実践教育プロジェクト演習① 知識を伝達・継承するために必要な能力を育てる

2021年4月から新設される実務教育研究科。本稿では「実践知のプロフェッショナル」の育成を目指す、同研究科の「実践教育プロジェクト演習」を紹介する。

実践教育プロジェクト演習の、目的と4つの特徴

廣谷貴明(ひろたに・たかあき)

廣谷貴明(ひろたに・たかあき)

実務教育研究科専任講師。専門は教育学、教育行政学、教育政策。2020年3月東北大学大学院教育学研究科 総合教育科学専攻 博士課程後期3年の課程修了(博士(教育学))。文部科学省公立小学校・中学校教員勤務実態調査研究・研究会委員、独立行政法人教職員支援機構・客員フェロー等を歴任。主要著作に『教育制度を支える教育行政』(分担執筆、ミネルヴァ書房、2019年)、『アメリカ教育例外主義の終焉―変貌する教育改革政治―』(共訳、東信堂、2021年)。

本稿から3回にわたって、実践教育プロジェクト演習の授業を紹介する。1回目である本稿では、実践教育プロジェクト演習(以下、本授業)の目的・進め方を概説し、2回目以降に詳細な授業内容や授業の様子について紹介する。さらに各回では、3名の担当教員それぞれの専門領域から本授業の意義に関して述べる。

本授業は、実務経験の言語化に基づいて体系的に形成された教育プログラムによる効率的・効果的な人材育成を実現するための実践的スキルの習得を目的とした授業科目である。具体的に、本授業では(1)教育プログラムの作成、及び模擬授業の実践に関する理論を習得し、(2)履修者自身が授業内で教育プログラムを自ら提案し、(3)その教育プログラムに基づいた授業実践・研修実践を行い、(4)授業実践・研修実践を通じて発見した可能性や課題は何かを省察し、相互に議論する実習形式の授業を行う。

ここでいう「実習」とは、教員免許状取得のために学生が学校に赴く「教育実習」のようなイメージではなく、受講生自らの興味関心に基づいたテーマの設定、教育プログラムの設計、教材作成のもと、模擬授業・模擬研修を行うことをイメージしている。

これにより、実践知のプロフェッショナルとしての能力として実務教育研究科が想定するもののうち、特に「受講生がもつ知識を教育・研修プログラムに反映させることにより、伝達・継承する能力」を涵養することを目指している※1

※1 そのほか、実務教育研究科では(1)自らが経験し培ってきた実務の領域における知識・スキルについての理論的な体系化をはかって新たな知識として確立すること(知識の創造)、(2)その知識を社会にどのように「実装」して活かしていくのかを考えること(知識の活用)の2つを実践知のプロフェッショナルに求められる能力であると位置づけ、カリキュラムを構成している。本授業はこれら2つの能力にも関連するものである。

授業構成と実務教育研究科 カリキュラムとの関係

本授業は通年科目として構成されている。前期は教育プログラム作成や授業実践・研修実践に関連する理論やスキルについて解説したうえで、各受講生の興味関心に基づいた教育プログラムを作成する。後期は前期で作成した教育プログラムをもとに教材を作成し、模擬授業・模擬研修を行う。

教育プログラムの作成、教材作成、模擬授業・模擬研修の実施にあたっては、教員に加えて、受講生同士でのディスカッションも行ってもらうことで、他の受講生の良い部分や改善できる部分を多角的に観察する能力も涵養する。

また、本授業は実務教育研究科2年次の必修科目である。実務教育研究科では、主に(1)専門職業人の育成に携わる実務家教員等、(2)組織内人材育成のプロフェッショナル、(3)教育産業・教育事業の担い手の育成を目指しており、これらいずれの領域においても知識を伝達・継承する能力が重要であると捉えている。

例えば、実務家教員であれば自らの実務経験を学術的理論と結びつけながら説明することで効果的な授業実践が期待される。さらに組織内人材育成のプロフェッショナルや教育産業・教育事業の担い手にとっては、自らの知識・経験をもとに体系化された研修プログラムを設計することで、未来の組織内教育を担う後進の育成をすることができ、組織や事業の存続・発展に寄与できる。

教育学的観点からみた、実践教育プロジェクト演習の意義

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教育学では教員と学生間のみならず、幅広い人間関係における教育方法について研究される。「教える」という行為は意図的にも無意図的にも日ごろから行われている行為であるため「教育」というワードを出したときに、人によって良いことも悪いことも様々なことがイメージされる。そのため、自らの経験に基づき「良い」と感じた部分を積極的に取り入れた教育が行われているだろう。

ただし、その「良い」という感覚は人によって異なるものである。たとえ偶然にも理論的に良いとされる教育方法を実践していたとしても、実践の背景にある理論を理解しておかなければ、それは偶然の産物にすぎない。教える人によって知識の伝達方法が異なり、知識の継承に歪みが生じる可能性がある。一方、理論的に好ましくない実践だとすれば改善する必要がある。

このような背景を踏まえ、本授業で理論的観点から「良い」と考えられている教育方法を学び、実践することを通じて、知識の伝達・継承のレベルを高めることが本授業の意義として考えている。理論に基づいた教育を行うことで高度職業専門人が育成でき、ひいては社会成長に繋がるため、教育実践の理論を学ぶことは今後の社会にとって重要な役割をもつ。

実務教育研究科 2021年4月開講