コラム・地域脱炭素と人材育成⑥ 〜地域の実例にみる人材育成の鍵(2)

地域の脱炭素化は地域にかかわるすべての人々の問題だ。
それぞれがもつ知見や資源を結集するためには
「コーディネーター的人材」の育成が鍵となる
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地方創生ゼロカーボンに向け
動き出した自治体

北海道釧路町では、地域脱炭素を地方創生の重要な機会と捉え、「釧路町ゼロカーボン実現戦略計画」の策定を進めてきた。ただし、庁内含め「ゼロカーボンを目指す=莫大な費用負担を要する」というイメージが非常に強く、地域の利害関係者等からも、費用負担の懸念から時期尚早と、比較的消極的な意見が多い状況であった。

そこで自治体の担当者は、地域脱炭素は今後も高騰するであろう燃料費を節約し、地域のなかで経済を循環させていくチャンスであり、脱炭素で稼ぐまちづくりへいち早く転換していくことの重要性を、地域の住民にも認識してもらい、官民一体となって取り組む体制をつくっていきたい、と強く願い、対話型フォーラムを実施することにした。

フォーラムの前半は、地域脱炭素の専門家が、学術の視点と地域で再エネ事業を展開する実務の視点から、地域脱炭素は新たな費用負担(コスト)ではなく、将来のための投資であり、前向きに捉えるべきチャンスであることを説明する内容、後半は、専門家が示すこれから進むべき方向と、現場が抱える課題や認識のギャップをどう埋めていけるのか、その対話のきっかけづくりとして、課題共有型円卓会議 注1)という手法をとることにした。具体的には、まず、自治体職員が「エネルギーを町内消費する仕組みをつくりたいが、行政の立場では、事業者の取組の状況や、やりたいと思う事業者のことがわからない」といった悩みを、登壇者に投げかけ、地域の様々な立場の登壇者や参加者が、その解決に向けて一緒に考える、といった会議形式である。

この会議の準備にあたっては、地域脱炭素は環境に良いことをしよう、ということだけではなく、将来稼ぐまちにするチャンスなのだ、というメッセージを伝えるべく、町の将来を担う、役場の若手職員が文言選びやデザインにこだわってポスターを作成し(図1)、参加者集めも地域の人々と直接対話できる大事な機会と捉え、地域内を駆け回り奔走し、多くの参加者を集めた(図2)。

図1 釧路町で2023年1月24日に開催した、脱炭素まちづくりフォーラムのチラシ

図2 釧路町脱炭素まちづくりフォーラムの様子

人材育成の鍵

釧路町のように、自治体が地域脱炭素を進めようとするなかで、市民や事業者の理解を得るのに苦労している地域もあれば、地域住民や事業者が率先して脱炭素に向けた取り組みを進めているのに対し、自治体がまだ及び腰である地域もある。また、地域外の大手企業との連携による自治体主導の地域脱炭素計画に対し、業者選定の不透明性が指摘されるケースもある。いずれにしても、「地域脱炭素」は地域の特定の主体が取り組むべき課題ではなく、地域社会全体の課題として取り組むべきものである。そこへ昇華させていくための近道はなく、今回紹介した対話型フォーラムのような地道な働きかけと戦略的仕掛け(プロジェクト化)の試行錯誤を重ねていくしかない。そして、それができる、コーディネーター的人材が地域には不可欠だ 注2)

注1)地域の「困り事」を、そのテーマにかかわる複数の利害関係者で意見交換するなかで、様々な事実・視点・評価・事例が提供され、地域の「困り事」は研ぎ澄まされ、「社会課題」へと昇華させることを狙ったもの。円卓会議の着席者は、テーマに基づき決定されるが、同時にテーマに関心のある方は誰でも参加できるオープンな会議方式。みらいファンド沖縄が推進する、沖縄式地域円卓会議が有名。
注2)第4回では欧州の中間支援組織の事例、そして第5回では西粟倉村の事例を通じ、地域におけるコーディネーター的人材の重要性を説明している。

重藤准教授による「脱炭素人材育成」のコラムは今回で最終回となります。
連載コラムバックナンバーは下記をご参照ください。

第1回「今注目される『地域脱炭素』とは」はこちら
第2回「地域脱炭素に必要な人材とは(1)」はこちら
第3回「地域脱炭素に必要な人材とは(2)」はこちら
第4回「欧州の地域・人材支援」はこちら
第5回「地域の実例にみる人材育成の鍵(1)」はこちら

重藤さわ子 重藤 さわ子
英国ニューカッスル大学、農業・食料・農村発展学部にてPhD取得(2006)後、持続可能な社会への移行に関する多分野横断型の研究開発プログラム・プロジェクトや地域の主体的実践支援に携わってきた。専門は地域環境経済学。著書に『「循環型経済」をつくる』(共著、農文協、2018年)、『新しい地域をつくる -持続的農村発展論』(共著、岩波書店、2022年)ほか。