実務と教育研究のシナジーを追求 実践知を体系化し、次世代につなぐ
長年、パナソニックグループで情報セキュリティ分野に携わってきた常川直樹氏。自身の実務経験を体系化し、次世代へと継承するために大学教員を志し、社会構想大学院大学「実務家教員養成課程」を受講。現在は大学教育にも携わり、ビジネスと教育の両面でキャリアの幅を広げている。
養成課程を受講し、
自身のスキルを棚御し

常川 直樹
パナソニック コネクト株式会社
IT・デジタル推進本部
情報経営イノベーション専門職大学
客員教授
社会構想大学院大学 実務家教員養成課程 修了生
北陸先端科学技術大学院大学 博士前期課程 修士(知識科学)/技術経営(MOT)。社会構想大学院大学 実務家教員養成課程 修了。大学卒業後、パナソニックグループにてSE、営業、情報セキュリティ(ISMS、リスク管理、監査等)業務を歴任。現在はクラウド・プライバシー対応を含む事業支援コンサルティングに従事する一方、大学教育や多くの企業に対する人材育成、情報セキュリティ監査にも携わる。
(LinkedInプロフィール)https://www.linkedin.com/in/naoki-tsunekawa/
(大学の教員サイト)https://www.i-u.ac.jp/academics/faculty/naokitsunekawa/
常川直樹氏はパナソニック及びグループ会社において情報セキュリティの専門家としての実践を積み、定年後はパナソニック コネクトにて、情報セキュリティの知見を活かした様々な事業支援に従事している。同時に、情報経営イノベーション専門職大学の客員教授として、主に情報セキュリティ関連の講義を担当するほか、日本大学生産工学部でゲスト講義など、大学教員としての活動も広げている。
常川氏が大学教員というキャリアを視野に入れ始めたのは、2021年の頃だ。当時、60歳の定年退職を控えた時期であり、自身のセカンドキャリアについて自問自答していた。
「自分には専門家としての自負はあるが、それは会社の外の世界でも通用するのか」「これまで積み重ねてきたセキュリティの実践知を体系化し、次世代につなげたいが、どうすればいいのか」などと考える中で、大学教員という選択肢を考えるようになった。そして2022年4月~9月、社会構想大学院大学の実務家教員養成課程(10期)を受講した。
同養成課程は、企業人等が大学教員になるための知識や技能を身に付けるプログラムだ。養成課程では、「教員調書」に関する講義も行っている。大学の教員募集に応じるためには、自らの教育研究業績を記した「教員調書」が必要になり、その作成にあたっては、自身のキャリアを棚卸しし、実務経験をもとに何が指導できるかを明らかにしなければならない。
常川氏は養成課程で自身のスキルを棚卸しして、実務家教員として自分の強みを再認識できたと振り返る。
「これまでのキャリアを見つめ直し、パナソニックグループでの実務経験のほか、社内講師を含めた教育経験、大学院や学会での研究経験に加え、公的資格等を客観的視点で整理することで、自身の現在地も大枠でつかめました。研究実績ではアカデミック教員には敵いませんが、私は現場の最前線にいることが強み。ビジネスの現場で理論を実証・応用し、それを教育に還元する。それが実務家教員の差別化ポイントであり、戦略だと確信しました」
積極的な情報発信や
外部交流でチャンスを広げる
養成課程では、15回分の授業計画(シラバス)の作成も学ぶ。「スキルを中核に、実践と理論のバランスを意識して授業設計を行い、アクティブラーニングも取り入れました」。
そのほか、先輩実務家教員による事例研究や、自身のシラバス・教案(指導案)・教材をもとにしたし授業の実践なども、現在の糧になっていると語る。「養成課程において実務経験を体系化し、調書やシラバス、講義資料等をまとめたことが、その後の大学教員としての活動を支えています」。
また常川氏は、以前から学会参加やSNS等での情報発信を通じて専門性を磨き、外部とのネットワークを広げてきた。最近では、情報セキュリティやリスクマネジメントに関する相談も増えているという。
「社内でプロと思っていても、外部にまでは伝わりません。だからこそ、発信と交流を意識的に行うことが重要です。偶然の機会は待つのではなく、自ら志し動いた者にのみ、その偶然は訪れるのだと考えています」
常川氏は、養成課程の受講生・修了生とのつながりも大切にしている。養成課程の後輩である14期・15期に対して自らのケースを題材とした講義でゲスト講師を担当。また、実務家教員としての仲間づくりにも積極的で、Facebookグループ「実務家学習サロン」では、受講生や修了生とともに学びを継続している。
学びを授業で実践、
次世代への継承を目指す
積極的な情報発信やネットワーク構築が実を結び、常川氏はパナソニック コネクトに在籍しながら、2022年6月から情報経営イノベーション専門職大学の客員教授を務めている。「情報セキュリティやDXをテーマに、最新の事例を交えた実践的な講義を心がけています」。

常川氏が客員教授を務める情報経営イノベーション専門職大学。
さらに2024年1月には、日本大学生産工学部の講義で「事例から考える事業創出時の機会とリスク」をテーマにした講義も行った。

2024年1月、日本大学生産工学部でゲスト講師を務めた。
「日本大学では必修科目の授業に登壇し、約200名の学生が出席しました。アクティブラーニングの手法を用いて大事なポイントを話し、そこに紐づくケーススタディを実施し、さらにグループディスカッションの時間も組み合わせて、90分間の授業を設計しました。学生が理解を深められる授業を実践するうえで、養成課程で学んだ知見はとても役に立っています」
授業後の学生アンケートでは、「実務的で最先端の内容の講義で、就職する時に参考になると思った」「ビジネス現場では、セキュリティ事故が企業の経営を左右するリスクがあると分かった」「ビジネス現場のセキュリティを疑似体験できてよかった」といった感想が寄せられるなど、自身の講義が次世代への伝承につながっていると手応えを感じたという。
実務経験を活かしながら、着々と大学教員としての実績を重ねている常川氏だが、現状では、「実務(ビジネス):教育:研究」の割合は、「8:1:1」程度の比率になっていると言う。今後、その時々の社会的ニーズや自分のポジションによって、この割合(キャリアポートフォリオ)を柔軟に組み換えていきたいと語る。
「ビジネスでの経験を教育や研究に活かし、そこで得た知見をまたビジネスにフィードバックする。ビジネス、教育、研究について、この3つの領域のシナジーを生み出しながら、セカンドキャリアをより豊かなものにしていきたいと思っています」