実践教育プロジェクト演習④ 知識の伝達能力を持続的に向上させるために

「実践知のプロフェッショナル」人材を養成すべく、2021年4月、社会情報大学院大学でスタートした実務教育研究科。今回は「実践教育プロジェクト演習」を紹介する。

実践教育プロジェクト演習
で取り組んだこと

藏田 實

社会情報大学院大学 実務教育研究科 教授。専門分野は教育行政学、英語教育学、教育方法論。
担当科目は、教学マネジメントの理論と実践、探究演習(学校経営デザイン)、実践教育プロジェクト演習。

伴野 崇生

社会情報大学院大学 実務教育研究科 准教授。
専門分野は文化心理学、成人教育学、難民研究、コミュニケーション教育。担当科目はインストラクショナル・デザイン、アンドラゴジー、実践教育プロジェクト演習等。

廣谷 貴明

社会情報大学院大学 実務教育研究科 専任講師。
専門分野は教育学、教育行政学、教育政策。担当科目は教育学基礎理論、現代教育政策、実践教育プロジェクト演習等。

本連載の第2回から第4回にかけて、実践教育プロジェクト演習について、3名の授業担当教員が順番に授業の目的や内容について解説した。本稿では実践教育プロジェクト演習を通年で実施し終えた現段階で、今年度、どのような取り組みを行ってきたかについて紹介する。

実践教育プロジェクト演習は、受講者である大学院生がもっている実践知の伝達能力の修得・向上を目的に展開されている科目である。この目的の達成のため、①シラバスまたは研修設計書の作成、②作成したシラバス・研修設計書のうち1回分を取り出した授業計画、研修計画の作成、③それらに基づいた模擬授業・模擬研修の実施、④模擬授業・模擬研修のリフレクション(ふりかえり)を実施した。教員からの基礎的知識の解説を受けて、これらの4つの技法に関して各院生が実践した。

図:実践教育プロジェクト演習の進行イメージ

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具体的な授業進行のイメージは図の通りである。本稿では、特に院生それぞれが実務の中で培ってきた実践知の伝達能力を向上させる手段としての模擬授業・模擬研修について紹介する。

多角的な視点から
フィードバックを受ける

今年度は1回当たりの模擬授業・模擬研修の長さを60分と設定し、1人2回ずつ実施した。1回目は、各受講生が、他の受講生と教員を対象として模擬授業・模擬研修を実施し、教員からおよび受講生同士によるフィードバックを受けた。受講者はフィードバックをもとに、自らの教育実践の改善点を洗い出し、2回目の模擬授業・模擬研修に向けた準備を行った。

2回目の模擬授業・模擬研修では、1回目とは異なり、院生の模擬授業・模擬研修テーマに関して実務上または学術上の専門的な知見を有する方を外部講師として招聘した。例えば、ホテル経営に関する模擬授業を実施した院生は、ホテルについて学ぶ専門学校の先生を、プロジェクトマネジメントに関する模擬研修を実施した院生は、他業種でプロジェクト管理を担当している実務家をそれぞれ招聘した。

このように実践教育プロジェクト演習は、普段の実務で行う教育・研修では、接する機会がない方(院生、教員を含む)からも、自らの教育実践に対してフィードバックが受けられるという点が大きなメリットである。それぞれの専門性に基づく、多角的な視点からのフィードバックを受けることによって、日常の実務からだけでは気づくことのできなかった新たな発見ができるのである。実務家教員や研修担当者は、授業や研修の内容を初めて聞く学習者にわかりやすく伝えることが求められるが、切磋琢磨する院生同士、教員、そして外部講師からフィードバックを受けることで自らの教育実践の良さやわかりづらさについて整理でき、改善につなげることができる。

実践教育プロジェクト演習
から今後の教育実践へ

ここまで実践教育プロジェクト演習の特色について解説してきたが、この授業を受けることで「完璧な」「誤りのない」教育ができるようになるかと言われればそうではない。社内研修、授業、後輩指導等、どのような教育場面であっても、教育には常に不確実性が伴う。教育実践の対象も環境も、全ては状況によって変化するため、何か特定の状況でうまくいった教育方法があったとしても、それが次の異なる状況でもうまくいくとは限らないからである。では、どうするべきか。十分な準備を行った上で、その場の状況にあわせて柔軟に対応し、そこで得られた経験を次の教育実践に活かす。そのための知見や観点を蓄積していくことこそが求められていると言えるだろう。

この授業では、実践を通じて知識の伝達能力を高めることはもちろん、フィードバックやリフレクションを通じて自らの教育実践について整理したり改善したりできる力も高めることができる。この授業を通じて得られた能力は、多くの教育場面で応用・活用できるものである。院生は、この授業の受講を通じて学んだ観点や自ら蓄積していった知見をもとに、今後の教育実践をさらに発展させていくことになるのである。

社会構想大学院大学