観光業界で培った実践知を活かし、人材育成と社会課題解決に力を注ぐ

JTBグループで実務経験を積んだ澤井萌氏は、中高一貫校の教員を経て、大学教員へと転身。大学教員のキャリアを切り拓くにあたり、社会構想大学院大学の実務家教員養成課程を受講した。澤井氏は養成課程で得た学びを活かし、大学での教育研究に邁進している。

自らの関心と経験を活かせる
キャリアの選択肢

澤井 萌

澤井 萌

茨城キリスト教大学 経営学部経営学科 助教
社会構想大学院大学 実務教育研究科 非常勤講師
名古屋大学大学院国際開発研究科国際コミュニケーション専攻を卒業。2008年~2018年、株式会社JTBグローバルマーケティング&トラベルエージェンシー営業部にて海外の旅行会社への企画提案営業。2018年~2021年、株式会社JTBに出向し、東京都の誘客事業に携わるとともに、公益財団法人東京観光財団にて外国人向け体験事業者のアドバイザーを務める。2021年~2024年3月、横浜女学院中学校高等学校にて英語科教員として勤務。2023年、社会構想大学院大学 実務家教員養成課程を修了。2024年4月、茨城キリスト教大学文学部現代英語学科 助教。2025年4月、茨城キリスト教大学 経営学部経営学科 助教。同年4月、社会構想大学院大学 実務教育研究科 非常勤講師。

澤井萌氏は、名古屋大学大学院で国際コミュニケーションを専攻した後、2008年からJTBグループの社員として長年にわたり観光業界で活躍し、インバウンド事業にも従事した。2021年、澤井氏は実践的な英語教育に定評のある横浜女学院中学校高等学校の教員へと転身。「JTBグループで教育旅行や教育機関との連携事業にも携わる中で、自分の実務経験を子どもの教育や英語教育で活かしたいという気持ちが芽生えました」と、澤井氏は振り返る。

澤井氏は横浜女学院中学校高等学校で英語の授業などを担当。充実した教員生活を送りながらも、観光と英語をより掛け合わせた教育に取り組みたいと考え、大学教員のキャリアに関心を持つようになった。しかし2022年には大学教員の公募に1件応募したものの、書類選考で落選した。

「大学教員の公募に応じるためには、教育研究の業績をまとめた『教員調書』が必要ですが、当時はその書き方もわかっていませんでした。また、そもそも大学で教鞭をとるとはどういうことか、大学教員になるためには何が必要なのか。そうしたことを体系的に学べる場がないかを探し、見つけたのが社会構想大学院大学の実務家教員養成課程でした」

実務家教員養成課程は、企業人等が大学教員になるための知識とスキルを身につけるプログラムだ。2023年4月から約半年間、養成課程を受講した澤井氏は主に3つの学びを得たと語る。

1つ目が、大学教育のあるべき姿への理解だ。各大学は、ディプロマ・ポリシー(学位授与の方針)、カリキュラム・ポリシー(教育の方針)、アドミッション・ポリシー(入学者受入れの方針)を掲げている。「3つのポリシーでその大学の目指す方向性が示されていますから、それに基づくシラバス(授業計画)の作成が大切であると理解しました」。

2つ目が、実践的な知識やスキルの修得だ。例えば、教員調書の書き方に関する講義は、そのまま応募書類の作成に役立ったという。「養成課程において、ビジネス実務経験を『教育研究』や『教育上の能力』に変換・翻訳する技術を学んだことで、書類審査の通過につながったと思います」。

印象的だったのは、ビジネス実務で作成した報告書等も研究業績として扱えるというアドバイスだった。「学術論文でなければ研究業績にならないと思い込んでいました。養成課程でアドバイスを受けて、教育研究業績書の内容を充実させることができました」。

3つ目が、研究活動の重要性について認識を深められたことだ。「実務家教員にとっても研究は大切です。実務の専門性を研究活動にどのように活かせばいいのか、実務と理論をどのように結び付けていくかを学べたことが、現在とても役に立っています」。

自らの実践知を通じて、
大学での教育研究を深める

澤井氏は、2024年4月から茨城キリスト教大学の助教を務めている。同大学の教員の公募が出たのは、養成課程を受講している最中の2023年5月だった。

茨城キリスト教大学のキャンパス(茨城県日立市)。

「2023年4~5月の頃、自分の実務経験と親和性の高いキーワードで大学教員の公募サイト『JREC-IN』を日々検索していて、茨城キリスト教大学の教員募集を見つけました。担当予定科目が『観光英語』等で、観光業界での実務経験を有することが応募の要件でした。実はその時、養成課程の先生からもメッセージが届いて、『この募集は澤井さんの専門性に合っているから応募できるのではないか』と教えていただいて、その後押しもあって応募を決めました」

書類選考は無事に通過し、7月には面接・模擬授業にのぞんだ。養成課程には模擬授業を実践する講義もあり、採用試験の模擬授業ではその経験が役立ったという。そして8月に内定を獲得した。

現在、澤井氏は茨城キリスト教大学において、「観光英語」「ホテル英語」等の語学系講義、「観光業界研究」等の実務系講義、「旅行業法・約款」等の資格系講義を担当している。

授業での工夫について、「まず学習目標の明確化、そして学生が自分ごととして捉えられる問いの設定を心がけています。小グループでのディスカッションを取り入れ、アクティブラーニングで双方向型の授業を目指しています」と語る。

澤井氏はアクティブラーニングを取り入れた授業を実践。

研究面では、自身の実務経験を活かした教材作成や事例研究に取り組んでいる。「観光インバウンド事業で培ってきた知見を形式知化し、汎用的に使えるものにすることを目指しています」。

澤井氏は2025年4月から社会構想大学院大学 実務教育研究科の非常勤講師も務め、社会人向けの教育を行っている。社会人大学院での授業について、「受講者が実務をやっている方なので、私自身も学ぶことが多く、やりがいを感じています」と話す。

茨城キリスト教大学における教育研究活動も、今後より深めていきたいと語る。「言語だけでない、他者理解や他者尊重を含めたグローバルコミュニケーションを通じて、就職活動や社会に出てからも通用するマインドセットや社会人基礎力を育みたいと考えています」。

そのために、講義で学んだことを、学生がフィールドで実践する場を数多く提供していきたいと展望を描く。課外活動も充実させ、キャンパス内外で観光人材の育成を目指している。

また、産官学の連携も深めていきたいと語る。「実務家としてのキャリアを活かし、研究者との連携だけでなく、企業や自治体とも連携しながら、地域の観光課題を解決していきたいと思います」。実践知を通じた人材育成と社会課題解決に向けて、澤井氏は実務家教員として今後も新たなチャレンジを続けていく考えだ。