NHK等を経て大学教員に転身、「イベント&アート」を追求する
NHKやNHK関連団体で長年にわたり活躍した浜野伸二氏は、社会構想大学院大学の「実務家教員養成課程」を受講し、自身の経験を体系化。大学教員へと転身し、自らの生涯のテーマである「イベント&アート」を追求しながら、実務と教育をつなぐ新たな挑戦を続けている。
自らの関心と経験を活かせる
キャリアの選択肢

浜野 伸二
東京成徳大学 経営学部 非常勤講師
1958年生まれ。1982年、早稲田大学政治経済学部を卒業し、NHK入局。営業、事業、関連団体出向、人事、企画、総務、グループ経営等を幅広く経験。2014年6月NHK定年退職。2014年7月NHKサービスセンター(現NHK財団)に転籍、ふれあいセンターを経てNHK放送博物館副館長を務める。2017年7月NHKプロモーションに移籍、上席執行役員を経て、常務執行役員を務める。2022年9月、社会構想大学院大学 実務家教員養成課程を修了。2023年2月、NHKプロモーションを定年退社。2023年4月、全国農業協同組合中央会職員ならびに東京成徳大学経営学部講師に就任。
浜野伸二氏は2014年にNHKを定年退職した後、NHK放送博物館副館長やNHKプロモーション等の役員を経て、現在は東京成徳大学経営学部の講師を務め、「イベントプロデュース」の授業を担当している。大学教員へと転身するにあたり、2022年に受講したのが社会構想大学院大学の「実務家教員養成課程」だ。同課程は、企業人等が大学教員になるための知識や技能を身に付けるプログラムを提供している。
浜野氏が大学教員というキャリアを視野に入れた契機の一つは、NHKの定年退職を控えた時期、自身の身の振り方について考えたことだ。「NHKの親しい先輩や後輩のディレクターの中には中途退職で大学教員に就任している人もいました。また、記者が大学の客員教授などに就くことは珍しいことではありません。これに加え、NHK在任中に学芸員の方々と仕事をする機会がありました。彼らの世界では美術館現場から大学に転職するのが当たり前です。こうしたこともあり、大学の教員になることは、それほど難しいことではないような幻想を持っていたんです」。
また、浜野氏はNHK退職後にNHK放送博物館で副館長を務めたり、展覧会等の事業を展開しているNHKプロモーションに移籍したりする中で、自身のライフワークは「イベント&アート」であると再確認。自らの関心と経験を活かせるキャリアの選択肢として、大学教員について調べるようになり、社会構想大学院大学の実務家教員養成課程のことも知るようになった。
養成課程で自身の経験を棚卸し
「イベント&アート」を追求
実務家教員養成課程の受講を申し込んだ際、浜野氏はオンラインで面接試験を受けたが、そこで聞かれたことの一つが「自分の棚卸しはできているか?」だった。
「その時は何を聞かれているのかよくわからず、『そのつもりです』と答え、オンライン面談は終わりました。その後、養成課程を受講して一番の気づきとなったのは、『棚卸しとはこういうことだったのか』ということです」
浜野氏が生涯で追い求めるテーマは「イベント&アート」だ。養成課程では、そのテーマがどのようなジャンルのどのような細目にあたるのかを探すよう指導された。浜野氏は当初、数多くの大学が講座を開設している「博物館概論」が募集の件数も多いのではないかと思い、これを養成課程の授業でシラバスに落とし込むことにした。
ところがある時、大学教員の公募サイト「JREC-IN」で「イベントプロデュース」に関する講師募集の掲示を見つけたところから、方向性ががらりと変わったという。
大学教員の公募に応じるには、自身の教育研究業績をまとめた「教員調書」が必要になり、養成課程には教員調書の書き方に関する授業もある。浜野氏は東京成徳大学への応募にあたり、養成課程で指導されたように経歴書や教育実績などをしっかり書き込み、事前に抱いた疑問については電話取材もして提出したところ、1回の面談でほぼ決定の手応えを得て、最終の学長面接を経て採用が決まった。
「応募がどれだけあったのかは不明ですが、『博物館概論』よりもニッチなジャンルである『イベントプロデュース』のほうが、対抗馬が少なかった可能性があると思っています」
浜野氏は年齢的に、大学教授・准教授ではなく講師を目指す選択肢しかなく、「私のケースは参考にならないかもしれません」と前置きしたうえで、次のように語る。
「大学教授・准教授で生計を立てることをゴールに定めているビジネスパーソンの場合、40代のうちに準備を始めておく必要があると思います。また、数多くのライバルがいる中で、学士ではなかなか戦えません。最低でも修士、望むべくは博士を取得しておかないと、採用されるのは難しいと感じます。通信教育などでもよいので、学位は取得しておくべきです」
実務経験をもとに授業を展開、
活躍の場を広げキャリアを拓く
浜野氏は東京成徳大学において、前期(4月~9月)に週1コマ、全15回の「イベントプロデュース」の授業を担当。講義構成の時間配分や方法についても、養成課程で教えられたことをベースに組み立てているという。浜野氏が目指しているのは「学生にイベントをより好きになってもらうこと」であり、そのために様々な工夫を凝らしている。
「授業ではテキストをベースにしながら、今後開催されるイベントや、自分が過去に関わったイベントなど具体的なケースを織り込んでいます。授業を魅力的なものにするために、アカデミックな知見だけでなく、実務家教員らしい魅力的な経験談や、講義の深掘りの披露が必要だと考えています」
また、養成課程で活用されていたミニットペーパー(疑問や感想等を書き込む用紙)も活用している。
「学生の理解度や最近参加したイベントに関するコメントをミニットペーパーに書き込んでもらい、他の学生の参考になるようなイベント報告があったりした場合、次回のスライドに反映して『前回の振り返り』としています」
浜野氏は現在、大学教員の他にも様々な活動に携わっている。NHKで食と農をテーマにした大規模イベントを担当していた関係もあり、全国農業協同組合中央会(JA全中)で「実りのフェスティバル」「食料フォーラム」などを担当するとともに、副業として演劇やアートに関する団体・プロジェクトに協力している。
また、居住地の西東京市の農業振興計画推進委員会の市民委員や、「TAMA市民塾」での半年間の講義「美術展誕生・舞台裏から楽しむアート鑑賞」も今年4月から担当。さらに「むさしの会」という異業種交流会や社会人のための地域おこし勉強会などを主催するエコツェリア協会、イベント学会などに参加してきた。
「こうした場を通じて知り合った多様な人たちの活動は、大学での授業にも盛り込めると感じています。現在67歳ですが、東京成徳大学の講師もJA全中の雇用も70歳で終了するため、こうした諸活動が次の展開につながることを期待しています。TAMA市民塾のような社会人教育でも、大学教員の経験は活かせると考えています」

2023年10月、武蔵大学で特別講義を行った。