大学経営を支える新モデルの確立へ 金融機関のトップから東京大学CFOに

菅野 暁

菅野 暁

東京大学 執行役・CFO
元アセットマネジメントOne株式会社 取締役社長

私は41年間の民間金融機関勤務の後、2023年8月に東京大学のCFO(最高財務責任者)に就任しました。私のキャリアをお話しすると、1982年に旧・日本興業銀行(現・みずほ銀行)に入行し、ファンドマネジャーを務めるなど、長年にわたり資産運用の分野で経験を積んできました。そして、みずほフィナンシャルグループ(みずほFG)の副社長を経て、2018年にアセットマネジメントOneの社長に就任しました。アセットマネジメントOneは、みずほFGの資産運用会社です。私は社長としてESG投資の強化に取り組み、投資先企業との対話を重視し、長期的な企業価値の向上、サステナブルな成長への貢献に尽力しました。

また、みずほFGの役員時代には国際部門の統括も担当しました。日本企業が世界での競争力を高めるには、より本格的な経営のグローバル化が不可欠であると強く実感しました。

ESGの重視や国際競争力の向上は、現在の東京大学が抱えている課題にも通じるところがあります。英教育データ機関、タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)による2023年の世界大学ランキングにおいて、東京大学は29位に位置し、残念ながら世界トップ10には入っていません。特に国際性に関する指標で評価が低くなっています。

東京大学は教育研究のグルーバル化をより一層、推し進める必要があります。そのためには資金調達を多様化し、財務基盤を拡充することが欠かせません。具体的な方策の一つが、ファンドレイジング(寄附獲得)の強化です。今後、社会との対話・共感を通じた渉外活動を効果的に実施し、寄附者への訴求を高めていきます。また、大学債の発行や資金運用の高度化により運用益を拡大し、自律的な大学経営を可能にする財源の多様化・拡充を図ります。

私はアセットマネジメントOneの社長時代、人的資本経営コンソーシアムの発起人を務めました。「人」は組織の競争力の源泉であり、人づくりの担い手として、大学は人的資本経営の基盤となる重要な役割を果たします。次世代の知の創出や人材の輩出に向けて、東京大学が持続的な組織体として発展していけるように、新しい大学経営モデルの確立に貢献していきたいと考えています。(談)