公民連携16年の実践知で、次世代の地域人材を育てる
横浜市役所に勤務する貝田泰史氏は、民間企業との公民連携プロモーションを数多く手掛けてきた実務家だ。2023年に社会構想大学院大学の「実務家教員養成課程」第12期を修了し、現在は神奈川大学非常勤講師ほか、複数の大学で教壇に立っている。養成課程受講の経緯と教育現場での挑戦を聞いた。
属人化した実務の知見を
可視化・体系化したい
貝田 泰史
横浜市 政策経営・国際戦略局
シティプロモーション推進室長
神奈川大学 非常勤講師
1973年生まれ。1997年立教大学文学部史学科卒業後、学習塾講師を経て2001年に横浜市役所入庁。2010年以降観光振興課等で集客プロモーションを担当し、2023年より政策経営・国際戦略局シティプロモーション推進室長として、「住みたい、住み続けたい街」をテーマに横浜の魅力づくりを牽引している。
貝田泰史氏は立教大学を卒業後、3年間の学習塾講師を経て2001年に横浜市役所へ入庁。財政局、神奈川区役所を経て、2010年から観光振興課で集客プロモーション担当係長に就任した。以降、横浜の賑わいづくりとシティプロモーション、都市ブランディングに携わり続けている。スタジオジブリやポケモン、東映、スクウェア・エニックスといった民間企業との大型タイアップを次々と仕掛け、公民連携の実践者として独自のスタイルを築いてきた。
その貝田氏が2023年4月、社会構想大学院大学の「実務家教員養成課程」第12期に飛び込んだきっかけは、長年公民連携を共に担ってきた市役所の元同僚で、すでに社会構想大学院大学で教鞭をとっていた河村昌美氏(現、社会構想大学院大学教授)の存在だった。
「彼は自身の知識やノウハウを書籍として体系化していました。一方の私は、16年積み上げてきたプロモーションの知見が、いわば『一子相伝』の属人的なものになっていて、これを変えたかった。教えるという形で他者に伝えながら、自分のノウハウを可視化・体系化したいと思ったのです。養成課程はその目的にちょうど良い場だと感じました」
ちょうど50歳手前のタイミングだったことも、決断の後押しとなった。長年同じ業務を続ける中で、今後の異動の可能性、そしてセカンドキャリアを見据えれば、学んでおく価値は大きいと判断した。
基礎から教育の技を学び
異業種人脈から刺激を受ける
実務家教員養成課程では、シラバス作成やルーブリック設計、教員調書の整え方といった教育現場の基礎知識を体系的に習得できたことが大きな収穫だったと貝田氏は振り返る。
「塾で中高生に教えた経験はありましたが、大学生へはなく、そのアプローチの違いがよくわかりました。中でもITツールを使った双方向のアクティブラーニングの手法は、100分という長い授業時間の中でいかに学生を飽きさせず学ばせるかという点で、大変参考になりました」
模擬授業の準備過程では、頭の中だけにあった実務知見が、講義資料という形に結晶していった。「これまで言語化してこなかったノウハウを整理できた、貴重な機会になりました」
刺激的だったのは、多様なキャリアの受講生との出会いだ。各界の第一線で活躍するキーマンとグループワークや議論を通じて深く知り合えた点は、他の研修では得難い財産だという。養成課程の修了から2年半が経つ現在も、互いの授業の工夫について情報交換が続いている。
「実務家教員という存在が、国の政策として大学教育に位置づけられ、一定数の雇用が課せられていると知ったことも、正直驚きでした。自分のキャリアが新たな形で社会に活かせるのだと、大いに力づけられました」
横浜市のプロジェクトと
大学の講義を連動させる
養成課程修了直後の2023年11月、貝田氏は神奈川大学法学部の嘉藤亮教授との縁を得て、ゲスト講師として同大学の壇上に立った。「地域創生に向けたシティプロモーション」と題した講義の90分間の手応えから、翌2024年4月には全14回の共同講義へと発展。現在は同大学の非常勤講師に就任し、みなとみらいキャンパスのテーマ演習科目を継続して担当している。さらに関東学院大学や横浜市立大学、社会構想大学院大学でも複数の教授からの依頼を受け、ゲスト講師として教壇に立ってきた。
「地方創生に向けたシティプロモーション」の授業では、グループワークを行いながら横浜のプロモシートを作成。最終的に地域活性プロモーションプランの発表会を行う。
「公務員という立場上、公募に応募する選択肢は取りにくい。もともと業務で連携のあった大学の先生方とのつながりから、自然に活動の場が広がっていきました。入り口がやや特殊なのは、私のキャリアの特徴かもしれません」
授業の運営においては、様々なツールを駆使した双方向授業を実践する。キャッチコピーと画像を組み合わせてプロモートシートを制作するなど、各回でグループワークを行い、全14回の授業の最終回には、学生が考案した地域活性プロモーションプランの発表会を組み込む。崎陽軒など、付き合いのある地元企業の広報担当者をゲストに招くことも多いという。
「現役の役人として、自治体プロモーションの表に出てこない裏の苦労話まで交えて伝えられるのが、私ならではの強みです。学生には何より、横浜という街への愛着と関心を持ってもらいたい。地域創生は行政だけが担うものではないと、肌で感じてほしいのです」
貝田氏が今後力を入れていきたいのは、横浜市の現在進行形のプロジェクトと、大学の講義を連動させることだ。すでに始動している例として、伊藤園や神奈川大学と組んだ「横浜グリーンエクスポ」(2027年国際園芸博覧会)に向けた新商品開発プロジェクトがある。今後は、横浜発祥のキリンビールや市内のクラフトブルワリーと共に立ち上げた「Yokohamaクラフトビールアソシエーション」も題材にしていきたいという。
「過去の事例を学ばせるだけでなく、今まさに私が動かしている取組に学生のアイデアを実装させていく。そこまで踏み込めるのが、実務家教員ならではの価値だと考えています。現役の役人としての実務と、大学での教育、この2つを両輪として回し続け、可視化・体系化した知見を社会に還元していきたいです」