コラム・教育の未来構想④ ~ウェルビーイング教育は有効か?~

前回の記事では、ウェルビーイングとは、幸福を測るための構成概念であり、身体的・精神的・そして社会的に完全に良好ですべてが満たされた状態のことであることを説明した。今回の記事では、ウェルビーイングに関する研究について紹介する。 

Alejandro Adlerらによるウェルビーイング教育に関する研究

Alejandro Adlerらは、ウェルビーイング教育に関する研究でブータン、ペルー、メキシコをフィールドとして、①大規模にウェルビーイングについて教えることはできるだろうか、②学校で教えるべきだろうか、③ウェルビーイングについて教えることは学業成績を向上させるだろうか、についての実証実験を行なった。

ブータンでの実験では、国民総幸福量(GNH)の原理に基づいたGNHカリキュラムという教育システムを構築し、このGNHカリキュラムを実施する介入群と、プラセボ効果によるプラセボGNHカリキュラムを実施する統制群とで、一重盲検法による比較実験を15ヶ月間行った。データ分析の尺度についてはEPOCH尺度(Engagement, Perseverance, Optimism, Connectedness, Happinessの5つで構成されている尺度)を開発して分析を行っている。

実験の結果、カリキュラム導入後の介入群の平均EPOCHスコアは大きく上昇し、またカリキュラム終了から12カ月後も高いEPOCHスコアを保っていることがわかった。またGNHカリキュラムは学業成績も有意に向上させたということもわかった。同様の実験をペルー、メキシコでも実施したところ、ブータンと同様にGNHの原理に基づいたカリキュラムを受講した介入群の方がEPOCHスコア、学業成績ともに向上したことがわかった。

このことから、ウェルビーイングと学業成績には因果関係があり、幸福度が上昇することによって学業成績も上昇することが証明された。詳細な研究成果については「Teaching Well-Being increases Academic Performance」の論文にまとめられている。

ウェルビーイングの5つの重要な要素について

米国のGALLUP社の研究者らは、個人の幸福に関する包括的な尺度を構築するために、過去50年にわたり行ってきた質問の中から最適なものを選び、Well-Being Finderという評価軸を設計した。このWell-Being Finderを作成するために国や言語、生活状況が大きく異なる地域などで数百の質問で構成されたテストを実施した。その結果、5つの異なる統計的要因が明らかになった。

①Career Well-Being(キャリアの幸福):自分の時間をどう使うか、あるいは毎日行っていることは好きか。
②Social Well-Being(社会的幸福度):人生において強い人間関係と愛情を持つこと。
③Financial Well-Being(経済的な豊かさ):経済生活を効果的に管理すること。
④Physical Well-Being(身体的な健康):健康で日常的に物事を成し遂げるのに十分なエネルギーを持っていること。
⑤Community Well-Being(地域幸福度):住んでいる地域との関わり合い。 

調査した中で66%の人がこれらの要因の少なくとも1つでうまくいっている一方で、5つの要因すべてで成功している人はわずか7%であるという結果であった。この5つの要因すべてで効果的に生活しない限り、人生を最大限に活用することはできないとされている。

コラム・教育の未来構想① ~マイクロクレデンシャルの普及~

コラム・教育の未来構想② ~ナノディグリーへの取組み~

コラム・教育の未来構想③ ~ウェルビーイングを高める教育とは?~
22.11.8news1

画像はイメージ。Photo by mc_noppadol /Adobe Stock 

★画像名 河合孝尚
事業構想大学院大学教授。静岡大学大学院理工学研究科博士課程修了。情報学博士。2022年4月1日より事業構想大学院大学教授として着任。経済産業省安全保障貿易自主管理促進アドバイザーや他大学の講師等を兼任。これまでに大学におけるリスクマネジメント等に関する実務を多数行ってきた。また教育研究活動として、Well-being教育や、研究公正教育等の教育システムに関する研究を行っている。主な研究分野は、教育情報学、研究インテグリティ、リスクマネジメントなど。