コラム・地域脱炭素と人材育成① 〜今注目される「地域脱炭素」とは

メガソーラーイメージ

山肌にまで設置されたメガソーラー(イメージ画像) photo by Adobe Stock

脱炭素を巡る動きが活発化している。特に地域脱炭素については、2050年カーボンニュートラルに向けて、国・地方の双方の行政府のあらゆる政策分野において、脱炭素を主要課題の一つとして位置づけ、必要な施策の実行に全力で取り組むとされ、様々な支援策が講じられている。

筆者はこれまで10年以上にわたり、温暖化対策を地方創生と一体的に取り組むことの重要性を論じ、様々な地域の取り組みにもかかわってきた。そのなかで、最近にわかに政策的にも熱を帯びてきた地域脱炭素について、「なぜ脱炭素に取り組む必要があるのか」「住民にどのような利点があるのか」、脱炭素をまだ自分事として理解しきれず戸惑う地域の状況も目の当たりにしている。

本コラムでは、そのような状況を踏まえ、改めてなぜ地域で脱炭素が必要なのか。また、それを実現するうえで必要となる人材、またその育成に向けた課題や今後とるべき方策について論じることとする。

脱炭素においてなぜ地域が重要なのか

脱炭素を達成するには非常に単純で、地域でできる対策としては、主に以下の3つしかない(注)。

① 省エネルギー(EV化、住宅の断熱・蓄熱〔ZEH化〕、産業の省エネ)
② 創(再生可能)エネルギー(太陽光・太陽熱・バイオマス・風力・バイオマス)
③ エネルギー転換(脱化石燃料:脱石炭・石油・LNG)

②の再生可能エネルギー(以下「再エネ」とする)は、その大半が地方に存在する。また、省エネもすれば、地域で使うエネルギーを地域で創られた再エネに転換し、自給してもあり余るほどの再エネポテンシャルを持つ地域が多く、全国的に再エネ導入率を高め、脱炭素の実現につなげていくためにも「地域」の対策が非常に重要なわけである。

地域における脱炭素のメリットはなにか

農村地域では、戦前は薪炭を中心に、エネルギーの多くを自給していた。戦後の急速な電化と需要増を背景にエネルギーは地域の手から離れ、どこかから供給してもらうもの、という時代が長く続いたが、温暖化という地球規模課題を受け、地域の未利用資源である再エネが改めて見直されるようになっている。再エネは、別名「分散型エネルギー」といわれる。それは、天然ガスや石炭等の化石燃料や原子力による発電が出力50〜100万kW台の集中型の発電であるのに対し、メガソーラーや風力(ウィンドファーム)でも数万kWどまりであり、発電所が地方の農村部に多く存在し、地産地消に向いているからである。そのため、うまく活用すれば、一部大規模水力などを除き、地域資源活用による新産業振興や地域活性化、雇用創出など、地域内経済循環効果にもつながる。

しかし、「うまく活用する」のとは程遠いというのが多くの地域の実態である。次回はその実態も踏まえ、地域脱炭素に必要な人材について考えてみたい。

注)その他、CO2分離回収・隔離なども言われているが、日本においては経済性の観点で難しいと考えられる。

第2回「地域脱炭素に必要な人材とは(1)」はこちら
第3回「地域脱炭素に必要な人材とは(2)」はこちら
第4回「欧州の地域・人材支援」はこちら
第5回「地域の実例にみる人材育成の鍵(1)」はこちら
第6回「地域の実例にみる人材育成の鍵(2)」はこちら

参考文献:日興リサーチレビュー「主要なCO2分離・回収技術とコスト的課題」2022年4月

重藤さわ子 重藤 さわ子
英国ニューカッスル大学、農業・食料・農村発展学部にてPhD取得(2006)後、持続可能な社会への移行に関する多分野横断型の研究開発プログラム・プロジェクトや地域の主体的実践支援に携わってきた。専門は地域環境経済学。著書に『「循環型経済」をつくる』(共著、農文協、2018年)、『新しい地域をつくる -持続的農村発展論』(共著、岩波書店、2022年)ほか。