コラム・地域脱炭素と人材育成② 〜地域脱炭素に必要な人材とは

第1回では、地域にある再生可能エネルギー資源(以下「再エネ」)を活用することが脱炭素につながり、さらにそれが地域の経済を豊かにする可能性があることを説明した。今回は、残念ながらそのような理想とはかけ離れている現状を概説しながら、地域脱炭素に必要な人材について考えてみたい。

再エネ普及政策は地域に何をもたらしたか

2012年の再生可能エネルギーの固定価格買取(FIT)制度導入で、確かに日本の全発電量における再エネ発電比率は、2011年度の2.6%から、2019年度の10.3%と大きな伸びを見せた(資源エネルギー庁、2021)。しかし、そのほとんどは太陽光発電であり、各地で開発が進んだメガソーラーの多くは東京をはじめとした大都市に本社を置く事業者が手掛け、売電収入はそのような事業者(あるいはそういった事業に積極的に投資する海外の投資家)に流れてしまう構造で普及が図られた、と言っても過言ではない。

当然FIT制度の根拠法では、国民負担で導入する目的に、再エネの推進のみならず「我が国の国際競争力の強化及び我が国産業の振興、地域の活性化その他国民経済の健全な発展に寄与すること」が明記されている。しかし、太陽光・風力のみならず、地域向けの小規模バイオマス発電設備は軒並み外国製。大規模な発電設備で生み出される莫大な売電収入は地域外に流出し、地域のエネルギー自給につながっていないどころか、各地で反対運動が繰り広げられている現状は、本制度が当初描いていた理想とは程遠い。

「ノウハウや経験不足」に苦労してきた地域の再エネ事業

FIT導入後いち早く再エネ事業に参入しその恩恵を受けた地域外事業者と比して、地域の再エネの特性を生かし地域内経済循環につなげようとする小規模な再エネ利用が、事業化・その後の経営自立化についても苦戦を続けてきた最大の課題は、「ノウハウや経験の不足」と「資金調達の困難さ」であると言われてきた(重藤、2022)。資金調達の困難さの背景には、積極的投融資が期待される地域金融機関等の、再エネの技術的な知見、それに伴う事業性やリスク判断にかんする「ノウハウや経験の不足」もある。

地域脱炭素に必要なのは再エネ事業の「ノウハウや経験」だけか

これらの課題は随分前から認識され、再エネ技術を理解し、地域で事業化できる地域人材を育成するための研修等人材育成は各所で試みられてきた(図1)。

図1 福島大学の再生可能エネルギー人材育成プログラム
(出典:福島大学HP
震災復興過程の新たな産業や担い手づくりとしても、様々な再エネ人材育成プログラムが開発され、展開されていった。

しかし地域にノウハウや経験があれば、地域脱炭素が実現されるかというと、そう単純ではない。むしろ、新たなことを地域で取り入れていく「地域づくり」としての基盤が必要で、そのためには、地域主体の再エネ事業が、脱炭素という地球規模の環境課題に貢献するのみならず、地域固有の課題解決にもつながり、ひいては地方創生という地域全体の利益に結び付くということに気づき、強い信念で、分野・業種・部署・世代横断的かつ総合的に地域振興戦略につなげていける人材が不可欠だ。

次回は、そのような人材の必要性と人材育成について、さらに深掘りしていきたい。

第1回「今注目される『地域脱炭素』とは」はこちら
第2回「地域脱炭素に必要な人材とは(1)」(この記事です)
第3回「地域脱炭素に必要な人材とは(2)」はこちら
第4回「欧州の地域・人材支援」はこちら
第5回「地域の実例にみる人材育成の鍵(1)」はこちら
第6回「地域の実例にみる人材育成の鍵(2)」はこちら

参考文献:
資源エネルギー庁「国内外の再生可能エネルギーの現状と今年度の調達価格等算定委員会の論点案」2021年10月(https://www.meti.go.jp/shingikai/santeii/pdf/070_01_00.pdf
重藤さわ子「地域脱炭素とサステナブルファイナンス(2)地域金融機関こそ、循環型の新規事業開発を」、月刊事業構想、2022年2月、pp87-89

重藤さわ子 重藤 さわ子
英国ニューカッスル大学、農業・食料・農村発展学部にてPhD取得(2006)後、持続可能な社会への移行に関する多分野横断型の研究開発プログラム・プロジェクトや地域の主体的実践支援に携わってきた。専門は地域環境経済学。著書に『「循環型経済」をつくる』(共著、農文協、2018年)、『新しい地域をつくる -持続的農村発展論』(共著、岩波書店、2022年)ほか。