広報の経営機能を発揮して 今後も「選ばれ続ける大学」に
18歳人口の減少が急速に進む中、「選ばれ続ける大学」となるためには大学広報・入試広報・ブランディングを統合させた「経営戦略としての広報」が不可欠だ。今後の大学広報に必要な役割や具体的な戦略について、大正大学地域創生学部地域創生学科教授の谷ノ内識氏に聞いた。
単なる情報発信を超えた
経営戦略としての大学広報が必要
谷ノ内 識
大正大学 地域創生学部 地域創生学科 教授
1977年愛媛県生まれ。2018年同志社大学大学院総合政策科学研究科博士後期課程修了。博士(政策科学)。専門は広報・PR論、特に大学広報、自治体(行政)広報。1999年NHK入局、記者。追手門学院大学広報課長、理事長室次長を経て、2024年から大正大学で大学や地方自治体の広報研究と並行し、大学や自治体、事業会社の広報アドバイザーを務める。日本広報学会理事。主な著書『大学広報を知りたくなったら読む本』(大学教育出版)は日本広報学会学会賞受賞(2022年)。
『増補版 大学広報を知
りたくなったら読む本』
谷ノ内識 著、四六判、 224頁、
1600円+税、大学教育出版
「広報は狭い意味では情報発信ですが、日本広報学会では広報について、『組織や個人が、目的達成や課題解決のために、多様なステークホルダーとの双方向コミュニケーションによって、社会的に望ましい関係を構築・維持する経営機能である』と定義しています」
日本広報学会理事でNHK記者や大学での広報責任者の経験を持ち、現在は大正大学教授として大学や地方自治体の広報の研究と支援を行っている谷ノ内識氏は、こう説明する。
かつて18歳人口が右肩上がりだった時代には、大学側は「売り手市場」で、大学について知ってもらうことさえできれば学生が集まっていた。このため、大学の広報は長い間、情報発信として認識されていた。しかし、少子化が急速に進む現在、その状況は大きく変化している。
「大学が選ばれる『買い手市場』となった今、単なる情報発信をしているだけでは、なかなか学生に選ばれません。このため、大学は広報活動の目的や課題を明確にし、受験生を含む大学内外のステークホルダーとコミュニケーションを取り、社会的評価が得られなかった場合は、施策や時には組織運営そのものを修正する必要があります。これが本来の広報で、広報は経営戦略そのものなのです」
2024年に、日本広報学会が上場企業の経営者を対象に行ったアンケート調査では、回答した経営者の大半が日本広報学会の定義に「賛同」。その定義が、自社の広報機能へ期待する役割に「当てはまる」と捉えていることがわかった。
また、日本広報学会では、経営者の語りから、広報には4つの段階があるとの仮説を提示。それらは、①必要性は認識されるが、体制・戦略・人材が未整備という「必要性認識段階」、②トップの意思と行動が広報を牽引する「トップ主導段階」、③組織配置・会議体・ルールとして広報が埋め込まれる「制度化段階」、④広報が企画初期から入り、戦略の翻訳・修正・統合に関与する「戦略参画段階」、というものだ。
広報活動の成果を測定する際は
「アウトカム」の評価も重要に
一方、大学の広報に関しては、個々の大学によって置かれた状況や属性、役割、解決すべき課題が異なることから、まずはそれらを明確化する必要がある。
「地域貢献を使命とする公立大学や、研究力を主軸に置く国立大学など、目的によって広報が担うべき役割は異なります。また、学生募集に特化すべきなのか、あるいはブランド向上に注力すべきなのか、優先順位に関する認識を経営層と合わせることも大切です」
例えば、近畿大学では、経営層が「広報ファースト」の方針を打ち出して政策を集約。広報部門が政策決定にも深く関与するようになっている。谷ノ内氏は「近畿大学の例は、4つの段階における最終段階にあると考えられます。そうした大学は増えていますが、まだ少ないのが実状です」と話す。
組織設計についても唯一の正解があるわけではない。大学広報と入試広報を分離させるべきか、統合させるべきかといった議論もなされるが、これは大学が「今、何に取り組むべきか」という経営課題によって変化する。重要なのは、「大学広報」「入試広報」「ブランディング」という3つの要素が、目的達成のためにいかに有機的に連携できているかという点だ。
また、広報活動の成果をどう測定するかという点も、多くの大学が直面する課題だ。現状では、1年に1度の入試の総志願者数、もしくはメディア露出数やSNSフォロワー数といった「アウトプット」の評価に留まっている大学が多い。
しかし、広報戦略と全体の中長期計画との整合を問う「プロセス」、情報の受け手であるステークホルダーの意識や行動がどう変わったかという「アウトカム」の評価を忘れてはならない。
例えば、自大学として重視する大学の各種ランキングの順位や就職率以外の就職実績の評価をKPIとして設定し、それを達成するために経営層をはじめ広報や就職支援、各学部が連携してコミットする体制を構築できているかが問われる。広報担当者でコントロールしやすい発信数だけでなく、相手にどう伝わり、組織の価値がどう高まったかという視点を全学的に共有する必要がある。
「検索エンジン最適化」から
「AI最適化」中心への移行を視野に
一方、AI時代の到来によって、広報人材に求められる専門性も大きく変化すると考えられる。プレスリリースの作成やメディア対応など、情報発信における実務スキルの重要性は相対的に低下し、 AIや外部人材の活用によって代替可能になるだろう。
「これからの広報担当者に求められるのは、それらを活用して大学の将来像を描き、組織をマネジメントしていく能力です。社会情勢や教育行政の動向を俯瞰し、経営層に対して広報的な視点から提言を行い、将来像の実現に向け内部組織をプロデュースしていく力こそが、AIには代替できない広報の本質的な専門性となります」
また、経営層に対しても広報が単なる情報発信ではないことを理解してもらう「広報教育」が求められる。そして、今後の大きな潮流としてコミュニケーション・ディレクターの佐藤尚之氏が提唱し、注目されているのが、従来の検索結果で上位表示を狙う「検索エンジン最適化(SEO)」から「AI最適化(AIO)」中心の広報への移行だ。ユーザーが検索エンジンで情報を探す時代から、生成AIが膨大なデータから情報を要約して提示する時代に変わりつつあるためだ。
このような中、AIが情報を収集・引用する際、その根拠として大学の公式HPなどの情報が引用されなければ、デジタル空間においてその大学の正確な情報が伝わりにくくなる。他方で、AIを介した検索以前に「『この分野を学ぶなら、あの大学が良い』と想起されるようなブランディングの重要性が、今後は一層高まるとみられています」と谷ノ内氏は指摘する。「選ばれ続ける大学」であるためには、広報部門の枠を超えて、大学全体で組織一丸となり取り組むことが、今後ますます重要になる。