大学教員のキャリアを視野に、学びと実践のチャレンジを続ける
美容サロン経営、起業支援など、多彩なキャリアを重ねてきた君山純氏。社会構想大学院大学 実務家教員養成課程を受講し、「教員」という仕事の価値を再確認した。現在、高校の非常勤講師や地域での活動に力を入れるとともに、大学院進学を視野に入れ、新たな挑戦を続けている。
美容サロン経営などを経て
実務家教員養成課程を受講
君山 純
アールケイ企画合同会社 代表社員
飛鳥未来きぼう高校 非常勤講師(社会科)
事業構想大学院大学 事業構想研究所プロジェクト研究員(土浦市)
社会構想大学院大学 実務家教員養成課程 修了生
1968年生まれ。教員免許を取得するも大学卒業後、民間へ就職。2人目の育児休暇後の2001年会社を退職し、独立開業。コロナ禍に事業転換し、2022年に会社設立。2023年3月、社会構想大学院大学 実務家教員養成課程を修了。2024年に教員免許を活用し初の学校現場で教鞭をとる。
美容サロン経営の経験を活かし、自身の会社「アールケイ企画」を設立して、茨城を拠点にコンサルティング業を営む君山純氏は、2022年9月~2023年3月に社会構想大学院大学の「実務家教員養成課程」を受講した。同課程は、企業人等が大学教員になるための知識や技能を体系的に身につける教育プログラムだ。
受講のきっかけは、コロナ禍を機に自身の今後の方向性を考えていた時、インターネット広告で養成課程の存在を知ったことだったという。
「祖父が小学校の教師をしていた影響もあり、大学時代に教員免許を取得しました。卒業後は民間企業に就職しましたが、『教えることが好き』という思いはずっと心の中にありました。仕事で培った経験を教材にして大学で教えることができるなら、挑戦したいと考えました」
君山氏が大学卒業後に就職したのは、エステ事業を展開する企業だった。約8年半勤務したが、第2子の出産で育児休暇を取得した後、復職して働く中で、育児期の女性がキャリアを築く難しさを痛感。2001年に退職し、30代前半で美容サロンを立ち上げ、個人事業主として独立した。
当時は経営の知識が乏しかったため、苦労も多かったが、地域の商工会の講座などで経営を学んだ。また、並行して、退職した会社の業務も一部手伝うようになった。
しかし、2020年春に始まったコロナ禍は、美容サロンの集客にも大きく影響した。逆境に見舞われる中で、君山氏は経営相談や起業支援の仕事も開始。事業を軌道に乗せ、2022年にアールケイ企画として法人化した。君山氏はこうした経験を糧に、大学教員としても自身の活躍の場を広げたいと考えた。
受講を契機に活動の場を広げ、
高校の非常勤講師に就任
実務家教員養成課程では、大学教員の公募に必要となる「教員調書」の作成、体系的な指導のためのシラバス(授業計画)作成、効果的な授業を行うための教授法、研究の基礎など、大学教員に求められる幅広い知識を学ぶ。さらに、準備したシラバス・教案・教材を用いて模擬授業を行う実践的なカリキュラムを提供している。
「講義は幅広く、6ヵ月で修得するのはとても大変でした。しかし、専門の先生方が『大丈夫』という姿勢で親身に支えてくださり、その魔法のような後押しに助けられながら、最後まで走り抜けることができました」
大学教員の公募の際に提出する「教員調書」には、自身の教育・実務業績等を記載する必要がある。教員調書の作成にあたっては、自身のキャリアや経験を棚卸しし、自分が大学で何を教えられるのかを明確化しなければならない。君山氏は養成課程で教員調書の作成に取り組んだが、自分には「何も書けることがない」という現実に直面した。
「ありのままの自分では、未来は切り拓けないと実感しました。それで、次の目標として、自分の専門にできるコンテンツを確立したいと考えました」
君山氏は養成課程の受講後、地域活動も含めて積極的に動くようになった。地元である茨城県小美玉市の国民健康保険事業に関する協議会の委員や、男女共同参画審議会委員を務めた。
2024年4月には、単位制・通信制高校の「飛鳥未来きぼう高等学校」の非常勤講師に就任した。全国で専門学校等を展開する三幸学園が運営する同校は、2024年4月に水戸本校を新設。君山氏は、開校前の募集で社会科の非常勤講師として採用された。
「大学時代に社会科の教員免許を取得していたので、初めての有効活用になりました。高校教員になったのは、大学教員を目指すうえで、教育現場での実績が重要だからです。また、今の高校生を理解したいという思いもありました。水戸本校は開校したばかりで、全員がスタートアップのような雰囲気で、とても働きやすい環境です」
大学院の修士課程で学び、
大学教員になることを目指す
君山氏は現在、飛鳥未来きぼう高校で週7コマの対面授業を担当し、歴史総合、地理総合、公共、日本史探究、政治経済という5科目を3学年に教えている。
「一方通行で教えるのではなく、生徒に問いを投げかけ、共感や理解を確かめながら授業を進めています。通信制高校には多様な背景や学力の生徒が集まるため、授業運営には工夫が必要で苦労することもあります。しかし、子どもたちには知る権利があり、一人一人の学習の機会を奪わないよう常に心がけています」
君山氏はアールケイ企画の代表を務めながら、高校教員としての仕事も疎かにせず、学校の会議や行事にも積極的に参加している。
アールケイ企画では多様なスキルを持つ専門家がチームを組み、中小企業を支援。
「単に教科を教えるだけでなく、学校の方針や生徒たちへの理解を深めることが大切だと考えています。また、学校の運営を経営目線で見ることができて、その点でも興味深い経験を積んでいます」
アールケイ企画では現在、中小企業のブランディング支援、ウェブサイト制作、IT研修などに力を入れている。クライアントは地元の中小企業の2代目や3代目の経営者が多く、企業理念やビジョン構築など、経営の根幹に踏み込んだ伴走支援を行っている。
また、2025年6月からは、茨城県土浦市・田中鉄工・事業構想大学院大学が進める「ZERO-CARBON TSUCHIURA 事業構想プロジェクト研究」に研究員として参画。土浦市域でのゼロカーボンシティ実現を目指す産官学連携の取組みに加わっている。
自身の学び直しも続け、データサイエンティスト養成講座を受講し、今後はデータに基づく経営支援にも取り組む予定だ。さらに大きなチャレンジとして、2026年4月から大学院の修士課程に進学する計画を立てている。
「現在57歳ですが、60歳までに修士課程を修了し、将来的には大学教員として経営系の科目を担当したいと考えています。その目標に向けて、今は一歩一歩、着実に準備を進めています」