『為にする教育』からの脱却 価値創造につながる教育を

大関 洋

大関 洋

ニッセイアセットマネジメント株式会社
代表取締役社長

世界を取り巻く環境は目まぐるしく変化しており、企業経営においても大胆なパラダイムシフトが求められています。以前は、“ESG”という言葉は金融業界の専門用語でしたが、気候変動問題が大きく注目される今日では一般的なビジネス用語となり、カーボンニュートラルの実現は多くの企業が重要課題と認識し、具体的な取組みも進んでいます。情報開示でもTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の提言を受けた情報開示が進む中で、気候変動だけでなく多様なサステナビリティ関連の財務報告が要請される流れとなっています。一方、企業側では気候変動だけでなく人的資本に関する情報等の多様な開示を求められることに戸惑いの声も上がっています。

当社ではESG投資の際に、良いESG取組みをしているだけでなく、その取組みが企業収益に有機的に結び付けられて、はじめて高いESG評価をする、言わば“現金なESG評価”をしてきました。例えば気候変動へ良い取組みをしていても企業価値向上に向けたつながりがなければ良い投資対象とはみなさない。それはESGのS(社会)要因でも同様です。

現在、多くの企業が人的資本経営の重要性を理解し、リスキリング・リカレント教育に取り組んでいると思いますが、投資家としては教育といえども企業価値の向上につながるものであるかを問わなければなりません。良い従業員教育をしていても、それが事業の発展に活かされる道筋は用意されているでしょうか。個々人にとっては良い教育は常に意義あるものです。ただ投資家からは“為にする教育”だけでは評価されません。企業の価値創造に貢献するために必要な教育は何かを特定し、価値創造と紐づけられた人的資本形成への取組みが今まさに求められています。

当社は、「A Good Investment for the Future」をスローガンとして掲げていますが、教育においても時間と労力を割いた取組みが将来に向けた「Good Investment」になっているかどうか、しっかり見極めて、企業の成長と同時に、持続可能な社会の実現に投資家として貢献していきたいと考えています。