専門基礎科目「インストラクショナル・デザイン」

「実践知のプロフェッショナル」人材を養成すべく、2021年4月、社会情報大学院大学でスタートした実務教育研究科。今回は「インストラクショナル・デザイン」を紹介する。

よりよい学習支援環境を実現する
インストラクショナル・デザイン

伴野 崇生

伴野 崇生

社会情報大学院大学 実務教育研究科 准教授。香港中文大学 専業進修学院 専任講師、アメリカ・カナダ大学連合 非常勤講師、東京農工大学 特任助教、慶應義塾大学 特任講師等を経て現職。
これまで大学・大学院で担当した科目は、外国語/第二言語科目から科学技術コミュニケーションや多文化間カウンセリング、インストラクショナル・デザイン、アンドラゴジーまで多岐にわたる。近年は文化心理学の観点から、学習者・教師/学習支援者の変容プロセスに関する研究を進めている。

インストラクショナル・デザイン(Instructional Design, 以下ID)とは、「教育活動の効果・効率・魅力を高めるための手法を集大成したモデルや研究分野、またはそれらを応用して学習支援環境を実現するプロセス」(鈴木2006)のことです。

IDは実務教育研究科では専門基礎科目として設置されており、受講者は「教育活動の効果・効率・魅力を高める」ために、IDのモデルを学んだり、IDの観点から自分自身の研究を見直したりしながら、「よりよい学習支援環境を実現する」ことを目指すことになります。

実務教育研究科のディプロマポリシー(学位授与の方針)には「自ら携わる実務や組織、産業の領域における実践と深く結びついた固有の理論を効果的に伝達・普及するための実行可能なプログラムを構想できる」とありますが、効果的に(さらには、効率的、魅力的に)伝達・普及するためには、IDの視点は欠かせないものだと言えるでしょう。

教育観を言語化し
IDのモデルを学ぶ

実務教育研究科のIDの授業では、いきなりモデルを学ぶのではなく、まずは自分自身が思う「いい教育」「優れた教育実践」のイメージを見つめ直し、それを言語化するところから始めます。どのような教育・教育実践をよいと感じるのか、それはなぜなのか、何/誰にどのように影響を受けた結果そのように考えるようになったのか、といったことについて自ら「棚卸し」をするわけです。IDのモデルについて学ぶ中で、それがどう変わっていくのか/変わらないのかに自覚的であるためには、教育に関する見方・考え方(教育観)を言語化しておくことは必須となります。

そのような言語化を経て、「メーガーの3つの質問」「IDの第一原理」「ARCS モデル」「ADDIE モデル」といった代表的なモデルについて学び、個人ワークやグループワークを通じて、具体的にどのように「教育活動の効果・効率・魅力を高める」ことができるか考えていきます。

教育実践経験のある人はそれを振り返りながら、教育実践の現場を持っていない場合には学習者・受講者としての経験を踏まえながら、将来「自ら携わる実務や組織、産業の領域における実践と深く結びついた固有の理論を効果的に伝達・普及する」際の基盤を作り上げていくわけです。

授業では、IDのモデルとその直接的な活用以外にも「学習理論の変遷と協同・協働的な学びのデザイン」(第5講)、「学習環境のデザイン」(第7講)、「学習評価のデザイン」(第8講)、「授業における教師の役割と教師に求められる資質・能力」(第10講)などについて学んでいきます。

IDのモデルをもとに授業/研修
自ら振り返りながら分析・考察する

もちろん、頭の中でデザインしただけでは、「実践と深く結びついた固有の理論を効果的に伝達・普及する」ことはできません。伝達・普及には、実際に教育実践を行なってみること、さらにはそれを振り返って改善するという経験が必要です。そのための科目として、実務教育研究科には「実践教育プロジェクト演習」(本連載第2回第3回第4回参照)がありますが、IDの授業の中でも、マイクロティーチングの実践とその振り返りを通じて、教育実践とその改善を体験します。

マイクロティーチングは、アメリカのスタンフォード大学で開発されたもので、担当する短い授業(5~25分)を少人数(最大5人)の学習者に対して行うものです(ALLEN, D. W. 1967)。授業では、IDのモデルをもとにして自ら組み立てた15分程度の短い授業/研修を行うのですが、それは単に教育実践を体験するというだけでなく、自分自身が伝達・普及しようとしているもののエッセンスは何なのかについて深く考える機会にもなります。また、録画された教育実践を自ら振り返りながら分析・考察することで、改善のプロセスそのものを体験することにもなります。

自らの成長を支援する環境を
実現していくプロセスに参加する

このようにして学び身につけてきたことは最終週で言語化されます。「私はこの授業を通じて何を学んだのか」「私は教育者として何を目指すか。IDをどう活用するのか」 について考え、議論しながら言語化していくことで受講者自身が教育について改めて考えるのです。

これは、冒頭に示したIDの定義の最後にある「学習支援環境を実現するプロセス」に自分自身を置くということにもつながります。つまり、受講者はこの授業を通じて、教師や研修講師として学び続けることを実現する、自らの成長を支援する環境を実現していくプロセスに参加することになるわけです。

参考文献

  • ALLEN, DWIGHT W.,: Micro-teaching: A Description, Stanford Teacher Education Program, Stanford University, 1967
  • 鈴木克明(2006)「e-Learning 実践のためのインストラクショナル・デザイン総説」『日本教育工学会論文誌』29-3
イメージ画像