『早稲田大学と社会教育─「開かれた大学」の先駆として』
『早稲田大学と社会教育─「開かれた大学」の先駆として』
矢口徹也 編著/264頁/3200円+税/
早稲田大学出版部
「社会教育」と聞くと、公民館や生涯学習を思い浮かべる人は多いだろう。しかし、その理念が大学教育とどのように結びつき、戦後日本の高等教育改革の中で形づくられていったのかは、これまで十分に語られてこなかった。本書は1952年、早稲田大学教育学部に社会教育課程が設置された経緯を軸に、「開かれた大学」という理念の歴史的形成を、多彩な史料を用いて解き明かす共同研究の成果である。
社会教育課程は従来、社会教育法改正に伴う社会教育主事養成を目的として発足したと理解されてきた。これに対し本書は、早稲田大学が明治期以来掲げてきた大学開放の思想や、占領期における教育改革、さらには戦後大学構想との連続性に注目し、社会教育課程の成立を、より長い歴史の流れの中に位置づけ直す。
第Ⅰ部「早稲田大学と社会教育」では、教育学部社会教育課程の発足過程をはじめ、GHQ民間情報教育局(CIE)の成人教育観、学生自治会をめぐるCIE担当官タイパーとダーギンの役割、日本社会教育学会創設の経緯などを詳細に検証する。
第Ⅱ部「戦後社会教育に関する諸問題」では視野を全国へ広げる。戦後初期に国公立大学・私立大学で社会教育科目がどのように設置されたのかを比較するとともに、東京都社会教育主事によるPTAや婦人教育への取り組み、勤労女子青年教育論、山形県婦人連盟の活動と婦人参政権の実現など、地域社会における社会教育の展開を多面的に考察する。巻末には、1943年「最後の早慶戦」の主将として知られる阪井盛一の年譜・資料も収録され、戦時下の大学と学生を考える貴重な史料集ともなっている。
各章はそれぞれ独立したテーマを扱いながらも、「大学は社会に対して何を担うべきか」という問いによって緩やかに結び付けられている。大学教育、成人教育、学生自治、女性教育、地域社会、教育行政といった一見異なるテーマが、「開かれた大学」という視点のもとで有機的につながり、戦後日本の社会教育史を立体的に描き出している。
少子高齢化やリカレント教育の推進を背景に、大学の地域貢献が改めて注目される現在、「開かれた大学」という理念は決して過去のものではない。本書は、早稲田大学の歴史を入り口に、大学と社会の関係を歴史的に問い直し、その原点を考えるための確かな手がかりを提供する。教育史や大学史の研究者はもちろん、社会教育、生涯学習、大学改革に関心を持つ読者にも多くの示唆を与える一冊である。
新刊一覧
●教育学
成人学習
理論と実践を結びつける
ローラ・L・ビエレマ、モニカ・フェデリ、
シャラン・B・メリアム 著、三輪建二 訳/
472頁/5,600円+税/医学書院
●学校教育一般
対話する職員室
大人も子どもも自分らしくいられる学校をめざして
玉置哲也 著/192頁/
2,300円+税/教育開発研究所
多様性時代のモヤモヤに効く
はじめての学校DE&I
武田緑 著/248頁/
2,600円+税/東洋館出版社
プレイフルラーニング
楽しみながら学ぶ力を伸ばす奇跡のメソッド
今井むつみ 著/192頁/
1,800円+税/小学館
●英語教育
「それでも外国語を学ぶのは何のため?
亘理陽一 著/224頁/
2,000円+税/東洋館出版社
●学級経営
教師のための「非認知能力」の育て方
実践ガイドブック
中山芳一、布施川天馬 編著、沖村将彦、佐藤
俊介、森健太 著/208頁/
2,200円+税/明治図書出版
●ICT
子どもがAIとつくる新しい授業
樋口万太郎 著/168頁/
2,000円+税/学陽書房
これからの教育におけるAIリテラシー
基礎知識から授業実践まで
内山正登、緋田亮、村山達哉、遠藤清将 著/
128頁/1,900円+税/明治図書出版
●幼児教育
個性を伸ばす絵本対話
ダイアロジック・リーディング
安田莉子 著/216頁/
1,800円+税/KADOKAWA
子どもが動き、試みるとき
乳幼児期の学びにおけるドゥルーズ/ガタリ論
リーセロット・マリエット・オルソン 著、
久保健太 監訳、刑部育子 監修、岡南 愛梨
他訳/312頁/4,500円+税/北大路書房
●特別支援教育
特別支援教育
個別の指導計画がすぐ書ける!
はじめてのABA
いるかどり、長尾陽子、滝澤健、久蔵幸生 著
/120頁/2,200円+税/学陽書房
●人材育成・マネジメント
人は仕事の場で育つ
伊丹敬之 著/302頁/
2,800円+税/東洋経済新報社
人事・組織改革とキャリアデザインを拓く
高橋俊介オーラルヒストリー
高橋俊介 著、梅崎修、島西智輝、南雲智映 監
修/276頁/3,200円+税/千倉書房
AI時代の人材マネジメント
人間の価値を最大化する条件
古澤哲也、嶋田聰 著/292頁/
2,200円+税/日経BP
●その他
正解を探す日本人、最適解をつくるインド人
坂田幸樹、シヴァジ・ダス 著/256頁/
1,650円+税/
クロスメディア・パブリッシング
「いまを生きる力」を取り戻す
感性の教室
末永幸歩 著/344頁/
2,200円+税/ダイヤモンド社
集中力ファースト FOCUS FIRST
伊賀上真左彦、岡林昭憲、田嶋江梨子 著/
616頁/2,200円+税/技術評論社
注目の一冊
『IR担当の仕事術
―資本市場と経営陣の信頼を得る全手法』
神山光 編著、片桐さつき 著/
336頁/4000円+税/
中央経済社
IR担当者は、開示情報を発信する「開示係」ではなく、企業価値を形づくり、資本市場と経営をつなぐ「全権大使」である。本書はその視点からIR業務を再定義し、決算開示や適時開示、投資家対応、危機管理、社内連携、IR部門の立ち上げ、ESG情報開示、生成AIの活用、キャリア形成までを実務に即して解説する。
IPO直後の「ひとりIR」から大企業まで、著者自身の経験を土台に、組織を巻き込みながら仕事を前へ進める考え方と手法を示す。企業を動かす存在へと成長するための視座が得られる。