知の理論 これからの社会に求められるメタ知識の重要性

「実践知のプロフェッショナル」人材を養成すべく、2021年4月、社会情報大学院大学でスタートした実務教育研究科。今回は「知の理論」を紹介する。

「知の理論」とはなんだろうか

川山 竜二

川山 竜二

社会情報大学院大学 学監 兼 実務教育研究科長。
専門は知識社会学、人的資本、高等教育システム。筑波大学早期卒業。筑波大学大学院人文社会科学研究科社会学専攻。文部科学省持続的な産学共同人材育成システム構築事業委員、実務家教員COEプロジェクト事業責任者、日本大学基準協会理事ほか。実務家教員ならびにリカレント教育に関する著書、講演多数。

「知の理論」とはなんだろうか。「知」も「理論」もどちらもなんだか難しそうなニオイがする。しかし筆者は、これからの社会で必要な能力が「知の理論」に凝縮されているのではないかと考えている。そのキーワードが副題にある通り「メタ知識」である。

筆者は、いたるところでこれからの社会は「知識社会」であると主張している。持続可能な社会を実現させるにせよ、経済成長にせよ、これからの価値の担い手は「知識」になるだろうと考えている。

ここでいう知識とは、なにも自然科学的な知識だけにとらわれない。人文学や社会科学も、極端なことをいえば、おばあちゃんの知恵(人生経験に裏打ちされた実践知とでもいえるだろうか)も知識である。

なんらかの成果を出す思考は知識といえる。例えば、科学的な知見は「新しい科学的発見」の成果をもたらすし、「嘘をつくと閻魔さまが舌を引っこ抜く」というのは、子どもをしつけるための成果を生み出しているといえる。

このように考えると、私たちが生きている社会は知識があふれているし、知識が絡み合って社会を作り出しているともいえる。そんな社会状況には良い面、悪い面がある。最近の例でいえば、Covid-19をめぐる知識がインターネット上を駆け巡った。そのなかには、科学的には正しくないものも含まれていることだろう。あるいは、フェイクニュースというとピンとくる人もいるかもしれない。

私たちは、たくさんの知識のなかで何が「正しい」のかを見極める能力が必要だろう。そういうと「情報リテラシー」ではないかと思う人がいる。ある意味では、「情報リテラシー」というのは的を射ているが、それがすべてではない。

知識には、それぞれつくられ、使われる文脈がある。どの文脈にも必ず合致する普遍的な「知識」は存在しない。だから「知の理論」では、まず知識は文脈依存的であり相対的なものであることを受け入れる、というところから始まる。つまり、知識そのものを観察すること、知識の知識を身につけるという「メタ知識」的な観点がとても重要となるのだ(図)。

図 セカンド・オーダーの視点(知識の知識を考える視座)

図 セカンド・オーダーの視点(知識の知識を考える視座)

「知の理論」は、社会において知識を創造(知識をつくりだす)・普及(知識をつたえる)・活用(知識をつかう)するための基本的な視座を提供してくれる科目である。

国際バカロレアから
知識社会学まで

実務教育研究科では、「知の理論」が必修科目として位置づけられている。授業科目名としての「知の理論」には、2つの意味を持たせている。

実は「知の理論(TOK;Thoery of Knowledge)」というのは、国際バカロレア(IB)のディプロマプログラム(DP)の必修要件に位置づけられる。

IBDPとは、国際バカロレア機構が提供する教育プログラムで、修了すると国際的な基準で大学入学資格を与えるプログラムである(日本での導入状況は、文部科学省が特設サイトを設置している)。IBでは、国際的視野をもった人間を育てることを目標にしており、自分の考えを相対化させることに「知の理論」は貢献をしている。

したがって「知の理論」の授業では、IBDPの科目として「知の理論」の授業内容の基本的な部分を抑えている。というのも、実務教育研究科では「これからの教育内容を構想する」者もいるので、「メタ知識」の教育をどのように展開することができるかという問いに一つのきっかけを与えるためである。

もう一つは、実務教育研究科の根幹として「知識」を考える基礎科目としての側面である。本研究科には、「知の理論」のほかに、「実践と理論の融合」や「知識社会学」あるいは「省察的実践」といった知識について考える専門科目がある。その基礎的なトレーニングとして、「知の理論」を位置づけている。いわゆる、知識を相対化するための「認識論」や「科学哲学(科学論)」、「知識社会学」の根本の考え方や領域を織り交ぜながら授業は進んでいく。

授業の狙いは「知の理論」を通じて、「みなさんはどのようにして知るのか」という問いに対する答えをさまざまな文脈において考え、この問いの価値を認識するよう促すことにある。このことを通じて、受講生は将来にわたって知識の豊かさや奥深さを知ることになる。

社会構想大学院大学 オープンキャンパス