『すべての子どもに「話す力」を』

『すべての子どもに「話す力」を──1人ひとりの未来をひらく「イイタイコト」の見つけ方』

『すべての子どもに「話す力」を──1人ひとりの未来をひらく「イイタイコト」の見つけ方』
竹内 明日香 著/256頁/1800円+税/英治出版

子どもたちに「話す力」を授けるにはどうすればいいか、「話す力」を育むことが、今なぜ大事なのか。これが本書のテーマだ。

インターネットで何でも検索できるようになり、働き方が変わってきたことで、コミュニケーション能力がますます求められるようになっている。長期雇用制度で会社に身を任せ、じっくりとキャリアを積み重ねられる時代ではなくなった。自分の能力や価値観を言葉にして伝えることが重要になっている。それにもかかわらず、学校教育では人前で話す力を育む仕掛けが体系化されていない。社会の入り口に立った時、「ぶっつけ本番」で話す力を試されるのは、なんと残酷で不公平なことかと著者は訴える。

金融業界に身を置き、グローバルビジネスに精通する著者は、話す力が足りないために日本人がビジネスで敗北する現場を何度も目にしてきた。読解力や数学的および科学的リテラシーでは高水準にありながら、詰め込み教育ばかりで発信する機会が圧倒的に足りないことが原因だ。その意味で、話す力を高めることは「教育のラストワンマイル」だと著者は言う。

これまで4万人以上の子どもたちに授業を届けてきた著者は、さまざまなタイプの「話せない」子に出会ってきた。そのなかでわかったのは、ほぼ全員が小学1年生までは話したい強い「思い」の種を持っていること。ところが学年が上がるにつれ、それを心の奥にしまい込み、世の中で求められているのは「自分の意見」ではなく、一般的な「正しい答え」だと思い込んでしまう。

そんな子どもたちも、鍛えれば必ず話せるようになる。さらに話す力を育むことで、それ以上の効果も期待できるという。例えば、2年半にわたり8回の授業を行った都内の公立中学校では、話す力が向上しただけでなく、一般教科の学力がグンと上がった。授業で会うたびに面構えが変わっていった生徒たちと向き合うなかで、話す力によって得られる最大の恩恵は「自己効力感」であると著者は確信する。自分の言葉で話し、周りに認められて拍手される経験。自分の意見に同意してくれる人が現れ、一緒に動いてもらえる成功体験。そうした機会を得ることで「自分はもっとできる」と思えるようになる。すべての子どもたちが、こうした自己効力感を持てるような経験をしてほしい。そのためにこそ、話す力を育む授業を届けているのだ、と著者は語る。

そうすることで、子どもたち1人ひとりの未来がひらかれるであろうことが納得できる1冊だ。

新刊一覧

●学校教育一般

教師の育て方
大学の教師教育×学校の教師教育

武田 信子、多賀 一郎 著/136頁/1800円+税/学事出版

2040 教育のミライ
礒津 政明 著/392頁/1800円+税/実務教育出版

●学級経営

主体性を育む学びの型
自己調整、探究のスキルを高めるプロセス

木村 明憲 著/80頁/2700円+税/さくら社

『学び合い』はしない
1段上の『学び合い』活用法

西川 純 著/176頁/1700円+税/明治図書出版

ボードゲーム教育
加賀 俊介 著/230頁/1500円+税/Pocket island

●ICT

GIGA完全対応 学校アップデート+(プラス)
堀田 龍也、為田 裕行、稲垣 忠、佐藤 靖泰、安藤 明伸 著/128頁/1700円+税/さくら社

Society 5.0時代の中学校教育の構想と実践
1人1台端末時代の新しい授業の形

岩手大学教育学部、岩手大学教育学部附属中学校 編著/304頁/3000円+税/福村出版

子どもたちの未来を創った
プログラミング教育

日本最初のプログラミング教育を受けた小学生たちは一世代後にどう育ったか、プログラミングが育てた思考・創造力
戸塚 滝登 著/336頁/1800円+税/技術評論社

ICT×インクルーシブ教育
誰一人取り残さない学びへの挑戦

鈴木 秀樹 著/176頁/1760円+税/明治図書出版

●幼児教育

子どもと自然
あそびが学びとなる子ども主体の保育実践

大豆生田 啓友編著、出原 大、小西 貴士 著/144頁/2400円+税/学研教育みらい

資料とアクティブラーニングで学ぶ
初等・幼児教育の原理
佐藤 環 監修、田中 卓也、時田 詠子、烏田 直哉、斎藤 修啓、鈴木 和正 編著/192頁/1900円+税/萌文書林

●特別支援教育

放課後等デイサービスの豊かなあそびと発達支援
個別支援の充実と地域での自立に向けて

亀井 智泉 編/184頁/2500円+税/中央法規出版

●その他

私たちはどう学んでいるのか
創発から見る認知の変化

鈴木 宏昭 著/224頁/840円+税/筑摩書房

●人材育成・マネジメント

研修開発入門 「研修評価」の教科書
「数字」と「物語」で経営・現場を変える

中原 淳、関根 雅泰、島村 公俊、林 博之 著/236頁/2400円+税/ダイヤモンド社

強い組織ほど正解を捨てる
10000人の経営者と対話してたどり着いた「きれいごと経営」

西坂 勇人 著/296頁/1700円+税/ダイヤモンド社

Z世代・さとり世代の上司になったら読む本
引っ張ってもついてこない時代の「個性」に寄り添うマネジメント

竹内 義晴 著/240頁/1600円+税/翔泳社

注目の一冊

『まちの風景をつくる学校神山の小さな高校が試したこと』

『まちの風景をつくる学校
神山の小さな高校が試したこと』

森山 円香 著/280頁/1800円+税/晶文社

 IT企業が続々とサテライトオフィスを構える徳島県神山町は、「地方創生の聖地」と言われる。だが、子どもたちが通える学校が地元になければ、次世代は育たない。そうした思いで、町唯一の農業高校のカリキュラム改革に乗り出した女性たちがいる。本書はその6年間にわたる冒険の記録である。

教室での学びを社会に結びつけるため、学校で培った技術を生かして働く「孫の手プロジェクト」など、前例のない取り組みから何が生まれたのか。地域と教育のこれからを考えるヒントが詰まった一冊だ。