることが適当であるという理解で、環境政策部局がその策定を担ってきた。しかし、2022年4月より施行された地球温暖化対策推進法の改正で、市町村は自らの事務事業のみならず、地域全体の温室効果ガス排出量削減のための措置に関する計画(地方公共団体実行計画(区域施策編))の策定に努めることが明記された。

環境行政の役割も大きく変化している。環境・経済・社会の統合的アプローチが重視されるようになり(図1)、地域脱炭素ロードマップ策定にあたっても、各省庁は「環境」という切り口だけではなく、地域創生や交通や福祉など、「社会」「経済」面も含めた地域課題解決としての脱炭素政策を求めている(ここからは、その意味を込め「脱炭素」ではなく「地方創生ゼロカーボン」と称する)。このように、自治体の温暖化対策は、部局・分野横断的な連携なしには対処できない問題になっている。

図1

図1 環境政策のグローバル化・統合化の流れ

環境行政は、かつてはローカルな環境破壊への対処が中心であったが、地球温暖化や生物多様性へのグローバルな要請への対応、さらには「社会」「経済」との統合的な取組が求められるようになっている。

地方創生ゼロカーボンを担うべき
標準的な部局はない

ただし、地方創生ゼロカーボンを環境政策部局が担う場合、彼らには従来からの重要な役割として温室効果ガス削減数値目標の設定やその達成のための計画づくりがあり、各部局・分野が行うべき目標達成のための対策を「お願い」「説得」してきた関係性のなかで、地域振興戦略や地域づくり課題に結びつけるための「前向き」な部局・横断的分野連携に課題を抱える自治体も散見される。

一方で、地域脱炭素を先行的に行っている自治体へのヒアリング注)では「地方創生ゼロカーボンは地域にとって新しい課題だから、それを扱う、標準的な部局はない」という発言があった。では、誰がその業務を担うべきかであるが「誰でも良い。もっと重要なのは、脱炭素が地域の課題解決や振興に必要であることに気づき、信念を持って部局・分野横断的にやりとげようとする人材がやること」とのことである。確かに、先進的と言われる地域には、自治体内外に、そのような人材がいるものだ。

地域では、とかく人材がいない、という話になりがちだが、むしろ、人材の発掘や、部局・分野横断的に思いっきり取り組んでもらえる環境整備の方が、人材育成上重要な課題なのかもしれない。

注)事業構想大学院大学が内閣府から受託した「令和4年度 地方創生ゼロカーボン推進業務」の一環で行った自治体ヒアリングや、その他筆者自身が関わる自治体との意見交換に基づく。

第1回「今注目される『地域脱炭素』とは」はこちら
第2回「地域脱炭素に必要な人材とは(1)」はこちら
第3回「地域脱炭素に必要な人材とは(2)」(この記事です)
第4回「欧州の地域・人材支援」はこちら
第5回「地域の実例にみる人材育成の鍵(1)」はこちら
第6回「地域の実例にみる人材育成の鍵(2)」はこちら

重藤さわ子 重藤 さわ子
英国ニューカッスル大学、農業・食料・農村発展学部にてPhD取得(2006)後、持続可能な社会への移行に関する多分野横断型の研究開発プログラム・プロジェクトや地域の主体的実践支援に携わってきた。専門は地域環境経済学。著書に『「循環型経済」をつくる』(共著、農文協、2018年)、『新しい地域をつくる -持続的農村発展論』(共著、岩波書店、2022年)ほか。