専門科目「教育コンテンツ開発」ー「売れる」学びの観点からー

社会情報大学院大学実務教育研究科の専門科目である「教育コンテンツ開発」。第1週のオリエンテーション後の講義を授業参観形式で語る。

廣政 愁一

廣政 愁一

学びエイド代表取締役社長。社会情報大学院大学実務教育研究科教授。
元予備校講師を経て、1997年に日本初の学校内予備校を立ち上げ、全国展開を果たす。2015年動画学習サービス会社の学びエイドを設立。講師や教員に勉強法を指導する「先生の先生」としても活躍中。専門分野は、英語教育、教育とICT、教育経営等。

教育コンテンツを開発するためには、教えるべき内容や教授法の精査はもちろんのこと、継続的に運営していくためのマネジメントの視点が必要だ。教育はその主たる担い手が公教育であることもあり、ビジネスの視点が欠けがちであると言われる。本授業では、社会や市場の動向とニーズを見極め、教育コンテンツや学習サービスの設計を、マネジメントの観点から検討できる能力の養成を目標としている。本年度の授業概要とともに、学生の反応と教員の所感をお伝えしよう。

教育ビジネスは教育が主か否か(第2週)

教育において最も大切なことは継続性である。受講者がひとりでもいる限り、不採算を理由に途中でやめてしまうわけにはいかないのが教育ビジネスである。一時期流行った「検定ビジネス」も、赤字でも一定期間は続けなければならないために、今では人気のないビジネスになってしまった。

私教育がどんなかたちであれ継続することができるのは、ビジネスとして成立するかどうかが肝である。「教育コンテンツ開発」の授業は「教育」と「ビジネス」のどちらに軸足を置くべきかを議論するところからスタートする。

教育事業の全体像概観(第3週)

教育コンテンツを作るということは、すなわち教育事業を作ることである。現在、教育事業は12あるいは15程度に分類される。これらを見直すことで、どの分野に成長可能性があるのか、それとも飽和、あるいは衰退しているのかを見極める。さらに細かい分析から、幼児教育の知見をシニア層に生かせる要素を発見したり、少子化の影響を最も受けている大学受験予備校のサバイバルを研究することで履修者自身が構想する教育事業のヒントを見出す場面もあった。

教育ベンチャーの現状(第4週)

日本ではさまざまな教育ベンチャーが生まれている。そのなかでも、今、最もホットなEdTech事業例を題材に、今後の成長率をあらゆる角度から議論する。その議論の判断軸になるのが、現在の大企業、つまりかつてのベンチャーの研究である。いくつかのケーススタディから成功の共通項を探り、今のベンチャーにもあてはめて考えるのである。そして、履修者自身が構想する教育コンテンツを見直していく。

教育ベンチャーは生まれる数と消える数がほぼ同じであるという現実を真っ向から見つめることが大切だ。そのために、最近花火のように上がりながらも、事業が成立しなくなったベンチャーたちも取り上げた。今年はゲスト講師に現役のベンチャーキャピタリストを招聘し、界隈の事情を詳しく掘り下げた。

教育業界でのマーケティング(第5週)

教育コンテンツは誰に向けて作るのか、そして、それを誰に売るのかを考えることが大切だ。教育は必ずしもコンテンツ受講対象者と顧客が同じではない。小学生の教育コンテンツは「親」に売っている。研修コンテンツでも、法人が顧客であり、履修者は勤務時間内の仕事として研修を受けているケースが多い。

では、大学受験予備校はだれが顧客なのか、医学部専門予備校はどうだろうか、通信制高校は、と議論を膨らませていった。

こうして検証を重ねて顧客を考えることで、コンテンツそのものの仕様も変化していく可能性もあることが理解できる。

教育コンテンツ開発(第6週)

今期は経営戦略の専門家をゲスト講師として招き、経営戦略を教育ビジネス単体で議論した。GAFAのようなグローバルケースから、日本のトラディショナルな企業までを研究対象としてきた経営戦略の専門家の意見として、現状の国内外の教育コンテンツ開発、教育事業、主にビジネススクールの例を引きながら教授いただき、履修者全員で活発に意見を戦わせるワークショップとなった。

教育コンテンツの設計(第7週)

ビジネスとして持続可能な教育サービスの構築があってはじめて、教育コンテンツの設計が可能になる。コンテンツ作りはひとりでできるものでなく、それには「ヒト・モノ・カネ」が必要である。さらには「時間」も考慮しなければならない。コンテンツを設計をしていくうえでどのように「ヒト・モノ・カネ」を調達し、最短時間でコンテンツを作り上げるかを教授していく。

履修生のレベルの高さ

本授業の履修者は一定の社会での経験があり、「コンサルタント」や「研修講師」だけでなく「起業家」「教育の新規事業担当者」「新聞記者」など多様なバックグラウンドを持っている。

それゆえに一般的な大学のゼミよりも、議論に多様性があり活発に行われていると感じる。メンバー全員が知を発信しているのもおもしろい。こういった積極的な姿勢ゆえにフレンドリーでメンバー同士の交流も多いと感じる。

知の興奮を「教育コンテンツ開発」「教育事業」という題材でぜひとも体感してほしい。

社会情報大学 リカレント教育フェア