グローバルな進路選択を支援する 中高生と海外大生のコミュニティ

「グローバルな進路選択を民主化する」を掲げる52Hzは、海外大学への進学を目指す中高生をはじめ、様々な逆境を乗り越えながら主体的でグローバルな進路選択に挑戦する学生を支援すべく設立された。代表理事の梅澤凌我氏と理事の谷津凜勇氏に、その理念や活動内容を聞いた。

海外大学進学を志す中高生を
応援するコミュニティ

梅澤 凌我

梅澤 凌我

一般社団法人52Hz 代表理事・社員
52Hz発起人。日本の公立高校から初めて世界最先端のミネルバ大学に進学、経営学部卒業。在学時に全国の中学・高校70校以上にて講演・ワークショップなどを開催。海外進学インフルエンサーとしてグローバルな進路選択に関する認知拡大に取り組む。

── 一般社団法人52Hzを設立した経緯について教えてください。

梅澤 52Hzは任意団体として2022年6月に設立され、2024年に一般社団法人となりました。海外大学への進学を志す中高生はまだ3%程度で、画一的な進路を目指すことが当たり前の中、自分が心からワクワクできる進路にチャレンジしたいと思っても周囲の理解を得られにくく、孤独感や無力感から、結局断念してしまうという現実があります。

そこで、私と海外大学を目指していた中高生や、実際に苦労を体験した海外の日本人大学生などが集まって、グローバルな進路選択にチャレンジするための情報交換などができるコミュニティを作ることにしました。

現在、海外大学進学を一つのキーワードにはしていますが、世界を見渡せば大学以外の進路が見えてくることもあります。世界には様々な選択肢があることを知り、それを深掘りしていく中で、心から突き動かされて、「これがやりたい、こうなりたい」という次の進路を考える、その第一歩として、海外に行く選択に踏み出せない人たちのためのインフラ、コミュニティを作る。それが私たちのミッションです。

── 自身も世界各地を巡りながらオンライン授業を行うミネルバ大学に進学されました。なぜミネルバ大学に進学しようと考えたのですか。

梅澤 私は京都の公立中高一貫校に通いましたが、いろいろなことにチャレンジしたい生徒だったせいか、やがて息苦しさや孤独感を覚えるようになりました。自分の個性やチャレンジを認めてくれる環境を探して、米国の大学に進む準備を始めたのですが、自分に向いた大学がなかなか見つかりませんでした。

ミネルバ大学在学中の梅澤氏と仲間達。

ワクワクするアイデアを、想像するだけでなく実行できる力のある人間になりたいのに、4年間キャンパスで座学に出るだけというのがピンと来なかったのです。

そんな時にミネルバの日本人1期生の記事を読んで、自分が本当にやりたいのは、自分で考え行動し、世界で学ぶことだと実感して、それにはミネルバが最適だと思いました。そして、入学後、海外に行きたいのに様々な事情で自分のWillを叶えられない人が大勢いるのではないかと思うようになり、海外大学やミネルバでの生活について情報発信する一方、日本の高校生向けにバイアス(無意識の思い込み)をテーマとしたワークショップを開催するなど、進路の選択肢を広げるための活動をするようになりました。そうした、いわゆるインフルエンサーとして多くの熱意のあるフォロワーと関わるうちに、単なる情報発信だけではなく、進路選択から受験を含めた一連のプロセスを具体的に後押ししたいという想いが強くなっていきました。

── ミネルバ大学では、何が大きな学びになったのでしょうか、

梅澤 自由になったことです。卒業して、どのようなキャリアを歩んでいるミネルバ生も、自分のwillや幸せを第一原理に自由に人生を歩んでいるところがミネルバのユニークさを体現していると思います。

また、世界のあちこちに住むと、本当に様々な選択肢、価値観、生き方を持った人がいて、それが肯定されていることに気づきます。世界の都市を巡る中で出会った人々の中には、起業して幸せになる人もいれば、ホームレスで幸せに生きている人もいます。自分が本当に幸せだと思うことであれば何でもよいわけです。

日本の固定的な成功の概念にとらわれることなく、自由な考え方ができるようになったことが一番の学びです。そして、世界のどこにいても、楽しんで自由に生きていける力もついたように思います。

「自己開拓力」を育む
「アクセラレーター」プログラム

── コミュニティが52Hzの中心的な活動なのでしょうか。

梅澤 基本的な活動は、グローバルな進路選択を目指す仲間との交流などができるオンラインコミュニティで、現在44都道府県から約500人の中高生、10か国以上の国々の海外大学生約80人が参加しています。質問や相談の他、情報発信、提案などが日常的に行われていて、同じような価値観を持ち、同じような進路を模索する参加者の交流の場になっています。

これを基盤に一歩進んだ取り組みとしてこの4月から「アクセラレーター」というプログラムを開始しました。これについては、開発・運営を手がける谷津から説明します。

谷津 凜勇

谷津 凜勇

一般社団法人52Hz 理事
5東大寺学園中高卒業後、東京大学入学(中退予定)。カリフォルニア大学バークレー校にて教育科学を専攻中。笹川平和財団スカラシップ1期生として渡米。高校在学中に読書教育NPOを創業、大学でNPO法人カタリバ、株式会社Schooなど教育NPO・スタートアップに参画。52Hzでは教育コンサルタントとして、伴走支援プログラム「52Hz Accelerator」の開発・運営を統括。

谷津 コミュニティは充実しているものの、そこから行動を起こす例はまだ少ないため、より手厚く密接な支援を行う必要性を感じて立ち上げたのが、1年間のオンライン伴走プログラム「アクセラレーター」です。

海外大生による伴走のもと、中高生自身が自身の「ワクワク」を深掘りし、海外大生への憧れや仲間との交流による化学反応から、実際に「自分もグローバルな進路に踏み出す準備ができた!」と思えるところまで並走することが目的で、いわば「自己開拓力」を育成する探究学習プログラムと言えます。

具体的には、「世界と自分を知る」(メタ認知・自己受容など)、「社会に飛び込む」(知的好奇心・チャレンジ精神など)、「アクションを起こす」(自律性・リーダーシップなど)、「自分らしさを模索する」(内省力・行動力など)、「未来を信じる」(自己効力感・起業家精神など)という5つのステップでグローバルな視野で自分らしい進路を模索することを想定しており、課外活動の深度や興味領域ごとで5人程度のゼミに分かれて伴走します。ゼミでは、親和性の高い海外大生メンターと2週間に1回ミーティングを行い、中高生の状況や課題に合わせた多様なワークショップなどのコンテンツを展開します。

また、月に1〜2回開催するレクチャーでは、海外大生や社会の第一線で活躍するロールモデルが、全受講生にとって有益な基礎的なノウハウや知見を共有します。さらに、担当メンターとの1on1も1〜2週間に1回実施しており、自身のプロジェクトの進め方を相談したり、海外大生の経験をもとに人生相談に乗ったりしてもらうことができるため、個別最適なサポートを実現しています。

プログラムは三菱みらい育成財団の2024年度事業に採択されたもので、3年間で計1700万円ほど助成をいただいています。

── 参加者はどれくらいですか。

谷津 現在30人程度の支援が進行中で、出身地もバックグラウンドも様々な海外大生メンターが20人ほど参加しています。参加する中高生の選考にあたっては、基本的な書類選考の他に、その子が何か小さなことでも夢中になった経験があるかを重視しています。将来どれだけ自分らしく生きていこうという意欲があるかどうか、を見極めるためです。

う一つ重視しているのは、コミュニティに寄与できるかどうかです。私たちのコミュニティは、海外大生が中高生に教えるといった形ではなく、中高生自らが運営するというボトムアップ型、共創型のコミュニティです。ですから、たとえばコミュニティのSNSの企画や投稿内容も中高生が考えて運営しています。そうした共創にどう貢献できるかも重視しています。

新しい形の教育を作る
先駆者を育成したい

── 今後の新たな取り組みについては、どのようにお考えですか。

谷津 コミュニティ、アクセラレーターに続く第3の取り組みとして「オフィスアワー」の準備を進めています。これは世界中の海外大生と毎週オンラインで進路相談ができる少人数イベントで、2022年から既に40回ほど試験開催しています。

コミュニティには参加していてもアクセラレーターに参加する段階には 今一歩進めないという層を分析すると、孤独感の他、経済格差や親の反対などが生む無力感も大きなハードルになっているケースが多く、そういう子にも、自己実現に向けた自信を取り戻してもらうことが狙いです。

ロールモデルとなる、様々なバックグランドを持った海外大生と1対1なり少人数の形で対話する中で、中高生自身一人一人の思いや「ワクワク」をあらためて肯定してあげて、自分でもグローバルな進路を実現できるかも、と思えるようにしたいです。

── 海外での進路選択を支援する立場として、国内の教育について、どの様に感じられていますか。

谷津 この活動を通じて感じるのは、中高生の内発的な想いのないまま大学ランキングなど外的な要因によって消極的な選択をするようになってしまっていることです。

もっと自分のやりたいこと、夢中になれるものを探せて、そこにコミットできるカリキュラムがあるべきではないかと思いますし、私たちのアクセラレーターはそうした意識で運営しています。探究学習は進んできていますが、自己を深掘りできる時間をきちんと取れる仕組み作りや、教員が余裕を持てる仕組み作りが必要で、改善の余地は多々ある気がします。

そのためには、まずは教員が囚われている「不安」から抜け出すことが大切だと思います。この子の将来のために、「あれもこれもやってあげなければ」といった思考を一旦捨てて、目の前の子どもたちに向き合い、彼ら自身の内側に眠っている可能性をとことん信じてあげてほしいです。

梅澤 今後AIが様々な場面で人間に取って替わるようになると学びの形も変わります。私は、自分が好きなことをやろうとチャレンジしていく中、現場で様々なスキルを身につけ、さらに楽しいことを見つけていくことが本来の学びの姿だと考えているので、52Hzを通してそうした世界を実現したいという思いがあります。

海外大学進学にフォーカスしているのも、人と違うキャリアに一歩進もうという勇気を持つ人たちに、これからの教育のスタンダードを作る先駆者になってほしいからですし、従来の学校とは異なるあり方を提起したいからなのです。

一人一人の人生ですから、答えは中高生一人一人の中に既にあるはずで、それを引き出していくのが私たちの務めだと思っています。52Hzは誰が入っても、ずっと続いていく仕組みを目指しているので、2年後に私たちは引退していることが理想形ですね(笑)。