オールジャパンの研究支援体制構築へ、研究時間確保に必要な政策とは?

大学の研究力低下が懸念される中、研究者の研究時間確保が研究力向上の大きな課題となっている。内閣府CSTIの最新の議論状況について、井上諭一事務局長補に話を伺った。

研究力の低下が取り沙汰される中、国は研究力強化に向けて、10兆円規模の大学ファンド、地域中核・ 特色ある研究大学総合振興パッケージ、研究力強化・若手研究者支援総合パッケージなどの強力な支援を行ってきている。その一方で、我が国の研究者に焦点を当ててみると、日々の活動の中で研究時間を確保することが困難となってきている状況にあり、様々な研究力強化の施策とは裏腹に研究力向上を阻害する多くの課題を解決することが求められている。

今回は、内閣府科学技術・イノベーション推進事務局の井上諭一事務局長補に、内閣府総合科学技術・イノベーション会議(以下、内閣府CSTI)有識者懇談会等で日々議論されている最先端の状況について伺った。

研究時間を確保するための
8つの方策

井上 諭一

井上 諭一

内閣府 科学技術・イノベーション推進事務局 事務局長補
1991年の科学技術庁入庁以来、科学技術分野を中心に行政官を務める。これまで、日本の地震調査研究体制の整備、スーパーコンピュータ「京」の開発、海洋資源調査システムの開発、給付型奨学金の創設などに従事。2001-2004年には、在ドイツ日本大使館で科学アタッシェを務める。現在は、大学ファンドの構築、ムーンショット型研究開発の推進、AI戦略の策定などを担当。G7科学大臣会合シェルパ。

江端 新吾

東京工業大学総括理事・副学長特別補佐/ 企画本部戦略的経営室教授、内閣府科学技術・イノベーション推進事務局上席科学技術政策フェロー。
文部科学省科学技術・学術審議会「研究開発基盤部会」の委員等を歴任。

植草 茂樹

公認会計士(事業構想修士、東京工業大学企画本部特任専門員、東京農業大学客員教授、(独)国立青少年教育振興支援機構監事)。
大手監査法人教育セクター支援室にて会計監査等を経験後、独立。内閣府「PEAKS会計・資産活用WG」主査、文部科学省「国立大学法人会計基準等検討会議委員」など歴任。

研究者の研究時間については、FTE:フルタイム換算データを用いて示される(図表1)。これによると、教員の研究活動時間割合は2002(平成14) 年度から2013(平成25) 年度にかけて減少傾向にあるが、2018(平成30)年度もその傾向が続いており、2013(平成25)年度より2.1ポイント減少して32.9%となっている。教育活動、社会サービス活動(研究関連、教育関連)時間割合がそれぞれ微増しており、 前回特に増加傾向の強かった社会サービス活動(その他:診療活動等)も1.1ポイント微増して10.3%となっている。さらに、その他の職務活動(学内事務等)時間割合はこれまで減少傾向にあるが、今回は 0.5ポイント微増して18%となった。結果として、研究活動以外の全ての職務活動時間割合が微増することにより、研究活動時間割合が減少している。

内閣府CSTIでは、このような状況を踏まえ、研究時間を確保するための方策について集中的な議論を開始した。そのきっかけの一つが、2022(令和4)年3月10日の「研究設備・機器の共用化ガイドラインについて」の報告であった。そこでの議論も踏まえ、CSTI事務局は、現下の課題を8つの方策として整理した(図表2)。一連の議論は4月21日(研究設備・機器の共用化)、4月28日(研究DX)、5月12日(技術職員)、5月19日(URA:University Research Administrator)と続いており、井上事務局長補は、このとりまとめのキーパーソンだ。

ここでの議論は、大学ファンド等に関わる大学改革等と関連づけられ来年度の概算要求事項にも反映されるような重要な議論として、…

(※全文:2599文字 画像:あり)

全文を読むには有料プランへのご登録が必要です。