実務教育研究科の教育課程編成の方針

2021年4月、社会情報大学院大学は新たに「実務教育研究科」を開設する。本連載では、「実務教育研究科」での学びの意義や特徴などを紹介していく。

本連載のねらい

2021年4月、社会情報大学院大学は新たな専門職大学院の研究科である「実務教育研究科」を開設する。実務教育研究科は、実践知の体系化とそれにもとづく教育・人材育成の実践を行う人材である「実践知のプロフェッショナル」の育成を目指し、教育・人材育成にかかわる社会科学的な知見と実践的な知見を融合させた教育研究活動に取り組む。

本連載では、実務教育研究科の教員がリレー連載形式で、各授業のねらいや実践のようすを伝えていく。それにより、教育・人材育成の実践を担う職業人を育成する実務教育研究科自身が、どのような考えのもとに教育・人材育成を実践するのかを明らかにしていきたい。

連載の第1回は、実務教育研究科がどのような考えをもとにカリキュラム(教育課程)を編成したのかを示し、第2回以降の具体的な授業がどのような基盤の上に立っているのかを解説する。

実務教育研究科の、育成する人材像

実務教育研究科が育成する「実践知のプロフェッショナル」とは、社会学や教育学を中心とする社会科学的な知見を基盤として、1)自らが経験し培ってきた実務の領域における知識・スキルについての理論的な体系化をはかってあらたな知識として確立し(知識の創造)、2)その知識を社会にどのように「実装」して活かしていくのかを考え(知識の活用)、3)その知識を教育・人材育成プログラム等によって実際に伝達・継承していく(知識の普及)ことのできる人材である。

具体的な人材像として想定しているのは、(1)専門職大学や専門学校等の高等教育機関で専門職業人の養成に携わる実務家教員、(2)中長期的な組織の成長に資する人材育成の計画と実行をおこなう CKO、CLO、研修部門の担当者等の組織内人材育成のプロフェッショナル、(3)あらたな民間教育産業や教育事業の担い手である。

実践知のプロフェッショナルが求められる、社会的背景

実践知のプロフェッショナルが求められるのは、現在の社会におけるあらゆる活動の基盤として、新しい知識・情報・技術が飛躍的に重要性を増しているからである。

これはすでに、情報社会の萌芽期である1960年代前後に、F. マッハルプや P. F. ドラッカー、D. ベルらが「知識社会」として予見していた近未来の社会像だが、21世紀に入り、文部科学省がこうした認識を「知識基盤社会」という用語によってあらわしている点を鑑みれば、そのような社会像はいままさに具現化されていると考えられる。

カリキュラムの特徴

実践知のプロフェッショナルに求められる能力は、1)自らの実務の領域における固有の知識の社会的布置を見定める能力、2)経験知や暗黙知を言語化・体系化して実践の場での活用と深く結びついた固有の理論をつくりだす能力、3)創造した知識を効果的に伝達するための教育プログラムを構想・活用する能力に分けてとらえることができる。

実務教育研究科のカリキュラム(教育課程)は、1)に関連して知識社会学や関連する社会学を、3)に関連して教育学を学術領域における基盤に据え、2)に関連して、経営学の人材育成に関する理論や、実務の領域にかんする教育・人材育成の施策や実践的な事例を身につけられるよう、編成している。

具体的には、知識社会学や知の社会史を基盤とする「知の理論」を必修科目とした上で、「基礎科目」・「専門基礎科目」・「専門科目」における授業を履修することによって、各能力についての段階的な学びを進める。

そして、3つの能力を統合して発揮するトレーニングの場が、「展開科目」である。

表 実務教育研究科のカリキュラム

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展開科目(いずれも必修科目)は、2年間の学びの集大成として提出する「専門職学位論文」の構想・調査方法や結果、執筆内容を検討する「探究基礎演習」・「探究演習」(いわゆるゼミナール形式での授業)と、自身が携わる授業や研修等の教育プログラムを模擬的に実践し、その方法論的な検討を行う「実践教育プロジェクト演習」からなる。

このように、実務教育研究科のカリキュラム(教育課程)は、実践知のプロフェッショナルに求められる各能力について段階的に学んだ上で、各能力を統合して発揮できるような能力を身につけることができるよう編成されている点に特徴がある。

各授業の詳細なねらいや、実際の授業のようすについては、次回以降の連載で各教員が示していく。

実務教育研究科

文・川山竜二

社会情報大学院大学 研究科長、教授