目的に合わせた効果的な学習法を 科学に基づく英語学習法とは?

グローバル化が進むなか、“英語を学び始めたものの、なかなか上達しない”と悩む人は多い。無料アプリからオンライン英会話、ラジオ講座と多様な学びの機会があふれるが、学習効率を最大化する方法はあるのか。第二言語習得研究を専門とする立教大学の中田達也教授に聞いた。

独学で英語を学ぶ人の
道しるべに…

中田 達也

中田 達也

立教大学 異文化コミュニケーション学部・異文化コミュニケーション研究科 教授
応用言語学博士。主な研究テーマは第二言語語彙習得および英語教育。外国語の語彙習得に影響を与える要因(学習の間隔・種類・頻度など)や、コンピュータを使用して外国語学習を支援する方法に関して研究を行っている。主な著書に『最新の第二言語習得研究に基づく 究極の英語学習法』(KADOKAWA)、『英語は決まり文句が8割』(講談社)、『英単語学習の科学』(研究社)。

──第二言語習得研究とはどのような研究分野ですか。

中田 第二言語習得研究は、応用言語学の一分野で、外国語がどのようなメカニズムで学習されるのかを調べる学問です。よく「中学・高校と6年間も英語を学んだのに話せるようにならなかった」という話を聞きますが、学校の英語教育に関しては期待が高すぎる気がします。

英語を母語とする子どもが英語を習得するために必要な時間は17,520時間ほどだと推定されています。日本の中学・高校の英語の授業は約3,000時間。母語習得に必要な時間の約6分の1にすぎません。「中学・高校で英語を勉強したけれど話せるようにならなかった」というのは、「音楽の授業を受けたのにピアニストになれなかった」のと同じくらい、当たり前のことと言えます。高度な英語力を身につけるには、学校外でも英語学習を継続する、学び直していく必要があります。その際に役に立つのは「どのようにすれば効果的に英語学習ができるのか」という英語の学習法に関する知識です。

──2023年9月に書籍『最新の第二言語習得研究に基づく究極の英語学習法』を上梓されました。

中田 英単語や英語定型表現に関する書籍をこれまでに出しましたが、英語学習全般を扱ったものは書いてきませんでした。

独学で英語を身につけたいと考える方の道しるべとなるようなものをと、今回の書籍を執筆しました。

学習法の組み合わせが重要
目的により学習法は変わる

──読者に最も伝えたいことは?

中田 英語学習に関しては、「これさえやればいい」といった万能な学習法はありません。どんな学習法にも利点と欠点があり、様々な学習法を組み合わせることが重要です。このため、書籍でも、英語を学ぶ上で知っておいてもらいたい英語学習の原則や概念をいくつか紹介しています。例えば、英語学習は〈言語重視の学習〉と〈意味重視の学習〉に大きく分かれます。〈言語重視の学習〉とは、単語や英文法を学ぶなど英語自体を意識的に学ぶことで、〈意味重視の学習〉は読んだり聞いたりする中で文脈から自然に英語を身につけることを指します。

〈言語重視の学習〉の利点は効率が良いことですが、学んだ知識が必ずしもコミュニケーションにすぐ使えるとは限らないという欠点があります。〈意味重視の学習〉は、文脈の中で言語に接するため、学んだ単語や文法を実際のコミュニケーションでいかに使うかを身につけやすい一方で、時間がかかり効率が悪い。英語学習に関して、「日本人は文法と単語ばかりやっているから話せるようにならない」という人もいますが、それは「〈言語重視の学習〉だけやっているからダメだ」という点では正しいと言えます。〈言語重視の学習〉だけでなく、〈意味重視の学習〉を組み合わせることが重要です。

──「聞き流すだけで英語が話せる」といった学習法が一時期、よく聞かれました。

中田 インプットとしてたくさん読んだり聞いたりすることは重要ですが、それは単なるインプットではなく、理解可能なインプットである必要があります。中学生にABCニュースやCNNのニュースをいきなり聞かせても、理解できなければ、あまり意味はありません。

「転移適切性処理説」という理論によれば、学習の形式とテストの形式が近ければ近いほど、テストでのパフォーマンスが上がるといいます。「なぜ、英語を身に付けたいか」という目的によって、適する学習法は変わってきます。

つまり、スペリングを身に付けたいなら何度も書くのがいいし、発音を身に付けたいなら実際に発音するのがいい。単語を見て意味を思い出したいなら単語カードを使う。「英語を身に付ける最も効果的な学習法は?」と聞かれれば、“どんな英語力を身に付けたいのか”によって、答えは変わってくるのです。

効率的な単語の学び方
〈分散学習〉で長く記憶する

──コミュニケーションに必要な単語数はどのくらいですか?

中田 成人の英語母語話者は約2万ワードファミリー(ある英単語の活用形と派生形を含めて1語)の英単語を知っているといわれます。その中でもよく使われる約3000ワードファミリーの単語を知っていれば、一般的なテキストの約95%をカバーでき、知らない単語を文脈から推測することで、意味は理解できます。重要なのは、たまにしか出てこないマニアックな単語の勉強に時間を費やさず、まずは高頻度の3000ワードファミリーを身につけることです。

──第二言語習得の中での先生の研究分野は何でしょうか?

中田 私は第二言語習得の中でも特に単語の復習スケジュールに関する研究をしています。

復習スケジュールは、同じ単語を連続して何度も繰り返す〈集中学習〉と、間隔をあけて同じ単語を繰り返す〈分散学習〉に分かれます。一見、〈集中学習〉の方が身につくような錯覚がありますが、時間をおいてテストすると、実は〈分散学習〉の方が身についている。具体的には、覚えていたい期間の10~40%ほどの間隔で復習を繰り返すことが最も高い保持率に結びつくと言われています。

──明確な目的はなく、英語力を総合的に伸ばしたい時に有効な勉強法はありますか?

中田 大学受験や将来の仕事のために、英語力を総合的に伸ばしたいという場合は『4技能同時学習法』をおススメします。教材としては、①30秒~1分程度の英語音声が付属している、②スクリプト(英文の書き起こし)が付属している、③スクリプトの和訳が付属している、といった要件を満たすものなら何でも構いません。定期的に配信され、学習のペースメーカーになるという意味では「NHKラジオ講座」がオススメですね。

──最後にメッセージを。

中田 「これからは英語を話せないと」と思われがちですが、仕事で英語を本当に必要とする人は数パーセント。メールなどを活用すれば話せなくても書ければいい可能性もあります。話す、書くのアウトプットができなくても、リスニング、リーディングでインプットできれば、情報収集や映画を見て楽しむことはできます。人によっては発信できなくても受信できればいいという方もいますので、自分の目的に合った効果的な英語学習をしていただければと思います。