すべての子どもが輝く学びの場 自然・地域と共生し主体性を育む

公立学校以外の選択肢が限られていた新潟市。2025年4月、その西蒲区の里山と古民家を舞台に、初等部を中心とした「光の森学園」が開校した。イエナプラン教育を基軸に、個性を尊重しながら主体性を育む学びの場だ。地域全体をフィールドに展開する独自の教育が注目されている。

自由な学びとの出会い
「選択肢」を新潟の子どもたちへ

小林 弘樹

小林 弘樹

一般社団法人 光の森学園 理事長
2008年に地域誌『Life-mag.』を創刊。2019年より新潟市議会議員として、子ども向け政策や相談支援、地域の魅力発信に注力する。岩室温泉の古民家や自然を活かした「光の森学園」を設立。「すべての命が輝く学びの場をつくる」をミッションに、代表理事として経営・対外調整・環境整備を担い、子どもの自律性と地域共生を大切にする教育を実践している。

赤川 千穂

赤川 千穂

一般社団法人 光の森学園 理事
小学校教諭免許取得後、アパレル勤務や専門学校での教務・就職指導を経て、コンサルタントとして起業。NPOでのキャリア教育支援に約10年携わった後、寺嶋聡美氏とともに2025年の開校時より理事として参画。イエナプラン教育をベースとしたカリキュラム開発と、子どもたちの学びの伴走(グループリーダー)を担っている。

── 2025年4月に「光の森学園」を開校された背景をお聞かせください。

小林 原点は、私が岩室温泉に所有していた2棟の小さな山小屋です。当初はまちづくりやイベントの拠点として活用していましたが、この豊かな里山の自然を子どもたちの学びの場にできないかと、数年前から構想を温めてきました。

転機となったのは、一昨年に山梨県の「きのくに子どもの村学園」を視察したことです。そこには、私たちが知る「普通の学校」の光景が一切ありませんでした。固定の時間割はなく、学年の壁もない。先生が黒板の前に立って一方的に教え、全員が同じ内容とペースで学ぶ方法ではなく、子どもたちが主体的かつ自由に学ぶ姿に、強い衝撃を受けました。

私たちの地域にも、こうした学びの場をつくる必要があると確信しました。山小屋の近くに古民家物件も見つかり、開校に向けて一気に動き出したのです。

── 理事の赤川千穂さん・寺嶋聡美さんとの出会いもその視察だったそうですね。

赤川 私は以前から寺嶋とNPOでキャリア教育に携わっており、子どもたちが本当に必要としている力は何か、それを育む場をどのように作るかを、10年ほど模索していました。寺嶋と以前から繋がりがあった代表理事の小林とは視察で知り合い、その後、「一緒にやらないか」と声をかけていただきました。長年の夢を形にできるチャンスだと感じました。

── 新潟市でオルタナティブスクールが必要とされていた理由は何でしょうか。

小林 理由の一つに不登校の児童生徒が増えている現状への強い危機感があります。文部科学省の調査では、新潟市内だけでも小・中学校を合わせて不登校児童生徒数は約2,300人に達するとされており、近年、急増しています。しかし、新潟市内には私立小学校がなく、公立学校以外の選択肢が限られていました。市議会議員として多様な学びを行政に提言してきた私と、現場でキャリア教育を担ってきた2人が手を取り合い、自分たちで実例を示そうと考えたのです。既存の公立学校の枠組みだけでは、今の子どもたちが求める育成に対応しきれないという切実な思いがありました。

イエナプラン教育主軸の探究学習
日常の中で紡ぐ学びの循環

── 教育コンセプトやカリキュラムなどについて教えてください。

赤川 ドイツで発祥し、オランダで体系化・発展したイエナプラン教育をベースにしています。その核となるのは「対話・遊び・仕事(学習)・催し」という4つの活動の循環です。

朝と夕方には「サークル対話」を行います。週末の出来事や今の気持ちを共有し、対話を通じて共に過ごすための土台を築いていきます。9時30分からは教科学習を個別に行います。子ども自身が「今日何を学ぶか」を決める自由選択に近い形をとっています。10時30分からは「地域×〇〇(畑・体験・先生など)」という枠を設け、地域の養蜂家さんや無農薬の稲作農家さんから学んだり、フィールドウォークや生き物の飼育、有機農業の畑仕事など、テーマに沿った学びを展開しています。

── 午後の「探究(ワールドオリエンテーション)」は、どのような内容ですか。

赤川 午後は子どもたちの興味・関心から立ち上がった問いを深める「探究」の時間です。例えば、朝の読み聞かせで「霜柱」の絵本を読んだ際、「じゃあ実際に霜柱を探しに行こう」という流れになりました。その後「霜柱は冷凍庫で作れるのか」という問いが生まれ、子どもたちは温度や湿度を変え、15分おきに観察を続ける実験を繰り返しました。結果、その日は成功しませんでしたが、子どもたちから「この状況を創り出せる自然はすごい」という深い実感が語られ、さまざまな学びがありました。

── 毎週、水曜日は地域に出向いて活動されているのですね。

赤川 水曜日はフィールドワークの日です。美術館で学芸員の方と協力して行う「対話型鑑賞」や、海での「SUP体験」、山でのソリ遊びなど、地域の自然や文化の中で活動しています。

── こうした探究活動は教科学習とどのように結びつくのですか。

赤川 「個別学習」と「探究」の相互補完を大切にしています。日々の活動の中に、教科学習の知識は自然に溶け込んでいます。例えば「募金箱」を手作りした際は、材料の測定、集まったお金の集計、さらにその使い道を考えるところまでが地続きの学びになります。イベントの餅つきでは人数分のお米の量を算出したり、生活の中に、生きた学びの機会があるのです。

── 異年齢学級も大きな特徴の一つですね。

赤川 現在は1年生から6年生まで8名が在籍していますが、異年齢学級であることは「人は違って当たり前」という前提や、他者の気持ちややり方を尊重する思考を育みます。

例えば、算数の計算が難しい1年生でも、5年生が出した結果をもとに「お皿を40枚並べる」といった役割を担うことができます。それぞれの発達段階に応じた貢献が、助け合いの精神を育む土壌となっています。

地域全体をフィールドに
多種多様な「達人」との連携も

── 地域社会をはじめ、外部との連携も学園の特徴の一つですね。

小林 地域全体が学びのフィールドです。岩室温泉の街並み、裏山、そして海や田畑すべてが教材になります。また、特定の教員だけでなく、地域のさまざまな職業の方々に「達人先生」として関わっていただいています。最近では、近隣大学のネパール人留学生を招き、国際交流を行いました。オンラインの事前交流後に学園へ来てもらい、ネパールの遊びや料理を教わりました。AIの授業では外部講師の指導のもと、ツールを使って映像や音楽制作に取り組みました。その作品を「AI文化祭」へ出展するプロジェクトが進行中です。

純国産非加熱のはちみつをつくる養蜂家を訪ね、蜂の巣や生態を知り、はちみつの美味しい体験も。蜂への興味が止まらず、子どもたちの質問が1時間以上続いた。

── 子どもたちと接する上で、大切にしていることはありますか。

赤川 嘘をつかない、一人の人間として対等に接するという誠実さです。子どもだからと誤魔化さずに真摯に向き合うことが、安心感と自由な発想の土台となります。

子どもの「やりたい」という意欲を否定せず、実現困難な場合も理由を正直に伝え、解決策を話し合います。また、知識を教える教員ではなく、グループリーダーとして主体的な問いを引き出す伴走者に徹します。

算数の解き方一つとっても「後ろのページから解きたい」「1問解くごとに絵を描きたい」など、個々のスタイルを尊重し、創造力を引き出すのです。以前、教育ジャーナリストのおおたとしまさ氏が来園した際、子どもたちは「秘密の暗号」やブラックライトの「あぶりだし」を駆使したお礼の手紙を自発的に作りました。適切な環境を整えれば、子どもたちの創造力は日々無限に溢れ出していきます。

開校1年の手応え
地域に根ざす未来への構想

── 開校から間もなく1年になりますが、どのような変化があったかお聞かせください。

赤川 不登校を経験して表情が乏しかった子が、数か月で自分の感情や考えを安心して表現するようになりました。日々予期せぬことが起きる活動の中で、変化に対応する柔軟性と他者への尊重が育まれ、目覚ましい成長が感じられます。

小林 イベントなどを通じた地域社会との接点でも、確かな手応えを感じています。山から切り出した木でスプーンやフォークを作り、マルシェで販売した際には、地元の和菓子店と一緒に出店させていただきました。地域の方々との温かい交流が生まれ、大人たちが「子どもから元気をもらった」と喜んでくれました。学園が地域活性の核になり得ると思っています。

── 2026年4月には「森のようちえん」を開園される予定ですね。

小林 この保育施設は、「里山保育」を志すスタッフの夢を形にしたものです。一年中自然の中で過ごし、感性を育む保育を目指しています。開園当初は認可外からのスタートですが、早期に週5日の体制を整え、将来的に保育料無償化の対象となるよう整備していく予定です。

── 今後の展望を教えてください。

小林 地元の信用組合の旧店舗を活用し、新しい学校給食の形を目指しています。地産地消を目指して、地元の食材を使い、子どもたちとスタッフ、そして地域のお年寄りや観光客が同じテーブルを囲むランチルームにしたいのです。

食堂だけでなくギャラリーや本棚を共につくる「みんなの図書館」も併設予定で、地域交流拠点にすべく整備を進めています。完成すれば、学園はより地域に開かれた存在になり、多様なつながりが生まれるはずです。

赤川 今後は中等部の生徒も積極的に受け入れ、学びの幅を広げていきたいと思っています。

この豊かな環境に惹かれて、県外から移住してくるご家族が増えることも期待しているところです。

── 今後の学園のあり方について、想いをお聞かせください。

小林 オルタナティブスクールを運営するだけでなく、森のようちえんやキャンプ会などのイベント、地域食堂などを通じて、学園に関わるすべての人と豊かな学びと共生の場を創っていきたいと思っています。私たちの法人のミッションは「すべての命が輝く学びの場をつくる」です。子どもたちが輝くこと、自然と動植物が輝くこと、学園との協働・共創を通じて地域が輝くことを実現していきます。

ミッションに「すべての命が輝く学びの場をつくる」を掲げる光の森学園の挑戦は続く。

文部科学省「令和6年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」(2025年10月)