コラム・地域脱炭素と人材育成⑤ 〜地域の実例にみる人材育成の鍵(1)

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日本各地で地域の持続可能性が問われている今、脱炭素と地方創生を両立する
人材育成を考えることは重要な観点となる
photo by Milan / Adobe Stock

これまで論じてきた日本の地域脱炭素や人材をめぐる課題を踏まえ、地域の実態を見ていきたい。

地方創生ゼロカーボンに
先進的に取り組む自治体

筆者は2022年度、脱炭素を地方創生につなげている、いわゆる「地方創生ゼロカーボン」の先進的な自治体 注1)を訪問する機会を得たが、それら自治体に見られる共通の要素としては、以下のとおりとなる。

・物理的社会的条件(再エネポテンシャル、自然環境、産業構造等の社会的条件等、地域の固有の資源)をうまく活用し、地方創生に既に結び付けられている。

・主体的条件(地方創生ゼロカーボンの取組主体となる自治体の体制、地域の合意形成を図るための体制の有無等)の整備が、これまでの地方創生の文脈できちんと位置付けられ、自然なかたちで新たな展開(脱炭素先行地域など)に結び付けられている。

なお、それぞれの条件において、専門的な知見をもつ人材の有無に注目がいきがちだが、必ずしもそうでもなく、上記2つの要素で地域の地方創生を俯瞰的かつ戦略的に組み立てられる「人材」が地域にいた、ということが重要だ。

西粟倉村の先進性

再生可能エネルギー(以下「再エネ」とする)利活用の先進地域として有名な、人口1,300人規模の岡山県西粟倉村の事例を紹介したい。西粟倉村では、他の自治体との合併の岐路にあった2008年、合併をせず自主自立の村づくりを目指すことを決意した。そして、そのためには、村の約93%を占める森林のうち84%もある人工林を活用することで、50年先の2058年に、「百年の森林(もり)に囲まれた上質な田舎」を実現するべく、村ぐるみで挑戦を続けていくことを宣言した。

まず林業の立て直しに取り組んだが、木を切って市場に出すだけでは儲からないため、木材加工事業の振興に取り組むことになり、その事業に参画する人材募集の目的もあり、積極的に移住促進政策を展開することになった。その過程で生まれたのが、(株)西粟倉・森の学校で、2015年から村として本格的に取り組んでいるローカルベンチャー育成事業のきっかけになっている。

再エネの導入も、この地域にとっては自然な流れだ。豊富にある森林という最大の地域資源を整備・活用することで豊かになっていく水資源や太陽光、放っておけばごみになるようなC材や未利用材もエネルギー資源として新たな収入を生み出せば、地域外へのお金の流出を減らすことができる。さらに、それらの資産価値の最大化を進めていくために、脱炭素先行地域として、地域内外の連携体制を構築し 注2)、電気を含むエネルギーの地産地消を進めるための新電力会社の設立を進めている(図1)。

図1 西粟倉村の地域新電力運営体制 注3)

西粟倉村の事例は、地域の主体が一貫した将来ビジョンをもとに、地域の森林を起点とした自然資本と社会資本の価値最大化に資するプロジェクトを、地域内外の経営資源を積極的に受け入れ、育て、経済的好循環にもつなげられているという点でも先進的である。

注1)ここでの「先進的」の考え方は、いち早く再エネの導入に取り組み、一定程度、地方創生や脱炭素に向けた成果が認められる地域である。ただし、調査をするなかで、再エネ導入先進地域と思われる地域でも、再エネの地域内自給率や経済的な地域内還元率はいまだ低水準であることも明らかになった。
注2)地域の積極的な地域内外連携プロジェクト推進の姿勢と実績が、さらなる地域内外連携プロジェクトを生む、という好循環も創り出している。
注3)図出典:西粟倉村の第1回脱炭素先行地域選定事業「2050“生きるを楽しむ” むらまるごと脱炭素先行地域づくり事業」提案書(2023年2月26日アクセス)

第1回「今注目される『地域脱炭素』とは」はこちら
第2回「地域脱炭素に必要な人材とは(1)」はこちら
第3回「地域脱炭素に必要な人材とは(2)」はこちら
第4回「欧州の地域・人材支援」はこちら
第5回「地域の実例にみる人材育成の鍵(1)」(この記事です)
第6回「地域の実例にみる人材育成の鍵(2)」はこちら

重藤さわ子 重藤 さわ子
英国ニューカッスル大学、農業・食料・農村発展学部にてPhD取得(2006)後、持続可能な社会への移行に関する多分野横断型の研究開発プログラム・プロジェクトや地域の主体的実践支援に携わってきた。専門は地域環境経済学。著書に『「循環型経済」をつくる』(共著、農文協、2018年)、『新しい地域をつくる -持続的農村発展論』(共著、岩波書店、2022年)ほか。