コラム・教育の未来構想(総括) ~これからの大学教育の在り方~

これまで大学教育をテーマに様々な記事を書いてきたが、改めてこれまでの記事を振り返ると、大学での教育というものが「量」から「質」を求める形にシフトチェンジしたことが共通して言えるのではないかと感じている。

つまり、学校の単位制や集合教育のような全員が同じ量の同じ内容の教育を受けるスタイルから、マイクロクレデンシャルやWell-beingのように、必要なもの(科目)を必要な量(時間)だけ学習し、一人一人の学習に対する自己満足感を高めようとする教育スタイルに変化しつつあるのではないかと考えられる。

そこで本稿では、これまでの総括として、これからの大学における教育はどう在るべきかについて私の考えなどを述べたいと思う。 

これからの大学における教育の在り方

いま大学での教育は「量」から「質」を求めるスタイルに変化しつつある。ここでは教育スタイルのシフトチェンジについて、「①必要なものだけ学び、不要なものは学ぶ必要がないのか」、「②大学の存在意義とは何なのか」の2点について考えてみたい。

・必要なものだけ学び、不要なものは学ぶ必要がないのか

実際に社会に出て働くと、大学で学んだ知識が一切役に立たないと感じたり、ムダな時間を過ごしたと思う人も少なからずいるのではないか。はたしてムダだと感じられる大学で学んだ知識は自身の何の役にも立っていないのだろうか。結論から言うと私は決してそんなことはないと思う。
少なくとも知識の幅は広がっているし、大学の授業で大事なことは1つの科目を修了することではなく、科目ごとの「横のつながり」を考えてみることではないかと私は考えている。例えば、数学で身につけた論理的展開力は、情報学や哲学、法律学の授業などでも必要になる能力である。
たしかにマイクロクレデンシャルのように、必要な知識だけ身につければ、その分野のスペシャリストになれるのかもしれないが、それは専門学校での教育と何が違うのであろうか。大学での教育は「スペシャリスト」ではなく「ジェネラリスト」として基礎レベルの高い人材の育成に注力すべきことが重要ではないかと私は考えている。

・大学の存在意義とは何なのか

学習環境について、MOOC(Massive open online course)などのオンデマンド教材で学習したらいいわけで、大学キャンパスにわざわざ通って学習することはムダではないのかと考える人もいる。前回の記事でも説明したが、テクノロジーの飛躍的な発展により、仮想空間内での学習環境がますます整備され広まっていくことになることは容易に予想できる。 
しかし、大学で行われる研究室のゼミ仲間や、大学に所属している一流の研究者との対話的な交流の機会というのは、仮想空間で行うよりも盛り上がったりすることが多いのではないだろうか。そういった熱量をもったコミュニケーションは仮想空間内では再現し難いのではないか。
大学という場所を認知しているからこそ個人の思い出にもなり、長く記憶に残るものになると思う。大学において学ぶという行為も重要だが、仲間や研究者など人とのつながりを形成することも重要であり、そのためのコミュニケーションスキルを身につけることも大学が持つ役目の1つであると私は考えている。 

大学とは?研究者とは?

小学生から高校生までを対象とした「将来なりたい職業ランキング」では、研究者・大学教員という職業が世代に関係なく毎年安定してトップ10圏内に入っており高い人気を維持し続けている。これは研究者のメディア等への露出が増え、子供たちの目に止まる機会が増えたことにより研究者をより身近に感じられるようになったことが要因の1つとして考えられる。

私は、研究者というものは若い世代にとって「憧れる存在」でなければならないと思っている。教え方が上手い、容姿がかっこいい、指導が優しい、有名人である等の理由は本質ではなく、研究者としての根源は、いかに魅力的な研究を行なっているのかにあると思う。 

よく研究者は変人扱いされたり世間離れした人が多いと思われがちだが、それは好きなこと(研究)に没頭しているから他のことが後回しになりがちになっているだけであって、それはある意味素晴らしいことではないだろうか。そういった姿に憧れるからこそ、一緒に学んでみたい、やっていることが面白そうと感じてもらえるのではないだろうか。

そのために大学という組織が世の中に必要なのではないかと私は考えている。学術誌への論文掲載やメディアへの露出やコメント等はあくまで自分を知ってもらうためのきっかけであって、研究者の本質は、いかに面白い研究をしているのかが重要だと思う。私も一研究者として、若い世代に憧れてもらえるような研究者になれるよう日々精進していきたいと考えている。

最後に

今回の記事も含めて全8回の記事を書かせていただきましたが、記事を書くために色々と調べたり考えたりして私も良い勉強になりました。これまでの記事が読者の皆様にとって少しでも参考になれていたら私も嬉しく思います。また記事の作成にあたりサポートいただいた月刊「先端教育」編集部の皆様に厚く御礼申し上げます。

これからも時代の変遷によって教育業界は大きく変動していくことになると思いますが、私も引き続き教育の未来について考えていければと思っています。 

読者の皆様、最後までお付き合いいただきありがとうございました。 

コラム・教育の未来構想① ~マイクロクレデンシャルの普及~

コラム・教育の未来構想② ~ナノディグリーへの取組み~

コラム・教育の未来構想③ ~ウェルビーイングを高める教育とは?~ 

コラム・教育の未来構想④ ~ウェルビーイング教育は有効か?~

コラム・教育の未来構想⑤ ~研究不正行為防止のための倫理教育の必要性~

コラム・教育の未来構想⑥ ~効果的な研究倫理教育の実践~ 

コラム・教育の未来構想⑦ ~eラーニングの発展~

 

★画像名 河合孝尚
事業構想大学院大学教授。静岡大学大学院理工学研究科博士課程修了。情報学博士。2022年4月1日より事業構想大学院大学教授として着任。経済産業省安全保障貿易自主管理促進アドバイザーや他大学の講師等を兼任。これまでに大学におけるリスクマネジメント等に関する実務を多数行ってきた。また教育研究活動として、Well-being教育や、研究公正教育等の教育システムに関する研究を行っている。主な研究分野は、教育情報学、研究インテグリティ、リスクマネジメントなど。

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