教育学基礎理論―教育の根源的意義を理解した実践のために
「実践知のプロフェッショナル」人材を養成すべく、2021年4月、社会情報大学院大学でスタートした実務教育研究科。今回は「教育学基礎理論」を紹介する。
「教育学」とはそもそも何か?
廣谷 貴明
本稿では、社会情報大学院大学実務教育研究科の基礎科目である「教育学基礎理論」について紹介する。
「教育学」というと、読者はどのようなイメージをもつであろうか。効果的な教育方法の在り方を考える、そもそも教育とは何かを考える、学習者の心理を理解する、教育の効果を研究する等々、考える人によって多様な回答が導き出されることが考えられる。多様な回答が考えられるが、上記の回答はいずれも教育学に含まれる。教育学とは「教育」をフィールドとして、多角的な視点から研究が行われる学問領域であり、研究者によって教育哲学、教育方法学、教育心理学、教育行政学等、専門が分かれていく。
さらに「教育」というと学校教育が想起されやすいが、家庭教育や企業内教育、社会教育等、様々な場所で行われるという多様性もある。このような様々な場所における教育も、それぞれ研究の対象となる。
実務教育研究科の
教育学基礎理論の特徴
このように教育学は2つの多様性があり、それゆえに研究領域が幅広い学問分野である。「教育」と一言で言っても考えることは多々あり、教育学の基礎的な理論に関する授業を行う際には、その幅広さをまとめる必要がある。
実務教育研究科の教育学基礎理論では、ディプロマポリシーに位置づけられている「実務領域にかんする教育・人材育成を行う高度専門職業人たる実践知のプロフェッショナル」の育成を目指して、次の2点を意識した授業を行っている。
第1に、教育の意味や意義、人間という存在の特質を理解したうえで、教育の方法や評価について考えるという授業構成にしていることである。教育を考えるうえで、もちろん効果的、魅力的な教育方法の理論を修得し、実践に移すことも1つの重要な要素である。
ただし、効果的、魅力的な教育方法を考える前提として、教育とはそもそも何なのか、なぜ必要なのか、そして人間とはそもそもどのような存在なのかを理解しておくことは、教育実践の質向上のために重要な意味をもつ。例えば、人間である学習者が、学習プロセスでつまずく場面があった際、教育者が学習者の思考が汲み取れるか否かによって、教育の在り方は変わってくることが考えられる。学習者の思考を理解できるならば状況に応じた実践が可能となるが、理解できなければ実践が、教育者の価値観に基づいた、一辺倒なものになりやすくなる。
このような思考能力は、日常的な思考がないと獲得が難しい。そのため、教育学基礎理論では毎回学生同士のディスカッションの時間を取り入れ、教育の意義、方法、評価等をテーマとしてグループで議論し、他者との対話を通じて思考を深めることを目指している。
第2に、幅広い人間関係で応用可能な理論について取り扱っていることである。実務教育研究科では、実務の領域を問わない多様な学生が在籍している。学生の実務の領域が多様なため、学校、家庭、企業等、特定の場所でしか応用できない理論ではなく、それぞれの場所で応用可能な理論について紹介し、実践に役立てることができるような工夫をしている。
授業構成のイメージは図の通りである。
教育学の理論を学ぶことの意義
教育学の理論を学ぶことは、自身が教育において未知の場面に遭遇した際、理論に当てはめて物事を考え、実践するための1つの手助けとなる。理論とは、過去の調査データに基づいて構築されたものであるため、未知の出来事が起こったとしても、理論に基づいた実践を行うことで、問題が解決できる確率は高くなる。
そして、理論を学び、成功する確率を高めるための技法を修得することと同時に、理論に対して違和感を覚えることができるようになることも理論を学ぶことの意義である。時に理論だけでは解決できない問題も存在する。その時に覚える違和感は、実際に教育という実務に携わっているからこその違和感であり、実務経験から学術理論の修正を迫るきっかけになる。そのような学術理論の修正は学術的にも、社会的にも重要な意義をもつ。
教育学基礎理論を通じて、教育に関する理論の修得、及び違和感を覚えること、この2つの経験により、学生が学術領域にも、実務領域にも貢献できるような高度専門職業人となってほしいと考えている。