GIGAスクール元年がスタート 課題は日常化・ネットワーク・クラウド

2021年4月から、いよいよ全国の小中学校で1人1台端末の学びがスタートする。GIGA スクール元年といわれる2021年度において端末利活用の課題は何か。そのカギは端末利用の日常化、ネットワーク環境の整備、クラウドアプリ・サービスの活用が指摘されている。

コロナ禍でオンライン教育の経験を積み、活用する教育機関

2020年2月末にコロナ禍により、一斉休校の要請が出て1年が経過した。オンライン教育には大きく分けて、(1)同期型、(2)非同期型、(3)ハイブリッド型の3つの形があるが、学校種を問わず、多くの教育機関は、試行錯誤を経て、オンライン教育を実践した(図1参照)。大学をはじめ高等教育機関では、対面授業とオンライン授業の両方を現在も実施しているところも少なくない。

図1 オンライン教育の全体像

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一方、学校教育に目を向ければ、約3か月に及ぶ休校を経て、対面授業に戻った後もオンライン教育の経験は、日常の教育の中に根付いている。新潟県の上越教育大学附属中学校では、コロナ禍でのオンライン教育を糧に、大雪時の休校や入院などで通学が困難な生徒が出た時にはオンライン教育に切り替えるなど、その経験を活かしている。

確かに、現在(2021年2月19日)も、昨年4月の緊急事態宣言以来、東京都を含む1都2府7県が2度目の緊急事態宣言の最中にある。コロナ禍に限らず、今後も様々な事情で一時・長期的に登校できない子ども達や、災害等で登校できない事態を想定すれば、切れ目なく全ての子ども達の学びの機会を確保する上で、オンライン教育の浸透を求める声は高まっていくと予測される。

GIGA スクール元年の始まり 利活用の課題は日常利用化

文部科学省は2月10日、1人1台端末の安全・安心な利活用に向けた、萩生田光一大臣の動画メッセージを配信した。

動画で萩生田大臣は、パソコンやタブレットは子ども達にとってマストアイテムであり、コロナ禍で学びを保障するために ICT を積極的に活用することは重要とした上で、2021年4月から日本の公立小中学校で1人1台端末環境下での新しい学びが本格的にスタートする「GIGA スクール元年の始まり」を宣言した。

端末を死蔵化・文鎮化させず、利活用するためには、授業・校内に限らず、自宅等でも日常的に使える環境整備が重要となる。しかし全く野放図に子ども達の自由に任せたままでは端末活用は必ずしも学びには向かわないだろう。一方、端末利用のルールを厳格化し、子ども達に遵守させようとすれば、モチベーションも下がり、日常的な活用も遠ざかってしまう。

米国では、近年、情報端末を渡す際に、どの様な使い方が期待され、どの様な目標に達するべきかといった考え方のもと利用許諾方針に、子どもと保護者の署名を求める流れが起きている。この一環として、子ども自身が、情報端末としての善き使い手となる知啓を学ぶデジタル・シティズンシップ教育が注目を集めており、日本での活用が期待される。

端末活用に向けた環境整備に関して、県と市町村で端末を共同調達した奈良県では、5~7歳の子ども約200人を対象に iPad と Chromebook を5日間貸し出し、保護者から、その様子の報告を受けるといった実証活動を通じて、小学校低学年の子どもでもパスワードを自分で決めて自分で入力できるか確かめるなど、端末の「持ち帰り」を前提とした環境整備を進めている。

端末利活用のカギを握る、ソフト・ハード面の整備

GIGA スクール構想は1人1台端末と校内ネットワーク環境の整備が中心だった。今後、1人1台環境のもと地域や学校の児童・生徒が一斉にインターネットにつないだ際に、通信トラブルが起きる可能性もあり得る。

特に、各学校から回線を一旦集約してインターネット接続する方法(センタ集約型)を採用する自治体は多く、一斉にネットに接続した際に、回線を一か所に集約するとサーバーに大きな負荷がかかり、インターネット回線が遅延する可能性がある。

そこで、文部科学省では、令和2年度第3次補正予算において、学習系ネットワークを学校から直接インターネットへ接続する方式(ローカルブレイクアウト)に改めるための整備にかかる費用を支援する予定だ。各方式でのセキュリティ面での比較検討は必要だが、学習系のネット―ワークは、今回の支援施策を後押しに改修を検討するのも選択肢の一つといえる。

政府の支援策の他に、自治体の ICT 機器の賃貸借期限も学校の ICT 基盤を見直すタイミングとなる。埼玉県の鴻巣市教育委員会も上記の背景もあり教育 ICT 環境強化の動きが本格化し、現在では、教育 ICT 基盤のフルクラウド化を実現している。

ハード面の他に、ソフト面でどういったクラウドアプリ・サービスを利用するかは端末の利活用に直結した課題といえる。

経済産業省の WEB サイト「未来の教室」には、151件の EdTech サービスが登録されており、多種多様化が進んでいる。こうした様々なアプリ・サービスが広がる中で、アプリ・サービスのカテゴリーを視覚化し、分類したカオスマップを公開する企業・団体等もあり、導入の際は参考にできる(図2参照)。

図2 主な学習者用 EdTech サービス

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文部科学省が2019年12月に GIGA スクール構想を打ち出した当初は、2023年度までに1人1台端末環境を整備する予定だった。しかし、新型コロナウイルスの影響でスケジュールの大幅な前倒しが決定された。これにより教育現場には大きな負荷がかかったことは否めないが、個別最適化した学びや協働的な学びの実現において1人1台端末環境は大きな可能性を秘めている。

ICT を活用する先行事例の情報発信による横展開が今後、一層期待される。