企業の技術者から大学教員へ転身 実務と学術の架け橋を目指す
企業で光学機器の製品開発に従事してきた岡本鉄兵氏は、社会構想大学院大学「実務家教員養成課程」の受講を経て、大学教員へと転身。人間工学(主にユーザビリティ)に関わる技術開発、ISO・JISの標準化活動などに携わってきた経験を活かし、理論と実践を往還する教育活動に力を注ぐ。
企業に勤めながら博士号を取得、
大学教員というキャリアに関心
岡本 鉄兵
流通経済大学 流通情報学部 准教授
社会構想大学院大学 実務家教員養成課程 修了生
1976年生まれ。東京電機大学大学院理工学研究科修士課程修了。博士(情報学)。2002年、旭光学工業株式会社(現リコーイメージング株式会社)入社。以来20年以上、光学機器(デジタルカメラ、フィルムカメラ等)の製品開発に従事。製品搭載する機能開発およびその操作方法(インタラクション)の仕様設計、ユーザビリティの推進、特許関連業務を担当。2022年、博士号(情報学)を取得。2023年9月、社会構想大学院大学実務家教員養成課程を修了。2025年4月、流通経済大学 流通情報学部准教授に就任。
岡本鉄兵氏は2002年に大学院修士課程を修了後、旭光学工業(現・リコーイメージング)に入社した。その後は20年以上にわたり、デジタルカメラやフィルムカメラなど光学機器の製品開発に従事。製品に搭載する機能の開発や操作方法(インタラクション)の仕様設計、ユーザビリティや特許の推進を担当してきた。
企業の技術者としてキャリアを積んできたが、専門分野の情報収集も兼ねて学会など外部のコミュニティにも参加。また、大学時代の恩師から「実務経験を活かして論文を書き、学位を取ってはどうか」と勧められ、職場の上司の承諾も得て2022年に博士号(情報学)を取得した。
「その後は学会活動でお世話になっていた先生方や大学教員の友人から、大学の教員採用への応募を勧められました。そして大学教員の公募サイト『JREC-IN Portal』を見てみたところ、私の専門分野でも様々な公募があることがわかりました。しかし、応募書類には教育研究の実績を書かなければならず、自分の経験では足りないと感じました」
そうした時、社会構想大学院大学の「実務家教員養成課程」の存在を知った。同課程は、企業人等が大学教員になるための知識や技能を身につける教育プログラムだ。岡本氏は2023年4~9月、養成課程を受講した。
養成課程でキャリアを棚卸し、
自分の「強み」を見つめ直す
養成課程には、大学教員の公募で必要とされる「教員調書」作成に関する授業がある。それは岡本氏にとって、自身のキャリアを見つめ直す機会となった。
「キャリアを棚卸しし、学術的な観点で『自分の専門は何か』『実務経験に紐付いた強みはどこにあるのか』を整理することができました」
岡本氏は長年の仕事で携わってきたUI/UXなど人間工学という専門領域に加え、標準化(ISO/JIS)と特許・知的財産分野での経験も持つ。
「養成課程にはシラバス(授業計画)作成の講義があります。UI/UXと標準化、そして特許を掛け合わせれば、自分の強みにできると考え、それを活かした授業計画を立てました」
また、企業での実務経験を大学の授業に落とし込むための方法も学んだ。学生の学びを最大化するためには、単に現場での経験を語るのではなく、学術的な理論の中に位置づけ、実践知へと昇華することが重要になる。
「実務家教員は産業界と学術界を往還する存在です。教科書の内容を教えるだけでなく、実務の知見を学問的体系に組み込むことが欠かせません。理論と実践の架橋を実現するために、養成課程ではシラバス作成や授業の設計、アクティブラーニング(ディスカッションやワークショップなど)の手法、成績評価の方法まで、半年間で集中的に学ぶことができました」
養成課程では模擬授業も経験した。そこでのフィードバックは、その後の教員生活にも役立っているという。
実務で得た知見を活かし、
大学での教育研究に取り組む
岡本氏は2023年9月に養成課程を修了した後、大学教員の公募への本格的なチャレンジを開始。数件の応募を経て、流通経済大学に採用された。
「応募する大学を選ぶ際、その大学の歴史や文化、理念などで『実学』が重視されていることを確認しました。流通経済大学は日本通運の支援によって設立された大学で、産業界との連携を重視し、物流や経済分野で産業界に貢献する人材育成を行っています。実務家教員への理解と期待は高いと感じました」
流通経済大学の新松戸キャンパス。同大学は産業界との密接な連携の下、広く産業界に貢献できる人材を育成。
岡本氏は2025年4月、流通経済大学流通情報学部の准教授に就任。「ヒューマンインタフェース論」「WEBデザイン演習」「マルチメディアコンテンツ」「情報化社会における職業と倫理」という4つの専門科目のほか、1~3年生の演習(ゼミ)を担当している。これらの授業では、実務経験で得た豊富な知見を活かしている。
「例えば企業では、ISO/JISなどで標準化した規格を準拠することによって、商品の安全性や利便性を担保しています。WEBサービスの開発においても、人間工学規格をよく理解した上でデザインに反映させる必要があります。WEBデザインの授業では、自分が標準化規格に関わってきた経験を活かし、人間工学規格に基づくデザインの評価と改善、規格の利活用についても教えています」
専門分野のヒューマンインタフェースを含む人間工学は、人とモノ、人と環境の関係を最適化し、幸福を追求する科学技術だ。理論と実践が比較的近い距離にあることから、実務家出身の教員が活躍しやすい土壌があるという。
授業では養成課程で学んだアクティブラーニングも積極的に取り入れ、座学の後に演習を行い、グループワークで議論を深めることも多い。また、研究面では、流通と情報の専門家が所属する流通情報学部の特徴を活かし、物流の課題解決などに取り組んでいく方針だ。
大学教員の仕事について岡本氏は「忙しくても非常に楽しく、やりがいを感じています」と話す。以前の仕事ではBtoCの製品開発に従事しており、ユーザーの顔が比較的見えやすい状況にあった。しかし、現在の仕事における「顧客」は、さらに見えやすく、目の前にいる学生たちだ。
「授業に対する反応はダイレクトに返ってきて、反応は日々異なります。いろいろな学生がいて、授業は予想外の展開になることもありますが、とても刺激的です。今後は教室内の授業にとどまらず、学外での課外活動にも取り組むなど、学生たちにより実践的な学びの場を提供していきたいと考えています」