探究演習―知識のフォロワーから知識のリーダーへ―

「実践知のプロフェッショナル」人材を養成すべく、2021年4月、社会構想大学院大学でスタートした実務教育研究科。最終回となる今回は「探究演習」を紹介する。

実務教育研究科のなかの
探究演習

川山 竜二

川山 竜二

筑波大学大学院人文社会科学研究科にて社会学を専攻。専門学校から予備校まで様々な現場にて教鞭を執る実績をもつ。教育事業に関する新規事業開発に対するアドバイザリーも行う。

実務教育研究科では、「知の理論」、「探究基礎演習」、「実践教育プロジェクト演習」、そして「探究演習」が必修科目である。したがって、本研究科を修了するためには、この「探究演習」を2年次の通年で必ず履修しなければならない。探究演習では、修了要件となる「専門職学位論文」を書き上げることが主な授業内容となる。ひらたくいえば「ゼミ」に相当する科目だ。

探究演習は、「探究演習(知識社会学)」、「探究演習(学校経営デザイン)」、「探究演習(インストラクショナル・デザイン)」など院生は自身の問題関心に応じて履修したい演習を選択することになる。各分野を専門とする教員から授業や個別面談型の指導の場で学びながら二人三脚で専門職学位論文を書き上げていく。

また、本研究科では複眼的な視座で専門職学位論文を書き上げることを推奨しており、探究演習は2科目まで履修することができる。当然のことだが、履修していない演習の教員でも専門職学位論文の相談には快く応じてくれる。

専門職学位論文を書くこと

探究演習は、さきほど述べたとおり専門職学位論文を書き上げることを目的としている。そもそも専門職学位論文とは何かを説明しておこう。実務教育研究科は、専門職学位課程の研究科、すなわち専門職大学院である。専門職大学院は、一般大学院(修士課程)と異なり、修士論文を必須とはしていない。しかし本研究は、修士論文のかわりに専門職学位論文の執筆を修了要件に課している。

わざわざ専門職学位論文と銘を打っているので、修士論文とは違うものを目指している。だからといって、修士論文より質が落ちたものであるということを意味しているわけでもない。これまでに見落とされてきた実践知を掬う論文。簡単にいえば、いかに実践にせまり、いかに他者に説得的でありうるのかということを目指すものである。そして大切なことは、自らが生み出した知識をどこに位置づけることができるのか、そしてどのように実社会で役立たせることができるのかという視点である。

実践的な知識を対象とする専門職学位論文では、それぞれの院生の問題関心や実践の領域にもとづいて多様なテーマで執筆することが可能となる。たとえば、営業の実践知を言語化することをテーマにしたり、あるいは院生自身が教員であり、その勤務経験に基づいた教員の働き方をテーマにしたり、コンサルティングの知見を体系化したりと多様である。これはダメというテーマはない。

このように様々な問題関心にもとづいて、院生はそれぞれの観点から意見やアイデアを出し合い、新鮮で自分では気づかない発見を得ることができる。

専門職学位論文を執筆することに不安を感じている方もいるかもしれない。だからこそ、1年次では探究基礎演習、そして2年次では探究演習を通じて専門職学位論文を書くことに専念した科目を配置していると言える。もちろん、執筆作業は一筋縄ではいかないかもしれない。しかし、専門職学位論文を書くことは、自分がこれまでにモヤモヤしていたことをしっかりとカタチにすることを意味する。それは自分自身がこれまで何をしてきたのか、そしてこれから何をすべきなのかという確固たる自身のよりどころとなるはずだ。そして書き上げたときの達成感はなにものにも代えがたい。自分自身で紡ぎだした知なのだから。

探究演習は、これまで学んできたことや経験してきたことをしっかりと他者に伝えていく礎を築く授業、言い換えれば「知識のフォロワー」から「知識のリーダー」へ進化するための科目なのだ。

実際の演習

実際の演習では、どんなことをしているのかを紹介して終えよう。私は探究演習のなかでも、新たな知識体系を構築する、実践知の形式知化(実践の理論化)の領域を主たるテーマに掲げている。基本的には、それぞれの専門職学位論文の進捗や課題点や議論したい点を毎回3人くらいの履修生が発表する。私が担当している演習で特徴的なのは、演習の進行もできる限り履修者に任せていることだろう。そうすることで実地のファシリテーション能力が身につくというわけだ。

発表担当者ではない履修者は、なんでもよいので必ず履修者に対してコメントをすることにしている。それだけではなく、発表者以外の履修者も、プログレスレポートという毎回それぞれの進捗状況をA4サイズ1枚程度にまとめてくる。こうした進捗管理を履修者同士で行い切磋琢磨している。

実務教育研究科は、2年間の専門職学位課程です。本課程には、実務家教員や研修講師を目指す方、組織の教育体系を整備したい方、新たな教育プログラムや教育事業の開発を目指す方などが学んでいます。これまでの自身の実務経験を体系化し、新たな知として昇華させ、次世代につなげていくための学びを提供しています。現在、2023年4月入学に向けた出願を受付中です。説明会やセミナーも開催しておりますので、ぜひご参加ください。

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