リスキル・リカレントとは? 次の社会と産業を担う人材に求められる力を養う

報道でも多く見るようになった「リスキル」と「リカレント」。人生100年時代の今、生涯にわたる活躍が求められる社会になったことで、陳腐化する知識やスキルを更新する必要が生まれている。組織やその中で働く個人はどう対応していくべきだろうか。(編集部)

あらゆる場所にデジタルが
ある時代を生きる

新型コロナウイルス感染症の拡大により一気に社会のデジタル化が進んだことで、職場ではデジタルツールを使用したオンライン会議やリモート勤務が浸透し、最近では「メタバース」と呼ばれる仮想空間上での交流を楽しんだり、ビジネスの場で活用しようという動きもあって、暮らしの中でオンラインとオフラインの境目が曖昧になりつつある。

従来から言われてきた社会のデジタル化が、図らずもコロナ禍によって急速に進んだ格好であり、教育機関や企業、そして個人がこの急激なデジタル化にどう適応していくかが問われている。

こうした流れの中で、デジタル化する社会に対応して教育やビジネスなど、あらゆるもののあり方そのものを変革していく動きが「デジタル・トランスフォーメーション(DX)」だ。デジタル技術が基盤となる社会を生きるためにはこれを理解し、使いこなすことが必要であり、今「IT・デジタル人材育成」「再教育」といった取り組みに注目が集まるのにはこうした背景がある。本特集(こちらの記事)で取り上げたように、IT業界を中心とした先進企業ではすでに大規模なリスキルに着手しているが、リスキルを実施している企業とできていない企業の二極化が起きていると指摘するのはリクルートHR統括編集長の藤井薫氏だ(こちらの記事)。背景には、経営層のDXへの理解不足や、自社のDXによる将来ビジョンの不在があるといえる。

人生100年時代において、リスキルとリカレントは誰もが取り組む必要性がある

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「リスキル」「リカレント」とは?

ここで改めて、「リスキル」と「リカレント」についてその定義を確認しておこう。

セットで扱われることの多いリスキルとリカレントだが、リスキルはこれまでに身につけてきた職務スキルを時代や産業構造の変化にあわせて新しく習得し直す、またはアップグレードすることであり、リクルートワークス研究所 人事研究センター長/主幹研究員の石原直子氏は、経済産業省に提出した資料の中で「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」と説明している。

一方のリカレントは、職場を離れて大学院等の教育機関で学び直すことであり、総合科学技術・イノベーション会議有識者会合において内閣府が提出した資料では、①生活の糧を得るためのリカレント教育、②さらなる社会参画のためのリカレント教育、③知的満足(文化・教養)のためのリカレント教育、の3つに細分化されている。特に産業領域や、「人生100年時代」といわれる中で個人が働き続けるという文脈では、リスキルと②に分類されるリカレントへの取り組みが重要となる。リカレント教育に関しては個人がいったん職場を離れ、自分で費用を賄うケースが多い。自身のキャリアを描く際には資金面での計画も必要で、この点を議論した社会情報大学院大学のセミナーの内容を紹介する(こちらの記事)。

図 リスキルとリカレント

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経営者はリスキル・リカレント
にどう向き合うべきか

経営者や教育者、人材育成に携わる者は、これからの人材施策をどのように考えればよいのだろうか。

「世の中から卒業をなくす」をビジョンに掲げ、学び続ける社会の構築を目指す教育ベンチャー・Schoo(スクー)代表の森健志郎氏は、急速なDXの中で人材は枯渇しており、外部から人材を獲得するという狩猟的な方法が通用しなくなってきていると指摘する(こちらの記事)。外部から人材を採用するコストと、組織内の既存人材を育てるコストが逆転しつつあるのが現在で、現在さまざまな企業がリスキルに踏み切っている理由もここにあるといえる。

キャリア構築と
リスキル・リカレント

どのようなスキル、専門知識を身につけるかという問題は、個人のキャリア構築の問題とも密接に関係する。最近はデジタル技術に比較的なじみの薄いミドル・シニア層のリスキルをいかに進めるかに注目が集まっているが、40〜50代の管理職研修を多数行っているコンサルタントの前川孝雄氏は「何とか身につけさせよう」という視点でのリスキル施策はうまくいかないと指摘する(こちらの記事)。20〜30代の若い世代では自身で主体的にキャリアを組み立てていく「キャリア自律」の考えが浸透しているが(本誌2022年1月号こちらの記事)、ミドル・シニア世代においても会社に頼らず自身のキャリアを描いていくことが求められる。

DXに対応したリスキル・リカレントと言われると、新規のデジタルスキルを身につけることを考えがちだが、重要なのはこれまでの職業人生で積み上げてきた経験値や知見を棚卸しし、次の時代にどう生かすかを考えること。この視点で役立つのが「アンラーン(Unlearn、学びすて・学びほぐし)」の考え方だ。東京大学教授の柳川範之氏は、アンラーンはこれまでの知識を忘れることではなく、「考えの癖」をとることと語る(こちらの記事)。新たな発想やイノベーション創出にも欠かせない、今後の学びのキーワードだ。

キャリア構築の観点では、現在の学校教育で取り組まれている「キャリア教育」も大いに参考になる(こちらの記事こちらの記事こちらの記事)。学習指導要領にも記載された「キャリア・パスポート」を活用したキャリア教育とは、は単なる職業体験などではなく、自分のこれまでの歩みを振り返ることで自身の強みや特性を自覚し、将来ビジョンにつなげるもの。教育現場での取り組みが進むことで、主体的に将来を考え、自分に必要な学びを選び取っていく人材が増えていくことだろう。完全オンライン大学のmanagara(こちらの記事)が若年層を中心に注目を集めていることからもこうした傾向がうかがえる。

「学び続ける人材」を
いかに育てるか

新規採用と人材育成のコストが逆転し、常に知識やスキルを更新していなければ価値を生めなくなった時代に、組織はどう「学び続ける人材」を育てていくべきだろうか。

本特集では、前に挙げた概観理解に加え、企業内リスキル(こちらの記事)や、地域全体での学びの環境整備(こちらの記事)、また女性(こちらの記事)や教員(こちらの記事)といった属性に応じたリカレント教育のあり方を通じて、時代の変化に適応し続けるための学びのあり方を考察する。