ハチの研究者が「実務家教員養成課程」で学んだ アクティブラーニングの力
企業において、長年、マルハナバチの研究と農業利用に取り組んできた光畑雅宏氏。農家への技術講習やシンポジウム等での講演などにも力を注いできた光畑氏は、社会構想大学院大学 実務家教員養成課程でアクティブラーニングの手法を学び、それを自身の活動に活かしている。
マルハナバチの研究に尽力し、
農業利用の確立に貢献
光畑 雅宏
アリスタライフサイエンス株式会社
千葉大学大学院 園芸学研究院 非常勤講師
社会構想大学院大学 実務家教員養成課程 修了生
1971年生まれ。玉川大学大学院 農学研究科資源生物学専攻 修士課程を修了。専門は送粉生物学、応用昆虫学、動物行動学。養蜂・健康食品関連企業を経て、2000 年に株式会社トーメン生物産業部(現 アリスタライフサイエンス株式会社)入社。学生時代よりマルハナバチの研究に関わり、在来種マルハナバチの実用化、利用方法の確立に貢献。著書に『蜂の奇妙な生物学』(技術評論社)、『マルハナバチを使いこなす』(農文協)など。2022年9月、社会構想大学院大学 実務家教員養成課程を修了。
光畑雅宏氏は、学生時代から一貫してマルハナバチの研究に携わってきた。玉川大学農学部で昆虫学を専攻し、ヨーロッパから輸入されていた外来種のマルハナバチに代わり、日本在来種の利用方法の確立に取り組んだ。現在、マルハナバチは数多くの農作物の受粉に利用されている。しかし当時は、日本ではマルハナバチの研究者はごく少数で、農業利用の認知度も高くなかったという。
光畑氏は玉川大学大学院の修士課程を修了した後、食品関連の企業を経て、2000年にトーメン生物産業部(現・アリスタライフサイエンス)に入社。以来、在来種マルハナバチの実用化と農業利用の普及に力を注いできた。併せて、農林水産省や環境省の専門家会合にも参画し、政策提言にも携わってきた。
さらに、研究開発だけにとどまらず、農家への技術講習はもちろん、農作物流通関係者や学生、一般向けの講演など、数多くの場でハチの魅力や価値を伝えてきた。2023年には著書『蜂の奇妙な生物学』を刊行し、ハチ類の多様な生態への理解促進に尽力している。
養成課程で教授法を学び、
その知見を自身の活動に還元
トマトの花を受粉するクロマルハナバチ
©MITSUHATA Masahiro
2020年以降に本格化したコロナ禍は、光畑氏にとって自身を見つめ直す契機となった。活動が制限される中で、自身の研究を振り返り、視野の狭さを痛感したという。これまでの研究活動が応用分野に偏重していたため、基礎研究の知識不足が壁となることもあった。例えば、ある品種の梨にマルハナバチが訪花しない理由が、花粉中のタンパク質含有量の違いにあることを見出すまでに時間を要した。
「基礎研究の土台がないと、応用でつまずいたときに結局、解決策が見出せないと気づきました」
そんな時、SNSの広告で目にしたのが社会構想大学院大学の実務家教員養成課程だった。同課程は、社会人等が大学教員になるための知識や技能を身につけるプログラムだ。シラバス(授業計画)作成、授業設計や教育方法、学術研究の基礎、応募書類の作成法などを網羅的に扱う。光畑氏は、2022年4月~9月に養成課程を受講した。
「教授法を体系的に学ぶ機会はこれまでほとんどなく、目から鱗の連続でした。授業は週1回でも内容は濃く、働きながら課題をこなすのは大変でしたが、大きな糧になりました」
特に印象に残ったのが、学習者の主体性を引き出すアクティブラーニングの手法だ。光畑氏はハチに関する講演やプレゼンテーションを数多く行ってきたが、それまでは「熱意のまま話す」ことが多かった。養成課程での学びを経て、問いを投げかけ、考えを引き出し、双方向の学びを設計する重要性を理解した。
現在では一般向け講演でも、途中でクイズを出して興味を引いたり簡単なワークを取り入れるなど、受講者の参加を促す工夫を取り入れている。「聴衆を巻き込むことで、学びの深まり方が全く変わると実感しました」と語る。
また、現在、千葉大学大学院 園芸学研究院の非常勤講師として、アントレプレナーシップ講義を担当。学生に問いを投げかけ、議論を促すスタイルは、養成課程での学びを活かしたものだ。
光畑氏は、2025年8月に大阪・関西万博イタリアパビリオンで開催された、「ミツバチと生物多様性」をテーマにしたトークセッションに登壇。
仲間の存在が大きな刺激、
博士号の取得へ論文を執筆
養成課程での学びとして、シラバス作成方法や、大学教員の公募に応じるために必要な教育研究業績書の書き方なども、大きな意義があったと感じている。研究業績の棚卸しや教育目標の言語化も行うため、自身のキャリア全体を見直す機会となった。
光畑氏は「今後のキャリアを見据えて大きな示唆がありました」と語る。自らの専門性を社会にどのように還元していくかを考える視点が養われたという。
また、養成課程で共に学んだ仲間の存在も「かけがえのない財産になっています」と語る。光畑氏が受講した養成課程の第10期(2022年4月~9月に開講)の仲間との交流は今も続いており、さらに期を超えたネットワークも広がり、コミュニティが形成されている。業界や専門分野を越えて議論できる仲間の存在が、研究にも教育にも新たな視点をもたらし、大きな刺激になっている。
養成課程では様々な業種・業界の企業人が学んでいるが、文系分野のキャリアを歩んできた人が多い傾向にある。光畑氏は養成課程を修了後、実務家が大学教員を目指すうえで、理系分野特有の課題も感じるようになった。文系分野では実務経験が評価されて大学教員になるキャリアが開かれているものの、理系分野で大学教員になるためには、実務経験だけでは難しく、博士号の取得が不可欠であることを痛感した。
この現実を受け、光畑氏は博士号取得を決意。在来種マルハナバチの利用をテーマにした論文を執筆し、現在、予備審査を通過し本審査に臨んでいる。2026年夏までには博士号を取得できる見込みだ。これからも自身の専門分野である昆虫の研究を追求し、環境教育などの社会活動に力点を移すことができるよう、大学教員への転身を志している。