「なんだろう?」が学びの出発点 夢中になる「体験」で子どもは輝く

自然豊かな埼玉県横瀬町で、幼小中一貫のオルタナティブスクール「タテノイト」を運営する舘野繁彦氏。博士号を持つ地球惑星科学の研究者から教育の現場へ転身。好奇心が生み出す学びの連鎖が人生を輝かす。感性と感覚を大切にした、独自の学びのスタイルについて話を聞いた。

好きなことを好きなだけする
自分軸の幸せをみつける

舘野 繁彦

舘野 繁彦

一般社団法人タテノイト 代表理事
1978年生まれ、神奈川県川崎市出身。博士(理学)・保育士。地球惑星科学の研究に従事し、東京工業大学(現:東京科学大学)や岡山大学惑星物質研究所にて地球深部の謎に迫る研究に没頭。2010年には世界で初めて地球中心の圧力・温度条件を実現し、その成果が米国科学誌『Science』に掲載された。「夢中になる」体験こそが、子どもを輝かせることができると確信し、在職中に保育士資格を取得。2020年に退職し埼玉県横瀬町で「タテノイト」を立ち上げる。地球探究教室「ちっぽけツアー」を主宰。株式会社みんなのそだちLab代表取締役。

── 「タテノイト」を立ち上げた背景についてお聞かせください。

舘野 僕自身はもともと、地球惑星科学が専門の研究者として大学で教員をしていました。研究の世界に浸かり、社会に関心のなかった僕が教育に興味を持ったのは、娘が生まれてからです。娘の20年後の社会を想像し、特に未就学児の頃の学びが大切だと感じるようになりました。

ある日、保育園に馴染めず不登園になった娘との会話のなかで「何でそう思うの?」と聞くと、「先生が言ったから」という答えが返ってきました。そのとき「自分で考える力を養う学び」の必要性を感じました。

僕は、高校1年生で地質学者の丸山茂徳先生の本に出会い、地球内部で起こっていることに興味を抱き研究者になりました。地球中心部 の高温かつ高圧の環境を世界で初めて実験室に再現し、『Science』に論文が掲載される経験も得ました。

研究者は、好きなことを好きなだけして生きています。興味があれば専門分野外の学問も自然に学ぶ。こういう営みは決して研究者だけのものではないと考えました。

学びが人生を輝かすカギとなる。より好奇心が旺盛なはずの子どもだからこそ、できることがある。好きなことを好きなだけできる環境のなかで、他人との比較ではない、「自分軸の幸せ」を見つけられたらいいなと思いました。2020年に「森のようちえん」スタイルの幼児教育を提供する「タテノイト」をスタート。その後、小中学部も立ち上げて、2025年から幼児部と小中学部のオルタナティブスクールを展開しています。

好奇心を育む3つの環境

── 「タテノイト」が大切にしていることをお聞かせください。

舘野 好奇心のベースをつくる3つの環境を大事にしています。1つ目は「自然」と触れ合える環境です。自然は自然科学の窓。川が違えば落ちている石も違うし、場所が違えば植生も変わる。森には色んな虫や動物が生きていて「世界が多様なのは当たり前」だと気づく。自然のなかで小さな発見を繰り返すことで、感性や感覚が養われます。

2つ目が「本」に出会える環境です。幼児部にも小中学部にも多種多様な本を並べています。本は世界の窓。子どもたちが実体験できない世界を仮想的に広げてくれます。当園出身の子には本好きが多いですが、本好きは人生の財産です。本から情報を取り入れる手法を身につけることは大きな価値となります。

本棚に並ぶ多種多様な本(写真左は小中学部のNAZELAB)。幼児部の園舎(写真右)は「2021年度キッズデザイン賞奨励賞(キッズデザイン協議会会長賞)」を受賞している。

3つ目は多様な大人と関われる環境です。「タテノイト」がある横瀬町は地方創生で有名で、地域内外から人が集まり様々な挑戦をしています。あらゆる特技、専門性を持ち、多様な働き方をしている大人と子どもたちを接続していきます。

以上3つの環境で育つことで、この世界を見る「感度」と「分解能」が培われます。すると、様々なことに「気付く」ことができるようになります。これがあるからこそ「なんだろう?」と思える好奇心につながります。

── カリキュラムは体験ベースで学びを広げていくのですね。

舘野 幼児から小学2年生までは特に体験が大事。彼らが過ごすタテノイトには庭にも建物内にも遊具もおもちゃもありません。それでも子どもたち自身で遊びを創造し、小さな自己決定を繰り返し、思い思いに過ごしています。

小学校三年生以上では、子どもたちからあがった「これはなんだろう?」という疑問や、私たちからの「これ、面白くない?」という提案がきっかけにプロジェクトがスタート。例えば、ある子が「旅行先で砂金を取ってきたから顕微鏡で見たい」と言う。すると、金から地質学に話が広がり、銅の話、鍾乳洞の話、鉄の話、さらには最近の金の高騰という世界情勢や伝統工芸にまで話題が及ぶ。1つの好奇心から学びは無限に広がっていきます。あらゆる分野を横断し、教科に分かれる前のありのままの世界を味わっています。

生まれた興味・関心をその場で拾うことも大切。例えば、校舎の庭でアオダイショウの死骸が見つかると『骨格標本を作ってみたい!』という話しに。そこで即みんなで解剖。これをきっかけに、さらに興味のある子は別の野外活動の日に採った魚の透明標本づくりにも挑戦することに。学びとの出会いは突然。自分の好きを見つけて、とことん追求していきます。スタッフは僕ら夫婦のほか、5人のスタッフで運営しています。特別支援学校での経験を持つ方、遊びを広げるのが得意なプレーリーダーの資格を持つ方など、横瀬町に来てから教育理念の近しい人に声掛けし、ご縁でつながった方々です。

立ち上げから6年、特に幼児部から入ってきた子たちは感覚も感性も豊かで好奇心旺盛だと感じます。色んな知識が豊富で、放っておいても常に主体的。興味・関心があれば勝手に学んでいます。幼児部から一貫して「自分の好きを見つけ、生活も学びも自分で決める」、自己決定を大事にしているので「どうしたいか」の問いかけが常にあり、自分で考える子が育っていると感じます。

「ちっぽけな地球」を知る
自分で考える子どもを育む

── オンライン地球探究教室「ちっぽけツアー」で講師もしています。

舘野 地球惑星科学はこの世界の「なんだろう?」を起点にし、分野を横断した応用科学。こんなに子どもの学びに適した学問はありません。大学レベルの地球惑星科学を子どもたちに届けているのが「ちっぽけツアー」です。NASAの無人探査機「ボイジャー1号」が撮影したした写真には、微かな淡い青い点が写っていました。「ペイル・ブルー・ドット:Pale Blue Dot」と表現される地球です。この地球を複雑なシステムとして捉え、そして、いかにちっぽけな存在なのかを知る。究極に地球を俯瞰する視点を得ることが僕の一連の授業の最終ゴールです。「タテノイト」での自然体験を通じ、自然は人がコントロールする対象ではなく、人類は地球のいち構成要素でしかないことを感じる。加えて「ちっぽけツアー」で地球というシステムを知識としてインストールできればいいなと思っています。