コラム・教育の未来構想⑦ ~eラーニングの発展~

eラーニングはIT技術の発達と普及とともに様々な発展を遂げてきた。特にコロナ禍以降、大学での授業や研修などがオンラインに切り替わったことでeラーニングの需要も急激に高まっている。 

株式会社矢野経済研究所の調査によると、2021年度の国内eラーニング市場規模は、前年度比13.4%増の3,309億3,000万円を見込んでおり、コロナ禍による需要の高まりが続き、今後も市場を拡大させる見込みである。そこで本稿では、今後、大学においても需要が高まるであろうeラーニングについて、普及した理由や今後の発展などについて考察する。 

なぜeラーニングはここまで普及したのか

eラーニングとは、コンピュータやネットワークなどの情報技術を活用して行われる、学習、教育の総称である。特に、インターネットを通じて利用できる学習を指すことが多い(「IT用語辞典」より)。 

eラーニングが普及した理由として、日本国政府のIT戦略本部が策定した日本のIT戦略を具体化した「e-Japan 重点計画」の影響が大きい。e-Japan 重点計画では、より具体的な施策として「学校のIT 環境の整備」「IT 教育の充実」「IT 指導力の向上」「教育用コンテンツの充実」「教育用ポータルサイトの整備」「IT 学習機会の提供」「専門的な知識又は技術を有する創造的な人材の育成」を設定しており、これらの取組みが、その後の eラーニングの普及を促進したものと考えられる。

また、技術的な要因として、インターネットのブロードバンド化の影響も大きい。5Gや光通信などの大容量のインターネット接続サービスが登場し、高速・大容量通信の基盤が整えられた。これによりインターネットを使った学習は双方向のやり取りも可能となり、従来の一方通行型の学びではなく、双方向のコミュニケーションが可能な授業実施が可能となり、これまでの教育方法を大きく変革させた。

eラーニングのメリットとデメリット

eラーニングのメリットとデメリットについては以下の点が挙げられる。

管理側のメリット

学習側のメリット

l  コスト削減

l  学習機会を平等に提供

l  学習者ごとの学習履歴や成績を管理

l  教材や課題の提供が簡単

l  時間の節約

l  場所を選ばず学習できる

l  理解度に応じて学習できる

l  結果などがすぐに分かる

l  様々なツールで受講できる

l  何度でも受講できる

 

管理側のデメリット

学習側のデメリット

l  ITリテラシーが必要

l  教材コンテンツの作成に時間がかかる

l  学習者の反応がわからない

l  1つのトラブルが全体に影響する

l  実技科目の学習に向かない

l  一定の通信環境が必要

l  学習者同士のネットワークが作りにくい

l  対面よりも学習効果が低い

メリットについては、学習者は場所を選ばず何度でも繰り返し学習することができるので利用しやすいという点がある。管理側においても、校舎への移動時間や準備時間などの節約や、LMS(Learning Management System)の導入による学習者ごとの学習履歴や成績などの管理により、学習者を効率的に管理することが可能となった。 

一方、デメリットについては管理側、学習側ともにITリテラシー能力が高いレベルで必要であることが挙げられる。昨今、情報漏洩やSNSアカウント炎上などが大きな問題となっているが、eラーニングにおいても、管理者、学習者は多くの情報の中から正しい情報を選択し、ITに関連する要素を理解し、操作する能力は身に付けておく必要がある。

eラーニングの今後

近年、スマホやタブレットなどのスマートデバイスの普及により、空いている時間を活用してeラーニングに取り組めるようになった。今後もスマートデバイスの利用を念頭に置いてeラーニングを導入する企業が増加すると予測できる。また働き方改革により、在宅勤務やオフィス以外での勤務も広がっており、場所や時間にとらわれない教育方法として、eラーニングのニーズや重要性は、ますます高まっていくと考えられる。

また技術的な面でも、教育にAI(Artificial Intelligence)を適用することで、これまで一部の人しか受けられなかった質の高いきめ細かな教育を、コストを抑えながら幅広い層に提供できる「デジタル・ナレッジ」の取組みも注目される。

「教育×AI」の進化は、効率的かつ効果的に学習者を導き、学びの生産性を最大化することが可能となり、学習者ごとに効率化された学びを提示する「アダプティブラーニング(適応型学習)」の実現が可能となる。学習者の学習効率を向上させ、学びの生産性を最大化させるだけでなく、合格者や成績優秀者の行動特性から合格や成績に結び付く要素を分析・抽出し、他の学習者への指導に活用するなど、「教育×AI」の今後さらなる進化が期待されるところである。

コラム・教育の未来構想① ~マイクロクレデンシャルの普及~

コラム・教育の未来構想② ~ナノディグリーへの取組み~

コラム・教育の未来構想③ ~ウェルビーイングを高める教育とは?~

コラム・教育の未来構想④ ~ウェルビーイング教育は有効か?~

コラム・教育の未来構想⑤ ~研究不正行為防止のための倫理教育の必要性~

コラム・教育の未来構想⑥ ~効果的な研究倫理教育の実践~

★画像名 河合孝尚
事業構想大学院大学教授。静岡大学大学院理工学研究科博士課程修了。情報学博士。2022年4月1日より事業構想大学院大学教授として着任。経済産業省安全保障貿易自主管理促進アドバイザーや他大学の講師等を兼任。これまでに大学におけるリスクマネジメント等に関する実務を多数行ってきた。また教育研究活動として、Well-being教育や、研究公正教育等の教育システムに関する研究を行っている。主な研究分野は、教育情報学、研究インテグリティ、リスクマネジメントなど。

23.2.17news2

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