2030年の教育サービスをデザインする

受験を中心に発展してきた教育サービスに変化が起きている。2030年に向けて教育サービス業界ではどんな変化が起きているのか。社会情報大学院大学実務教育研究科で「現代の教育事情_教育サービスの現状と未来」を担当する著者が、その実情に迫る。

大学入学者選抜の変化

山田 未知之

山田 未知之

2005年、教育サービス業界専門誌『月刊私塾界』(毎月5,000部発行)を発行する株式会社私塾界(全国私塾情報センター)に入社。2008年、取締役に就任。2010年、同社創業者である父・山田雄司が急逝し、副社長に就任。2012年10月より現職。教育サービスのあり方や業界への想い深く、全国約2,000社におよぶ学習塾のサポート役として、月刊誌の発行を通して経営情報の提供をするほか、各地で研修・セミナーを実施している。『月刊私塾界』発行人 兼 編集長。
私塾界オフィシャルサイト www.shijyukukai.jp

小学校のお受験からはじまり、中学受験、高校受験、大学受験、就職活動、資格試験と、日本国内で生きていくうえで、こういった試験は人生のどこかしらで遭遇する、節目のライフイベントとして定着してきた。

そして、試験の目的やあり方が日本特有の進化を遂げてきたことから、その試験を突破するための受験対策の学習塾や予備校といった教育サービス産業が、この40年あまり発展を遂げてきた。

ところが、それまで知識量や処理速度をおもに測ってきたこれまでの試験のあり方を見直し、思考力や判断力、表現力を問う試験にシフトしようという動きも、ここ数年で起こりはじめている。2020年度からスタートした大学入学共通テストが目指している大学入試改革のゴールもまさにそこにある。実際に、一般選抜に頼る従来型の入試から、以前はAO・推薦と呼ばれていた、総合型・学校推薦型選抜による個の才能や能力、学習・研究の目的(志望理由)といった、一人ひとりが持つ異なるバックグラウンドを評価する入試が近年増加傾向にある。

例えば、2021年度の大学入学者選抜では、募集人員全体に占める総合型・学校推薦型選抜による入学者の割合が、国立大学で18.9%、公立大学で29.6%、私立大学においては57.3%(数値はいずれも文部科学省『国公私立大学入学者選抜実施状況』による)でいずれも過去最高となり、今後もその割合は増していくとみられている。

受験一本槍からの脱却

入学者選抜の方法が変わっていくということは、当然それに向けた対策も変わっていくことを意味しており、かつては一般選抜一本槍だった受験産業も、少子化や進路選択の多様化・細分化に合わせて変化を求められていることは言うまでもない。

その方策のひとつと言えるのが、幼児教育ならびに、小学校低学年への教育サービスの提供だろう。

実際に、株式公開をしている学習塾を主たる事業としている企業の中には、幼稚園や保育園をはじめ、幼児教室へと事業を拡大している企業も少なくない。

そこでは単なるお預かりに留まらず、小学校のお受験対策といった、これまで一部の幼児教室などで見られたスーパーキッズを生み出すためのハードな英才教育に偏ることなく、学習塾で培った様々な教育メソッドを提供しながら、小・中・高とさらにその先の成長まで見据えた、伸びやかな幼児期の教育活動を実践しているケースも見られる。

また、小学校低学年には、民間の学童保育という形でサービス提供を行い、ワンストップであらゆる習い事が受けられたり、家庭学習のサポートをするなど、共働き世帯の保護者にとって、子育ての不安を解消するためのソリューションを提供している。

読解力を伸ばすカリキュラム

そして、小学校の中学年から高学年にかけては、2020年度から施行されている新学習指導要領で掲げられている思考力・判断力・表現力を育むための取り組みが既にはじまっている。それは、国立情報学研究所 社会共有知研究センターの新井紀子センター長の著書『AIに負けない子どもを育てる』でも、これからの時代を生き抜くためには読解力が必要と指摘されるように、その読解力を伸ばすためのプログラムとして、読書を習慣化したり、新聞のコラムを要約したりといった日々のトレーニングや、SDGsカリキュラムという円盤形の教材を使い、初めて出逢う課題に対応するための即興力や表現力を養成するための授業の提供も始まっている。

プログラミング教育の可能性

これからの社会人に求められるプログラミングのスキルも、より早い段階で身につけられる教材が続々と登場している。そういった教材を学習塾が導入し、生徒に対してこれまでの国語・算数・英語・理科・社会といった教科学習にプラスして指導している。これは、2022年度から高等学校の学習指導要領の改訂にともない「情報」科目が必修化されることが理由の一つであり、2025年度の大学入試から「情報」の試験がスタートすることも見据えた取り組みでもある。

ところが、小学校段階でプログラミング教育を受けはじめた子供たちは、一般選抜のレベルを遥かに凌駕したレベルでプログラミングのスキルを身につけるケースも出てきている。

そういった観点から、教育の早期化がもたらす子供のスキルアップへの影響は大きく、これまでのように受験をゴールとしない教育サービスの提供は、提供側にとってもLTV(顧客生涯価値)の増大や顧客単価のアップに繋がることは疑う余地はない。

そして、今後予測できることとして、対象年齢の拡大が進み、新たな顧客層を獲得することで、これまでの学習塾の概念を超えた新たな私塾としての価値提供が可能になるのではないだろうか。

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