学習塾・学童保育・食堂を入り口に 多世代がともに過ごせる場を創造

「なんかしたい」は京都・西院の8軒横並びの長屋をリノベーションして、個別指導塾や学童保育、食堂などを運営している。小学生から大学生、保護者、地域の高齢者など様々な世代がつながれる場づくりに取り組んできた代表の清水大樹氏に、活動への思いなどを聞いた。

大学生の学び合いの場と
小中学生対象の塾を融合

清水 大樹

清水 大樹

合同会社なんかしたい 代表
兵庫県姫路市生まれ。京都産業大学経営学部卒。大学在学中の2012年から京都・西院の長屋にて大学生の学び合いの場と小中学生向の学習塾を始める。その後横並びの長屋を次々と借り受けて活動の場を拡大し、学童保育や地域に開かれた食堂や漫画部屋も運営。2018年に合同会社として法人化。子ども、保護者、地域の高齢者などが世代を超えて顔が見えて声をかけあえる地域づくりに取り組んでいる。

── 個別指導塾「まなびのさき」をはじめ、学童保育「あそびのば」、地域の人々も集える「まなあそ食堂」など、小学生から高齢者まで、地域の様々な世代に開かれた場を提供する事業を展開しています。そのユニークな活動が生まれた背景・経緯について教えてください。

清水 大学生だった2010年頃のこと、周りを見ると、充実した楽しい学生生活を送っている友人もいれば、大学生活に物足りなさを感じて悩んでいる友人もいました。

学生生活を充実させるには何かのきっかけや「縁」が大事なのではないかと思って、大学や背景も様々な大学生が集まれる場を作ったことが、そもそもの始まりです。

ただ、それだけではマネタイズが難しいので、2012年、私が大学を卒業した頃に、同じ場所で小中学生を対象にした塾も開くことにしました。大学生が学ぶ場と小中学生が学ぶ場をくっつけた形だったので、車座になっている大学生の隣で子どもたちが勉強している、というような状態でした。

当初は小4から中3までが対象でしたが、そのうち保護者から「小学校低学年も通えますか」とか、「放課後の居場所としての学童保育もやってほしい」といった声を聞くようになりました。また生徒からは「高校生になっても来たい」といった声もありました。そうした要望に応えていくうちに、活動が広がっていったという経緯があります。

テスト・受験対策を大切にする理由
子どもたちに必要な4つの要素

── 「まなびのさき」では小2から高3までを対象に個別指導によって定期テスト対策や受験対策など、学力向上や受験合格に向けて力を入れています。塾の特長や方針などについてお聞かせください。

清水 塾をはじめた当初から数年は学力よりも非認知能力などを重視していました。「テスト対策に土日も開けてほしい」と言う保護者に、「テスト対策なんて意味がありますか」と答えていたほどです。

ただ、今の日本で学校に通う子どもにとっては、勉強で頑張って結果が出れば、それは本人にとって一つの達成感や自己効力感にもつながります。

私は、今はできていなかったことができるようになることが学びの一つだと捉えています。最もインスタントに結果が出て、できなかったことができる喜びを実感できる。「できなかったことができた」ということを積み重ねていく、そのわかりやすい手段として、まずは勉強が有効だと考えました。本人も家族もみんな喜べます。勉強で結果を出さずして、本人や保護者に「テストの点や偏差値だけが重要ではない」と言っても説得力がありません。ですから、塾として学力を上げることも大切にすることに切り替えました。

そのためには、適切な学習内容と学習方法、集中した学習量の3つを、一人ひとりにカスタマイズした形で確実に実行することが重要です。

勉強が苦手な子どもたちは、自分の気持ちを聞いてほしいといったモヤモヤや、親子関係などの悩みなど、勉強を阻む様々な要因を抱えている場合もあります。このため、必要なら家庭にも働きかけて保護者とも話し合い、勉強ができていない理由を探ります。また、非認知能力も変わらず重要だと捉えています。私たちは、答えがある(とされている)学習を大事にした上で、答えがない自分の人生を、子どもたちが自ら切り拓いていくことを願っています。

そのためには、知っていること「知識」、できること「技術」、やったことがあること「体験」、様々な考え方や生き方「価値観」の数を授業内外の関わりの中で増やすことを大事にしていて、そのための場を充実させています。

親の子育てを孤立させず、
伴走するための学童保育

── 学童保育「あそびのば」では、どのような考え方で運営されていますか。

清水 学童保育を手がけるようになったのは、小学生の放課後の過ごし方について保護者から相談されることが多くなったからです。

子どもの自己肯定感、自己効力感は、保護者からの無条件の愛情を得られているかも関わってきますが、それには、中学生という難しい年齢になる前、できるだけ早い時期に保護者とのつながりを良好にしておくことが重要だと思います。保護者の子育てを孤立させず、保護者の考え方がまだ柔らかいうちに子育てに伴走し、サポートすることができれば、子ども・保護者の双方のためになる。そうした思いがありました。

── 具体的にはどのような活動をされているのでしょうか。

清水 活動内容は、ごくシンプルで、学校の宿題はしっかりやる、安心できる環境で自由に遊ぶ、ちょっとしたワークショップを開く、世代や地域を超えたイベントを月1回実施する、という4つに集約されます。

当法人は40名近くのスタッフがいて、うち7名が社員、その他は大学生スタッフです。京都には様々な大学があり、学生スタッフも様々な大学に所属しているため、ワークショップでは、学生スタッフの専門分野が活かされることも少なくありません。また、子どもたちの年齢に近く共通点も多い、そうした学生スタッフの価値観や考え方が、子どもたちへダイレクトに伝わっています。例えば、ひたすら石を磨くというワークショップでは、楽しいコミュニケーションのなかでヤスリがけの技術や石についての知識を身につけていきました。建築を研究する学生が主催するワークショップでは、子どもが建築について学ぶだけでなく、学生も子どもたちの発想を研究に活かしています。

2025年5月、7軒並びの長屋とは別に3階建てのスペースをつくり、「あそびのば」の新たな拠点となった。

このように、「あそびのば」では、遊びの技術や、様々な知識を身につけられる場になっていると思います。また、2025年5月には、7軒並びの長屋とは別に3階建てのスペースをつくり、ここを「あそびのば」の新たな拠点にしています。

── 月1回のイベントというのは、どのような内容でしょうか。

清水 「まなあそ縁日」と称して、月に一度開催しているもので、例えばこの1月にはマグロの解体ショーをやりました。地域の居酒屋さんが、「魚のことをあまり知らない子どもたちにマグロの解体を見せたい」と地元の信用金庫に相談して、その銀行との縁で実現したものです。

月に一度開催する「まなあそ縁日」では、マグロの解体ショー(写真左)のほか、ハイキング、芋掘り(写真右)、キャンプなど、保護者や地域の人々が子どもたちと一緒になって楽しむ重要な機会となっている。

他にも、ハイキングや芋掘り、キャンプなど、保護者や地域の皆さんが子どもたちと一緒になって楽しむ重要な機会になっているのが、このイベントです。また、3か月に一度の「まなあそマーケット」は、保護者がフリーマーケットを開いたり、近所の皆さんがお店を出したりといった、大人も子どもも盛り上がれるお祭りになっています。

地域のなかで子どもたちが
生きる力を育める場所へ

── もう一つの大きな活動の柱である「まなあそ食堂」は、どのような経緯で立ち上げたのですか。

地域に開いた「まなあそ」食堂は、子どもから大人まで多様な世代が集う場となっている。

「まなあそ」食堂では日替わりの具沢山うどんを提供。子どもは250円、大人は500円で食べられる(並盛)。

清水 どのような家庭環境の子どもであっても、安くて栄養があってあたたかい食事ができる場所が地域にあるとよいなという想いがありました。

また、「あそびのば」では、子育てを孤立させないという理念に立って、保護者にできるだけ心のゆとりを持ってほしいと思いました。栄養たっぷりの夕食を用意できれば、仕事が終わって迎えに来た保護者が帰宅後に夕食を準備する手間が省けます。さらに、一人で食事している近所の高齢者の方も、ここへ来れば世代を超えて地域の人々とつながれます。そうした、顔の見える関係性をつくりたかったという思いもありました。

── 地域全体で子どもたちを見守る多様な取り組みが大きな成果を生んでいると思います。最後に現状の課題や展望をお聞かせください。

清水 たしかに、勉強や受験のことはもちろん、それ以外の子育て全般に関して保護者から何かと相談していただける場所になっているのは嬉しい成果といえます。また、食堂や縁日などを通じて地域全体の人々が顔見知りになっていく、そうした関係性の広がりも実感しています。

課題としては、現在、「まなあそ食堂」の運営は、個人・法人からの寄附(月額サポーター)で成り立っています。持続的な運営を確保していくためにも、我々の方針にご賛同いただける方々からの寄付を増やしていくことに、ますます注力していくつもりです。

そして今後は、できていなかったことをできるようにする「まなびのさき」、安心安全な放課後の居場所である「あそびのば」をベースに、生きていくために必要なことを、子どもたちが地域の大人たちのなかで身につけていくという仕組みがさらに次の世代へ循環して、10年後も20年後も続いていることを目指していきたいですね。