対極だからこそ学びが多い インドのトップ校との国際交流を支援
インドは近年、世界的企業のCEOを多数輩出している。この基盤はインドの教育にあるが、交流する日本の学校は少ないのが現状だ。インドのトップ校と協働し、国際交流事業に取り組むShin Edupower Pvt. Ltd./SHIN EDUPOWER株式会社代表取締役の田中高信氏に話を聞いた。
発展著しいインドが求める
ホリスティックラーニングを提供
田中 高信
── 2017年にインドと日本で創業された背景をお聞かせください。
田中 以前は電気機器メーカーに勤めており、マルチメディア教材を扱う新規事業部にいました。同社のリソースやプロダクトを使う、新しい21世紀型の教育事業を世界市場を視野にソリューションを企画する、ビジネスプロデューサーを任せてもらいました。中国が市場になると予想しながら市場調査を進めたところ学校数が一番多いのはインドで、中国の40万校に対し125万校もあり驚きました。
15歳未満人口は、中国約2億人に対してインドは約3億6000万人。インドが飛びぬけた市場規模だったのです。それでインドに初めて行き、トップ私立校から地域の学校まで現場を見てまわって、これは本当に可能性があると思えました。
2013年にJICAのBOP民間ビジネス連携で採択され、インド政府教育機関・NGO・同社の3者での共同プロジェクトが決まり、教育課題の解決に取り組みはじめました。3年くらい経ち、様々な問題もあり同社で継続が難しくなり、ここで止めるのはもったいないと考え、妻と共同で2017年に起業しました。
── インドではどのような教育事業を展開されているのでしょうか。
田中 日本式の集合教育のプログラムをつくり、インドのトップ校に提供しています。今、Googleやマイクロソフトのトップはインド人ですよね。IT分野だけでなく、スターバックスやシャネル、亀田製菓もトップはインド人。世界的に注目されるインド人がどんどん出てくるのは、インド人が突破力や応用力にものすごく長けているからです。一方で、いくら能力が高く、頭が良くても、協調性やチームワークを大切にできなければいつかそれが足枷になります。このためインドのトップ校では今、人格形成も重視しています。この点から、妻と共同でホリスティックラーニングを重視したプログラムを企画開発しました。
ホリスティックラーニングとは、学業・知識、人格、そして健康な心身を全体的・総合的に成長させる、さらに周囲の人に良い影響を及ぼせるようになることを目指す学びと定義しています。
私は元ラグビー選手でした。ラグビーはチーム内のメンバーそれぞれが異なる個性や能力を持つのですが、個々が得意を活かしつつ、チームみんなでベクトルを合わせていくことが強さになっていきます。こうした経験もメソッド開発に活かしました。プログラムでは、1組4人くらいのグループでミッションに取り組むのですが、じっくり話し合う、チームがまとまる、最後まで諦めないなどしてはじめてミッションをクリアできます。現在、首都圏のトップ校、約90校に導入されています。
インドと日本の高校生が
それぞれの良さ・強みを学び合う
── 日本法人では、スタディツアー(ホームスティ・短期留学)、オンライングローバル協働プログラムなどを展開されています。
田中 スタディツアー(高校・大学生が対象)では、インド最高峰で最難関の一つインド工科大学(IIT)デリー校や現地スタートアップ企業などを訪問します。ホームスティ先はインドトップクラスの私立校に通う生徒の家庭なので安心安全に過ごせます。オンライングローバル協働プログラムは、インドの学校とICT機器を活用して日本の小中学校・高校と交流する取り組みです。自然な対話や協働を通して異文化理解や国際探究学習を深められます。
スタディツアーは既に、日本のトップレベルの進学校での導入実績が多数あり、お問い合わせは最近、増えています。
── 今のインドの魅力や強みは何だとお考えですか。
田中 世界で成功するインド人が続々と出てきていますし、今やシリコンバレーのCEOの約50%はインド人です。インド工科大学は入学難易度が高いことで知られ、合格率はわずか2%以下。学生たちは就活をしません。企業からオファーが殺到するからです。卒業生は本当に優秀で、インドフィンテックで3つ目のユニコーンに挑戦している夫婦の起業家もいます。JBICのアンケート調査ではインドが投資有望国1位。進出を考える企業は増えています。
では、インド人が持つ魅力や強みは何かというと、その一つはジュガード(応用力)だと思います。インドは言葉も宗教も数が多く、まさに多様性の国。同じ国にいるのに、目の前にいる人が自分とは違う言葉を話し、異なる宗教観を持つような環境で人間関係を維持していくのですから、胆力が付くし、コミュニケーションもうまくなる。困った時には言い分けをせずに、今ある物と柔軟な思考と強い意志で何とか解決してしまう。ジュガードは今の日本人にも学びのヒントになると思います。
また海外の学校は9月はじまりが多い中、インドは4月はじまりで日本と同じ。制度的に交流しやすいことも良さのひとつだと思います、
── 日本とインドの生徒が交流する意義は何でしょうか。
田中 ある現地スタートアップ企業CEOからの講義を受けた時のことです。日本の高校生は「そのやり方では関わる人の気持ちが…」といった意見を出すのに対し、インドの高校生は「さきほどのビジネスモデルは…」と質問していました。インドの高校生は「和す心を学んだ」と言いますし、日本の高校生からは「ガチで取り組むのは恥ずかしいことじゃない。むしろかっこいい」「自分の国や宗教について英語でちゃんと説明できることに驚いた」といった感想が挙がります。両国の高校生の強みは対極にあるからこそ、お互い学び合えるのでしょう。
── 最後にメッセージを。
田中 高校までの日本の教育レベルは非常に高いと思います。一方で考え方や生活レベルもあまり違いがないので、ハングリー精神や内発的な強い意志が育ちにくい環境にあると強く感じています。日本の中・高校生にはセミグローバル環境をつくることで生徒の意思や能力を引き出すだけでなく、維持継続していく上でとても効果的だと考えます。両国の先生が一緒に生徒を導く環境をともにつくっていきたいですね。