「自分で選び、決める力」を育むオルタナティブスクール

「自分で選び、決める力」を育むには、どんな学びの場が必要だろうか。創立以来「自らの意志で選択し、決定できる人に溢れる社会をつくる」と掲げてきたCAN!Pは、2025年4月にオルタナティブスクール「CAN!P School」を開校した。代表の粕谷直洋氏に活動内容などを聞いた。

子どもたちが安心して
自分を出せる学校をつくりたい

粕谷 直洋

粕谷 直洋

CAN!P 代表
大学卒業後、KUMON(公文教育研究会)に7年間勤務し、日本と海外で教育現場を経験。帰国後、CAN!Pの前身となる「きりんアフタースクール」を立ち上げ、初代リーダーを務める。2022年にCAN!Pを創設し、「地方の教育に選択肢を増やす」をモットーに多様な学びの場づくりに取り組んでいる。2021年、グロービス経営大学院でMBAを取得。2児の父。5か月間の育児休暇を取得した“イクボス”としての顔も持つ。

── これまで、民間学童保育「CAN!P アフタースクール」、探究スクール「CAN!P ラボ」、英語アフタースクール「CAN!P English School」、野外体験を届ける「CAN!P アドベンチャー」などの事業を展開されてきました。今回、「CAN!P School」の開校に至った背景をお聞かせください。

粕谷 私たちCAN!Pは2022年の立ち上げ以来、「自らの意志で選択し、決定できる人にあふれる社会をつくる」を掲げ、学童保育や探究スクール、英語スクールなど、複数の教育事業を行ってきました。そのなかで特に増えてきたのが、不登校や発達特性を持つ子どもたちの保護者からの相談です。これが学校設立の大きなきっかけになりました。

福岡市内には小中学校で不登校の児童生徒が2023年度時点で2000人以上いると言われていますが、そのうち安心して通える居場所を見つけられているのは36%にとどまります。不登校の背景にはさまざまな要因があります。たとえば「勉強が分からない」こと。あるいは発達に課題がある子どもにとっては、「人間関係を築きにくい」、「長時間座っていられない」といったこともあります。敏感な子にとっては「先生の怒る声が怖くて耐えられない」ということもあります。

つまり、多くの子どもが「自分に合う場所がない」と感じているのです。私たちは、既存の学校に馴染めない子どもたちが安心して学び、自分を受け入れてもらえると感じられる場をつくりたい。その思いと場所との出会いが重なり、2025年4月に「CAN!P School」を開校することができました。

── 「CAN!P School」のコンセプトを教えてください。

粕谷 まず思い浮かんだのは、子どもたちが卒業していくときの姿です。「僕はこういうことをやりたいと思ってる! じゃあね」と、すがすがしく巣立っていくイメージ。その時、自分が人生の主人公であり、主体的に生きていくことを心から理解している状態になっているはずです。

そこから逆算し、半年間議論を重ねてたどり着いたのが、「自分を拓く学校」というコンセプトでした。

このコンセプトは「出会う」「探究する」「自分と向き合う」という3つのステップで実現できると考えています。「出会う」とは、さまざまな人との交流や新しい物事との遭遇を通して視野を広げ、選択肢を増やしていくこと。「探究する」とは、自分なりに感じ、考え、心が大きく動くような原体験を得ること。そして「自分と向き合う」とは、その過程を振り返り、感じたことを言葉にし、自分の想いや願いに気づいていくことです。このサイクルを繰り返すなかで、子どもたちは少しずつ自分の輪郭を拓いていきます。

図 「CAN!P School」が目指す子ども像

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また、このコンセプトに紐づけて、CAN!Pが育てたい3つの子ども像として「思いやりある協働者」「熱中する探究者」「自立した学習者」を掲げています(図)。そして、これらに関連したスキルなどを日々の生活の中で身に付けていくのです。

AIが急速に広がるこれからの時代に、本当に大切なのは「何ができるか」ではなく、「自分がどうありたいか」「何をしたいのか」ではないでしょうか。それは、既存の学校ではなかなか得られない学びだと考えています。

単なる居場所ではなく、
学校としての一つの在り方を示す

── 具体的な学びの内容についてお聞かせください。

粕谷 私たちが目指しているのは、単なる居場所の提供ではなく、一つの「学校」としての在り方をつくることです。ですから、体験学習だけを行って基礎学習をまったくしない、ということはありません。そのうえで、子どもたちが自ら探究できる余白をしっかりと残し、教え込みすぎないことを大切にしています。

一日の流れは「サークルタイム」から始まります。輪になって互いの気持ちをシェアする時間です。その後は基礎学習、いわゆる学校の勉強の時間になります。内容は文部科学省の学習指導要領をベースにしつつ、一人ひとりに合わせて柔軟に進めます。個人別学習に関しては、私自身がKUMONでの指導経験があるので、その知見も取り入れています。

サークルタイムでは、絵や文字で伝えることも表現の一つとしてできるよう、一人一人に表情のマーク、ホワイトボードとペンを用意。子どもも大人も輪になって座り、出来事や気持ちを聞き合うこの時間は、安心安全の場をつくるための大切な時間だ。

英語にも力を入れています。運営する「CAN!P English School」の外国人講師にも協力してもらい、楽しみながら覚えられるように工夫しています。例えば、料理にかかわる語彙を学び、それを使いながら実際に料理をしてみる、といった楽しく使いながら覚えられるスタイルです。ですが、文科省が求める英語レベルにも到達することを目指しています。

英語に限らず全ての教科にいえることですが、「その教科が嫌いでも触れてみたら、面白かった」という体験を残せるように設計していますね。

自分で自由にテーマを決めてじっくり取り組む「マイプロジェクト」。「お菓子づくり」や「すべり台づくり」など様々なことに挑戦している。

午後はテーマ学習や「マイプロジェクト」と呼んでいる探究活動が中心です。さらに週に1回は「自然体験の日」を設け、まる一日屋外で学びます。先週も子どもたちと川遊びに出かけました。校舎は住宅街の中にありますが、車で20分ほど走れば海も山も川も揃っているんです。

── 「探究する」学びとしての「テーマ学習」や「マイプロジェクト」について教えてください。

粕谷 「テーマ学習」は理科とか社会の内容を座学だけではなく、教科横断で体験を通じて自分の目と手で確かめる学びを重視しています。

たとえば「自分たちが今使っている水はどこからやってきているのか」をテーマにしたときは、実際に浄水場の見学に行って説明を受けたり、水道水・川の水・山の湧き水を採取して比較・自分たちで分析したりすることを行いました。そこに水の重さを測る算数的な要素を加えるなど、学びを広げていくイメージです。

テーマ学習はグループで取り組むのに対し、「マイプロジェクト」は子ども一人ひとりが自分で問いを立て、やりたいことに取り組む時間です。夏休み前には、自分でノコギリを使って滑り台をつくった子もいれば、クッキーなどのお菓子を作る子、プログラミングでロボットを動かす子もいました。だいたいが短期間で終えるものですが、中には1回限りで完結することもあります。

ですが今後は、探究的な学びを実践する学校として世界的に知られているアメリカのカリフォルニア州にある公立学校「ハイ・テック・ハイ(High Tech High)」のように、子どもたちが能力と熱量を注ぎ込み、成果物にこだわるプロジェクトへと発展させていきたい。うまくいかないことを試行錯誤しながら乗り越えていく過程でこそ、思考力や発想力、実行力が育まれるからです。

マイプロジェクトに関しては、福岡大学の研究室だったり、近所のアート教室の先生だったり、地域の連携を活かしながら、外部の専門の人たちにお願いしながら進めています。

子どもたちの「楽しい」という
声が一番の手ごたえ

── 開校から半年。手ごたえはいかがですか。

粕谷 一番うれしいことは、子どもたちが「ここに来るのが楽しい」と言ってくれていることです。

もし普通の学校に通っていたら窮屈さを感じていたかもしれない子どもたちが、この場で「自分を大事にしてもらえている」「自分らしく過ごせている」と感じられている。それが何よりの喜びですね。この半年で最も力を注いできたのは「安心して過ごせる場づくり」です。少人数だからこそケンカや対立も起こりますが、それを一緒に乗り越える中で、互いに関係を築く力が少しずつ育っています。

子どもたちから「この学校、いいよね」と言われたり、保護者の方から「本音を語るようになった」という声をいただけるのは、その土台ができつつある証拠だと思います。

学びの成果として「勉強がどれだけできるようになったか」という点では、まだ改善の余地は大きいですし、マイプロジェクトの作品の完成度なども、これからもっと高めていきたいと思っています。ただ、初年度に一番大事にしたいのは、誰もが安心して過ごせること。その点においては十分に手ごたえを感じています。

── 最後に今後の展望を。

自然体験では川遊びに出かけることも。

粕谷 まずは自分たちが納得できる教育の現場をつくること。これを今後3年間の大きな目標にしています。その土台が整ってきたら、次のステップとして外部の教育関係者にも見てもらったり、研修の場として開いたりしたいですね。CAN!P Schoolに通う子どもたちは現在小学校4年生が多く在籍しています。不登校が増えやすいのは3年生以降という声もありますが、私たちは決して「不登校の子だけを対象にする」と考えているわけではありません。

むしろ、子どもと保護者が「どんな学びの場を選ぶか」を自由に決められる時代にしたい。その選択肢のひとつとして「CAN!P School」を選んでもらえたら嬉しいです。

最終的には、新1年生が「ここで学びたい」と自ら選んで入学してくれる、そんな学校に育てていきたいと思っています。