世界遺産・熊野古道に探究型グローカル小中一貫校を

熊野古道が通る和歌山県田辺市で、探究型グローカル教育を実践する私立小中一貫校「うつほの杜学園」(仮称)が2025年の開校に向けて準備を進めている。「熊野古道を世界とつながる学びの聖地へ」を合言葉に、行政や企業、地域住民を巻き込みながら世界で活躍できる人材の育成を目指す。

世界・地域・自然とつながる
探究型グローカルスクール

仙石 恭

仙石 恭

一般社団法人 うつほの杜設立準備会 代表理事
「うつほの杜学園」発起人・学園長に就任予定。株式会社仙石取締役(イタリア・スペインワイン輸入業)。和歌山市出身、一児の母。慶應義塾大学環境情報学部卒。在学中イタリア・フィレンツェへ建築を学びに留学。㈱IDEEを経てイタリアのプレス会社TanjaSolciStudioにて勤務。IB国際バカロレア教員資格保持。

──うつほの杜学園の開校を目指された経緯を教えてください。

仙石 私は和歌山に本社がある食品商社で役員を務めており、自らの足でイタリアとスペインのワイナリーを訪ね、選んできたワインを日本で輸入販売しています。大学時代にはイタリア留学を経験し、卒業後も仕事をしながらミラノに数年間住んでいました。

イタリアと20年近く関わる中で感じたのは、郷土愛が強く、仕事とプライベートの両面からウェルビーイング(心身の健康や幸福)を実現している人が非常に多いということです。小さな村のワイナリーであっても、土地の風土や自分たちのぶどう畑にプライドを持ってワインをつくり続けている。そんな村の姿が故郷・和歌山のみかん畑と重って見え、私も地元に貢献したいと考えるようになりました。

学校設立を思い立ったのはコロナ禍がきっかけです。在宅勤務をする中、和歌山への家族移住を検討するようになって、地方は都市と比べて圧倒的に教育の選択肢が少ないということに気づきました。地域課題と郷土愛、そして地域貢献を重ねた結果、「息子を通わせたいと思う学校がないなら、自分でつくろう」という考えに至り、2020年8月に学校設立プロジェクトを一人で立ち上げたのです。

「うつほ」とは、岩や木の中にできる「空洞」や全てが始まる最初の空間という意味があります。学校名にはこの学園が、子ども達が生涯学習者として育って行く基礎を築く、最初の学びのプラットホームになってほしいという願いを込めています。

──うつほの杜学園のコンセプトについてお聞かせください。

仙石 「熊野古道を世界とつながる学びの聖地へ」を目標に掲げた探究型グローカルスクールを実現する小中一貫校です。うつほの杜学園の探究型グローカル教育の特長は、世界、地域、自然とつながりながら、教科横断的なプロジェクトを実践する中で、関係力・探究力・創造力の3つを育んでいくことにあります。

探究的な学びは日本の教育改革におけるキーワードとなっていますが、実は私自身が大学時代にプロジェクト型の授業を経験し、自ら主体的に学ぶことの意味と楽しさに出逢ったことが強く影響しています。また、イタリアの田舎町で出会った、地球規模の視座とローカル・アイデンティティの両軸を持って幸せに生きる「グローカル人」の姿も本学園の目指す生徒像に定めています。

こうした学校づくりの根底には、ウェルビーイングとサステナブルの考え方があります。まずは子どもだけでなく、先生や家族など学校コミュニケーションに関わるすべての人が元気であること、すなわちウェルビーイングな状態である学びの環境をつくっていきます。そして、日本古来の考え方である自然との共生や命の循環を大事にし、感謝と思いやりの心を育てていきます。

学校設立を目指す場所は、1000年以上の歴史を持つ日本の聖地、熊野古道にあります。スペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラを目指す巡礼の道と同様に世界遺産に登録されており、世界に2つしかない世界遺産の巡礼の道として海外からも多くの参拝者が訪れます。世界とつながり、自然と歴史、文化にあふれたこの場所で、ここならではの出会いと学びを深めながら、一人ひとりが輝き幸せに生きる力を身につけます。

また、今回の学校設立を通して、大人たちが教育に関われる機会をつくることも目指しています。学校を地域や社会に開き、時には企業の社会人や大学生といった世代の壁を越えた人々と共に学び合い、そこで見つけた興味や問いについて、仲間と話し合いながら答えを導き出す。そんな「自分軸での学び」も大切にしていきます。

世界遺産・熊野古道を
世界とつながる学びの聖地へ

──学びの特長についてもお聞かせください。

仙石 カリキュラムは大きく4つの特長があります。1つ目は「探究プロジェクト」です。答えが無限にある問いを先生が立て、子どもたちはグループワークを中心に課題解決や思考形成を行っていきます。社会や理科の授業をはじめ、教科を横断するグローカルなプロジェクトに挑み、最後にはプレゼンテーションを行って学年を超えた生徒で共有します。例えば、和歌山アドベンチャーワールドと連携し、学校内で動物と共生する環境を創ることをはじめ、アドベンチャーワールドに住む140種1400頭の動物たちを活かした探究学習なども展開していく予定です。

2つ目は「バイリンガル教育」です。多言語での学びは、多様な世界と価値観への理解の第一歩と考えます。当学園では日本語を学びのベースにしながら英語力の向上にも力を入れ、英語の授業の他、体育、美術などの一部教科でも英語での指導を行う計画です。また、外国人留学生や外国人観光客との交流を通じて、英語しか話せない人とのコミュニケーションも能動的に学んでほしいと考えています。

3つ目は「うつほの食学」です。食はグローバル社会で、持続可能な未来とウェルビーイングを創造する大切なテーマです。当学園では醤油、梅干しなど多くの日本食材発祥の地である和歌山の地の利を活かし、農業実習や調理実習を通じて自分で食べていく力を身につけます。

また、イタリアで食とサステナブルをコンセプトに活動するNGO のフューチャー・フード・インスティテュートと連携し、イタリアの子どもたちとオンラインでの交流を実施します。将来的にはイタリアの学校との短期交換留学も予定しています。

1000年以上の歴史を持つ世界遺産であり日本の聖地、熊野古道のある和歌山県

1000年以上の歴史を持つ世界遺産であり日本の聖地、熊野古道のある和歌山県

4つ目は「きのくに体験学習」です。野外での体験学習は、身体と心をつくるだけでなく、人生の大きな宝となります。今でも生きた体験ができる世界遺産の熊野古道や高野山での体験学習や、日本屈指の自然環境を活かした野外体験学習を行います。

──校長には東洋大学の市川顕教授が就任される予定ですね。

仙石 市川先生は東洋大学の国際学部グローバル・イノベーション学科で、長年、地方創生や気候変動エネルギー環境政策、EU政治に関する研究をされてきました。また、市川先生も私と同じ慶應義塾大学総合政策学部の出身です。中学・高校時代には伝統校ながら自主性を重んじる教育を受けられ、東洋大学でも大学生向けにアクティブラーニングを実践されています。そのようなバックボーンから本学園が目指すグローカル教育にご賛同いただき、東洋大学の教授との兼任で本学園の校長に就任いただくことになりました。

また、教員には海外経験を持つバイリンガル教員や国際バカロレア教員の資格所有者など、国際的な素養を持つ人材を採用する予定です。

行政や企業、地域住民と連携し
世代を超えた地域の学びの場に

──校舎は廃校となった小学校を再利用されると聞いています。

仙石 田辺市からご紹介いただいた旧二川小学校は熊野古道のど真ん中にあり、周辺には田んぼやアユが生息する川もあります。長い歴史がありながら世界中から多くの人が集まるこの場所は、すでにグローカルな文脈が整っており、学校を設立する上でこの上ない環境だと感じています。

校舎予定の旧二川小学校は熊野古道のど真ん中にあり、周辺には田んぼやアユが生息する川など歴史と自然豊かな環境の中にある

校舎予定の旧二川小学校は熊野古道のど真ん中にあり、周辺には田んぼやアユが生息する川など歴史と自然豊かな環境の中にある

それだけに、旧二川小学校は地域住民の方にとっても思い入れのある場所です。10年前の廃校以降は、地元の有志団体が映画の上映会やマルシェなどに活用してきましたが、恒常的な利用には至っておらず、行政とともに活用方法を模索していました。そんな折に私たちから学校設立の提案をする機会が重なり、「学校を通じた地域活性化が目指せるなら」とご賛同いただきました。

──学校設立の準備に向けて、どん戦略があったのでしょうか。

仙石 本学園の定員は1学年25人を想定しており、半数は都市部からの移住者とする計画です。背景にあるのは、教育を目的として家族で移る「教育移住」が全国的に増加していることが挙げられます。旧二川小学校は温泉リゾート地の南紀白浜エリアに近いのですが、白浜町は近年、IT企業誘致を進めており、約30社のサテライトオフィスが集積しています。そのような立地に教育方針に特色のある学校を設立することで、「和歌山に新たな教育の選択肢を増やすとともに、県外からの教育移住と地域活性化にもつなげたい」と訴えたことが、行政と地域住民の共感を喚起したのだと思います。

市議会議員の協力により、2022年12月に地区の住民代表から田辺市長へ学校誘致を求める要望書を提出していただきました。その後、住民説明会での同意を経て、2023年5月に地域住民・田辺市・私たちの3者で協定を締結しました。この協定を経て、寄付金を集めるに当たり市の企業版ふるさと納税のスキームを活用させていただくこと、廃校舎の修繕費などの支援の検討や、私たちが学校を通して地域活性化に貢献することなどが決定しました。

運営資金に関しては、企業からの寄付金やクラウドファンディングでも賄う予定です。寄付金はすでに目標額の9割以上を超え、クラウドファンディングでは2,000万円以上の寄付が集まりました。立ち上げに必要な資金が集まり次第、次は地域住民の子どもへの奨学金の創設も考えています。

──最後にメッセージをお願いします。

仙石 本学園は今後学校法人の認可が下りれば、2025年に小学校、29年に中学校の開校を目指しています。昨年7月には親子探究サマースクールを開催し、海外からの参加も含め大人子ども合わせて70名が集まりました。今年は3月末にアドベンチャーワールドと連携した親子スクールを開催しますので、多くの方にご参加いただきたいと思います。

本学園の目指す姿として「熊野古道を世界とつながる学びの聖地へ」を掲げているように、在学する子どもたちだけでなく、世代を超えた地域の学びの場にすることも目指しています。様々な共創パートナーと共に理想の学校をつくっていきたいと思いますので、ご興味のある企業や教育機関の方はぜひお声掛けください。