実践教育プロジェクト演習③、実務家教員の質保証に向けて
2021年4月、社会情報大学院大学でスタートした実務教育研究科。今回は、前2回を踏まえ同研究科が展開する「実務教育プロジェクト演習」の取組と狙いを紹介する。
履修者の素案等から見る、プロジェクト演習の取組
藏田 實(くらた・みのる)
「実践教育プロジェクト演習」(以下、「プロジェクト演習」という。)は、今年度4月24日から担当教員3名、履修者5名(次年度の履修予定者は31名)で開講した。本稿では、前2回の連載を踏まえ、「プロジェクト演習」の取組み状況と本講座のねらいについて述べる。
第1週は、オリエンテーションを行うとともに教育プログラムのテーマ(素案)・概要の作成が課された。今年度の履修者は、昨年度本学にて開講された「持続可能な次世代人材育成を探求する大学院教育プログラム1)」の受講者であり、自らの興味・関心のある研究課題や事業構想についてリサーチペーパーを既に書き上げている。前年度のリサーチペーパーを継承したものもあれば、新たに立案したものもあった。提出された履修者それぞれのテーマ素案を紹介する。
1)民間教育、組織内教育を含め、多様な教育の実践の場を対象とし、現状分析のうえにあるべきビジョンを見定め、実現のための理論と実践を1年間で学ぶ、社会情報大学院大学が2020年度に実施した履修証明プログラム
- マーケティング概論
- 新入社員のための品質基礎
- 自律的なキャリアデザインと成長に向けた学習
- 企業における人権研修担当者養成のためのプログラム検討
- 学士課程「ホテル経営学概論」ーもしこの大学にホテルがあったら
第2週は、「教育プログラムの組み立て方―必要な要素は何か、考えることは何か-」というタイトルで授業設計の講義と演習が行われた。
講義では、教育プログラムに必要な要素として学習目標、評価方法、教育方法の3つがあること、さらに各要素の組み立て方、学習目標の立て方のポイント、学習目標と評価方法を連動させる必要性、学習目標を立てることによる学習者への効果、の4点について論が進められ、G.ウィギンズと J.マクタイが提唱した「逆向き設計2)」というカリキュラムの設計方法等が紹介された3)。
2)学習目標を最初に決定してから、目標を達成したか否かを判断する評価方法を決め、最後に教育方法を決める。Wiggins, G.&Mctighe, J.(2005)Understanding by Design, Alexandria:Association for Curriculum Development(G.ウィギンズ・J.マクタイ(西岡加名恵訳)(2012)『理解をもたらすカリキュラム設計―「逆向き設計」の理論と方法―』日本標準)
3)第2週の講義内容は、廣谷貴明 担当教員によるものである。
これを受け、演習では学習目標、評価方法、教育方法の順でワークシートにまとめたものを履修者全員が発表し、担当教員によるコメントが加えられた。授業後に提出されたミニットペーパー(受講者の感想)には、次のような記載があった。
「ホテル経営学概論」の授業を受けた学修者が何を身につけることができるのか、どの程度身につけたかをどの様に評価するのかを先ず設定しなければ、確かに学修方法は定まらないことが理解できたので、シラバス作成に反映させたい。
プロジェクト演習が掲げる、5つの到達目標
今後、履修者はシラバスを含めた教育プログラムを作成し、模擬授業・模擬研修に取り組む。模擬授業というと教職課程にある教育実習を想起するかもしれないが、教員免許状取得をめざす教育実習の到達目標4)とは異なり、「プロジェクト演習」では、次の5つの到達目標を掲げている。
4)学習指導要領及び児童又は生徒の実態等を踏まえた適切な学習指導案を作成し、授業を実践することができる。「教職課程コアカリキュラムー学習指導及び学級経営に関する事項」(教職課程コアカリキュラムの在り方に関する検討会(2017))
(1)教育プログラム作成及び教育実践のために必要となる各種理論を説明することができる。
(2)各種理論に基づく教育プログラムを作成することができる。
(3)受講生に伝わりやすい説得的な授業資料を作成することができる。
(4)作成した教育プログラム、および各種理論に基づいた授業実践・研修実践を行うことができる。
(5)担当教員や履修者等の相互の議論を踏まえ、自らの授業実践・研修実践をリフレクションし、より効率的・効果的な教育実践のあり方を説明することができる。
これらの目標を達成することにより、「実践知のプロフェッショナル」(教育・人材育成を行う高度専門職業人)となる人材を養成する。具体的に想定される分野には、実践知を体系化する実務家教員がある。実務家教員については、「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン」(中教審答申2018)のなかで「質の高い実務家教員を確保するため、実務家教員の育成プログラムを開発・実施する」ことが謳われている。
今後、実務家教員のニーズが高まるなか、自ら培ってきた実務経験を高等教育機関で効果的・効率的に生かすには、実践的な能力とスキルが重要である。教学マネジメントの観点から高等教育における教育の質保証が求められており、実践知の体系化を図る「プロジェクト演習」は、実務家教員の質保証に資する先駆的な取組みになると考えられる。