メディアの現場から教壇へ 放送作家が実務家教員の道を拓く

放送作家・ノンフィクション作家として、テレビ・ラジオの制作現場に長年携わり、皇室報道の専門家としても活躍する柘植敬子氏。社会構想大学院大学の実務家教員養成課程で学びを深め、現在は西武文理大学の非常勤講師として、豊富な経験に基づく知見を学生へ伝えている。

メディアの第一線で活躍、
自身の経験を若者のために

柘植 敬子

柘植 敬子

放送作家、ノンフィクション作家
西武文理大学 非常勤講師
社会構想大学院大学 実務家教員養成課程 修了生
放送作家、ノンフィクション作家。東京女子大学卒。ワイドショーから政治経済番組、ラジオ番組まで様々な番組の構成を担当。2001年の愛子内親王ご誕生以来、皇室番組に携わり、テレビ東京・BSテレ東で放送中の「皇室の窓」で構成を担当。日本放送作家協会、日本脚本家連盟、日本メディア学会会員。著書に『天皇家250年の血脈』(KADOKAWA)、『素顔の美智子さま』『素顔の雅子さま』『佳子さまの素顔』(河出書房新社)、『女帝のいた時代』(自由国民社)などがある。2023年4月~9月、社会構想大学院大学 実務家教員養成課程を受講。

『天皇家250年の血脈』
つげのり子 著/
312頁/
1700円+税/
KADOKAWA

放送作家・ノンフィクション作家として活躍する柘植敬子氏は、25年以上にわたり皇室報道に携わり、同分野の専門家として知られる存在となった。書籍の執筆や月10本ほどの署名記事、週2~3件の雑誌取材への対応、テレビ出演による解説など、メディアの第一線で幅広く活動を続けている。現在は大学教員としても活動し、西武文理大学(埼玉県狭山市)の非常勤講師も務める。

ただし、そこに至るまでの道のりは、決して平坦ではなかった。地方出身で、身近にマスコミ関係者がいない環境で育ったことから、両親からは「お堅い仕事に就くように」と勧められた。大学卒業後は当時の安田火災海上保険(現・損保ジャパン)に女性総合職として入社し、4年半勤務した。

しかしマスコミへの思いを断ち切れず、周囲の反対を押し切って転身を決意し、全く異なるメディア業界へ飛び込んだ。その選択が、放送作家としての現在のキャリアへとつながった。キャリアを重ねる中で、次第に大学で教えることへの関心も芽生えていったという。

「マスコミを目指す若者の中には、東京キー局や大手出版社という狭き門に届かず、挫折してしまう人も多いと感じます。現場で働いてきた経験を学生に伝えることで、キャリアの可能性を広げるきっかけを届けられるのではないか。そうした思いから、大学教員に関心を持つようになりました」

ただ、大学教員になる方法は分からなかった。そこで文部科学省に勤める知人に相談したところ、大学教員に関する資料を送ってもらうことができた。その中に、社会構想大学院大学の「実務家教員養成課程」が紹介されていた。

同課程は、企業などでキャリアを積んだ人材が、実務経験を活かして大学で教育研究に携わるための知識や技能を学ぶプログラムだ。教授法を体系的に学ぶだけでなく、実務家として研究を行う方法を身につけられる点も特徴だ。柘植氏は迷うことなく申し込みを決め、2023年4月~9月に養成課程を受講した。

香川県立高松西高等学校で講演会。

養成課程で多くの気づきを得て
大学教員への一歩を踏み出す

養成課程でまず感じたのは、自身が学生だった頃と現在の大学との大きな違いだった。「私の頃は講義中心でしたが、今はグループワークやフィールドワークなど、主体的に参加する授業が主流になっています。大学教育がここまで変わっているのかと驚きました」。

養成課程で印象的だったことの一つが、異業種の受講者との出会いだった。受講者の多くは会社員であり、長年フリーランスとして仕事をしてきた柘植氏にとって、組織の中でキャリアを築いてきた人たちの視点や考え方は、多くの気づきがあったという。

養成課程のカリキュラムには、教員調書の作成に関する講義もある。教員調書とは、大学の教員公募に応募する際に提出する書類で、これまでの教育・研究活動の実績等をまとめたものだ。

柘植氏は受講中から、大学教員公募サイト「JREC-IN」でメディア論・マスコミ論の公募をリサーチし、地道に応募を続けた。担当教員からは「柘植さんのようなタイプは、知名度向上を図っている東京郊外の大学から声がかかるのではないか」とアドバイスを受けた。この言葉は後に現実のものとなった。

採用が決まるまでに多い人では50校近く応募するケースもあると知り、公募に通るのは容易ではないと覚悟していた。粘り強く応募を続けた結果、複数の大学で書類審査を通過し、面接へと進んだ。面接では、自身の書籍や雑誌の執筆、ネット媒体での署名記事などの実績を紹介し、記事のプロフィール欄に肩書きとして大学名を掲載することで、大学の認知度向上にも貢献できるとアピールした。

西武文理大学の面接当日は折悪しく、東京近郊に数年ぶりの大雪が降った日と重なった。電車の遅延を見越し、3時間前に自宅を出発して会場へ向かったところ、「大雪の中わざわざお越しいただき、ありがとうございます」と声をかけられた。「誠意と意欲が伝わった面接となったのかもしれません」と、柘植氏は振り返る。こうして2024年度後期から、西武文理大学の非常勤講師に就任することとなった。

現在、西武文理大学では「マスコミ論」と「メディアコンテンツクリエイション演習」を担当している。「マスコミ論」では、テレビ・新聞・雑誌・ラジオ等の歴史や現状、課題を解説するとともに、ネット・SNS・メディアリテラシーについても扱う。特に生成AIの急速な進展を踏まえ、生成AIを適切に活用するための力を養う教育にも力を入れている。

「メディアコンテンツクリエイション演習」では、フィールドワークも積極的に取り入れ、実務経験をもとに、企画・制作・発信に関する実践的なスキルの養成を目指している。

養成課程で学んだ教育の技法は、現在の授業運営にも活かされている。学生との双方向のやり取りを重視し、グループワークも積極的に導入。発言の少ない学生には自ら話しかけて意見を引き出し、どんな発言も丁寧に受け止めるよう心がけている。そうした積み重ねが、授業の雰囲気づくりにもつながっている。

研究面でも新たな取り組みを始めた。養成課程在籍中に日本メディア学会へ入会し、皇室報道をテーマに研究を進めており、今年秋には学会発表も予定している。「皇室報道は、これまで学術研究の対象として扱われることがほとんどありませんでした。現場を知る立場だからこそ記せる研究を残したいと思っています」。

柘植氏は実務家教員として、現場で培った知見を次世代へ伝えるべく、教育と研究の両面から活動を広げている。