データサイエンスとAIを軸に地方企業の支援に注力する
証券アナリストから財務省理財局の市場分析官まで、バブル時代から金融の最前線を渡り歩いてきた鈴木清氏。2023年に「実務家教員養成課程」を修了して大学教員へ転身した現在は、産官学の3つの領域と海外を経験してきた異色の経歴を持つ大学教授として活躍している。
産官学の3領域、海外勤務を
網羅する異色のキャリアを構築
鈴木 清
新潟県立大学国際経済学部国際経済学科 教授
東京大学大学院理学系研究科情報科学専攻修了。一橋大学大学院経営管理研究科経営管理専攻博士課程修了、博士(経営)。1991年より野村證券グループで証券アナリスト、株式ストラテジスト、ファイナンシャル・エンジニア、通貨オプション・ディーラー、ポートフォリオ・コンサルタント、クオンツアナリスト等を歴任。2010年より財務省理財局国債業務課兼国債企画課で市場分析官を務める。2023年に社会構想大学院大学「実務家教員養成課程」を修了し、同年滋賀大学データサイエンス・AIイノベーション研究推進センター兼大学院経済学研究科特任教授に就任。2026年4月より現職。
証券アナリスト、株式ストラテジスト、ファイナンシャル・エンジニア、クオンツアナリスト、ポートフォリオ・コンサルタント、通貨オプション・ディーラー──。バブル末期に金融業界へ入った鈴木清氏は、目の前に次々に現れる新しい業務に挑み続けるキャリアを歩んできた。産業界だけでは飽き足らず、財務省理財局では市場分析官も務めた。海外ではロンドン勤務時代にリーマン・ショックによるリーマン・ブラザーズ欧州拠点の合併にも社員として携わった。近年は、2023年に「実務家教員養成課程」を修了して教員に転身し、滋賀大学データサイエンス・AIイノベーション研究推進センター兼大学院経済学研究科特任教授に就任。現在は新潟県立大学国際経済学部国際経済学科で教授を務めており、ここに来て「産官学」の3領域および海外を網羅する異色のキャリアが完成したことになる。
実務家教員養成課程の受講のきっかけは、40代半ばで訪れた「人生の折り返し」の感覚だったという。人生の有限性を意識し、キャリアに欠けているものを探したとき、思い当たったのが「学」だった。
「人生で何かやり残していることはないかと、無意識にキャリアの穴を探し始め、欠けているのは『学』だとすぐ思い当たりました。一応自分なりには専門分野の実務はやり終えたという充実感はあったので、いち早く卒業して、次の世界に飛び込みたいという、はやる気持ちがありました」と鈴木氏は語る。
もっとも、それまで研究職としてリサーチ業務や論文執筆を行ってきた鈴木氏にとって、アカデミアへの転身は唐突なものではなかった。
「今から考えると、アカデミアで大学教授がやるようなことをずっとやってきていました。ただ、実務家教員という存在を知ったのは、実務家教員養成課程に入る直前です。社会人経由でアカデミアに入るには実務家教員という入り口を通る必要がありますので、最低限のリテラシーは必要だと思い、 養成課程に入りました」
実務家教員養成課程の同期たちとの交流。
現職の教員を学習対象として
観察できるのが最大のメリット
養成課程での最大の学びは、大学教員を「学習対象」として観察できたことだと鈴木氏は語る。
「学生の頃に見た大学教員は、アカデミックで、周りと距離がありました。しかし、大人になって見ると遠い存在ではなく、普通の感じの人が多い。また、古典的な研究ばかりでなく、最近の流行や、ニッチな研究をしている先生もいて、幅広いと感じました。現職の大学教員に求職目線で接することができることは授業内容以上に学びが大きいのではないでしょうか」
実務面でのメリットは、シラバスの作成方法やディプロマポリシーといった大学特有の用語・常識を体系的に学べたことだった。
「一般の会社なら入社時にオリエンテーションがあり、その分野のカルチャーを学ぶ機会がありますが、大学ではいきなり現場に組み込まれ、基礎知識を教えてくれる人がいません。基礎的な用語を知らなければ、周りが何を話しているか分からず、大変だったと思います」
同期の異業種受講生集団には大学教授が多数在籍し、卒業後もSNSや定期的な集まりを通じてつながりが続いているという。
教職への公募では、滋賀大学の採用時は4校程度、新潟県立大学の採用時では20校程度の面接機会を得た。教職経験の有無が採用側の見方を大きく左右したという。
「面接では教育経験がない場合、それ以上の突っ込んだ質問はないが、ある場合には、地域企業との連携やPBLができるかといった、その先の質問になってきます。論文や業績よりも、授業を任せられるかという目線で見られます。滋賀大学と新潟県立大学へ入職した時期は、ちょうどデータサイエンスやAIが社会に浸透し、関連学科の新設や求人が相次いでいた。クオンツ系の業務をバックグラウンドに持つ自分としては、その分野の研究・教育に関心があった」
教員への転身に必要なのは
知識の具現化と教育経験
鈴木氏は現在新潟県立大学で、2025年4月に国際経済学部に開設した「データサイエンス経済コース」の運営に携わっている。近年は生成AIのエージェント機能の活用にも力を入れ、授業の教材やレジュメ作り、学生の授業成績や期末テストの採点、入試問題の作成などに幅広く活用している。AIエージェントに関するセミナーも開催している。「会社員時代には、会社都合の業務が降ってきたが、大学教員は自分の研究テーマに沿って活動するという自由さがあります」と語る。
公開MOOC教材『ファイナンスのオペレーションズ・リサーチ的手法 第2回 線型計画法』の様子。
企業でキャリアを積んだ人材が、大学教員への転身を実現するために重要なことは何なのか。鈴木氏は、「業界知識や経験を形にする」ことと、「教育経験を積むこと」の2点を挙げる。
「頭の中にノウハウとしてあるだけでなく、論文や著書など何らかの形にすれば、応募時のアピールになります。また、非常勤講師やセミナー講師などで教育経験を積んでおくことは、採用の際のアドバンテージになります。採用する側は、実際に学生に教えたことがあるかどうかを見ています。博士号や論文を持たない実務家であっても、非常勤などの道で教育経験を積んでおけば、道は開けます」
大学では今後、教育活動とともに、データサイエンスとAIを軸にして、地方企業の支援に力を入れていくことも構想している。
「地方には、データを抱えていても活用できていない地域企業が多数あります。今後はそのような世の中のニーズを汲み取って、学生も巻き込みながら、社会が効率的に活動できるような仕組み作りを学科、大学院を挙げて行っていきたいです」