『未来の授業 SDGs×ライフキャリア探究BOOK』

『未来の授業 SDGs×ライフキャリア探究BOOK─けんた、寿司職人になる!?編』

『未来の授業 SDGs×ライフキャリア探究BOOK
─けんた、寿司職人になる!?編』
佐藤 真久 監修、NPO法人ETIC. 編集協力/160頁/1800円+税/宣伝会議

国際社会が共通して2030年までに達成すべき目標であるSDGs。既に教育現場に生かされる機会も増えているが、SDGsで求められる17の目標を真に自分ごとと捉えるのは容易ではない。本書は、小中高生を対象として、身近な課題からSDGsを理解し、さらに行動に移すきっかけにしてもらおうと編まれたシリーズの第5弾だ。今回は「SDGs×ライフキャリア探究」をテーマに、サステナブルな未来の社会をつくる、生き方・働き方について考える。

これまでと同様、本書でも個性的な4人の登場人物を軸に、立場が異なる多くの人々が協力し合い、それぞれにアクションを起こす大切さを伝えるストーリーが進んでいく。直感・行動タイプのけんた、アイデア実践タイプのゆみ、価値・意義重視タイプのみのり、理論派タイプのアレックスに加え、心強いサポート役のSDGs博士も健在だ。読者は誰かしらに共感できるところがあるだろう。ときに感情移入しながら、彼ら4人が学びを深める様子を通し、SDGsを身近に感じられる構成となっている。

本書の各章には、漫画仕立ての「SDGsチャレンジストーリー」が収録されている。例えば第1話は、将来は寿司職人になるとけんたが決心するシーンが描かれる。「寿司職人になるのに学校の勉強は必要ない」と試験勉強をサボるけんたに、SDGs博士は「寿司を作りたくても作れない社会」が来るかもしれないと警告する。寿司の背後にはどのような社会課題が潜んでいるのだろうか。子どもたちの日常的な話題と社会課題を結びつけ、自然とSDGsへの理解を深めるスタイルが本書の魅力だ。

既に活発に動き出している企業などの取り組みも豊富に取り上げられている。各社とも商品やサービスが写真や図解で紹介され、若い読者にも大事なポイントがイメージしやすい。また、事業担当者が顔写真とともに実名で登場しているため、文字通り「顔の見える」取り組みとして関心を呼ぶだろう。将来の職業を考えるきっかけにもできそうだ。

なお、巻末には「教材としての本書の活用方法」として、教育関係者向けの情報も盛り込まれており、すぐにでも授業に生かしたい現場教員にとっては非常に実用的だ。平易な語り口ながら、本書はSDGsの「入門書」に留まるものではない。「国連・持続可能な開発のための教育の10年」を通して蓄積された知見に基づいた「探究活動を促す教材」としての活用法も示唆されている。さまざまな習熟度の児童・生徒および読者が深い学びを得られることだろう。

新刊一覧

●教育学

元文部科学省キャリア官僚が問う!
教育改革を「改革」する
寺田 拓真 著/272頁2000円+税/学事出版

教育政策をめぐるエビデンス
学力格差・学級規模・教師多忙とデータサイエンス
中西 啓喜 著/296頁/3600円+税/勁草書房

●学校教育一般

教育観を磨く
子どもが輝く学校をめぐる旅
井藤 元、苫野 一徳、小木曽 由佳 著/232頁/2200円+税/日本能率協会マネジメントセンター

転移する学力
奈須 正裕、岡村 吉永 編著、山口大学教育学部附属山口小学校 著/252頁/2100円+税/東洋館出版社

教育芸術を担う
シュタイナー学校の教師たち

井藤 元 著/248頁/2500円+税/ナカニシヤ出版

●学級経営

その微差で決まる!
教師の超効率的仕事術
山本 東矢 著/112頁/1800円+税/学事出版

●ICT

ChatGPT×教師の仕事
南部久貴 著/144頁/1960円+税/明治図書出版

学校の生成AI実践ガイド
先生も子どもたちも創造的に学ぶために
特定非営利活動法人みんなのコード 著/160頁/1900円+税/学事出版

クラウド環境の本質を活かす
学級・授業づくり

「つながり」の中で個が豊かに伸びるための考え方
大村 龍太郎 著/272頁/2360円+税/明治図書出版

●特別支援教育

これからの特別支援教育は
どうあるべきか

全日本特別支援教育研究連盟 編著/160頁/1900円+税/東洋館出版社

イラストでわかる 特性別
発達障害の子にはこう見えている
小嶋 悠紀 監修/192頁/1400円+税/秀和システム

こころの安全・安心をはぐくむ
不登校支援

子どもの心をいやす
ポリヴェーガル理論に基づく
高山 恵子、花丘 ちぐさ、浅井 咲子、濱田 純子 著/272頁/3200円+税/学事出版

●人材育成・マネジメント

人的資本経営 まるわかり
岩本 隆 著/176頁/850円+税/PHP研究所

なぜ「若手を育てる」のは今、
こんなに難しいのか

〝ゆるい職場〟時代の人材育成の科学
古屋 星斗 著/288頁/1600円+税/日本経済新聞出版

人事で一番大切なこと
採用・育成・評価の軸となる
「人事ポリシー」の決め方・使い方
西尾 太 著/288頁/1800円+税/日本実業出版社

「部下の気持ちがわからない」と
思ったら読む本

新田 龍 著/272頁/1700円+税/ハーパーコリンズ・ジャパン

●その他

なぜかいじめに巻き込まれる子どもたち
川上 敬二郎 著/270頁/920円+税/ポプラ社

注目の一冊

「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実を目指して』

「個別最適な学び」と「協働的な学び」
の一体的な充実を目指して』

奈須 正裕、伏木 久始 編著、大豆生田 啓友、加藤 幸次、佐野 亮子、松村 暢隆、金田 裕子、白水 始、涌井 恵、宇佐見 香代、坂本 明美、堀 真一郎、浅野 大介、堀田 龍也、荒瀬 克己 著/352頁/2400円+税/北大路書房

子どもたちの多様性を重視する「個別最適な学び」が言われるなか、対峙するかのように語られる「協働的な学び」もまた、多様な「個」の間でこそ生じる互恵的な学びである。本書はこうした認識のもと、全ての子どもたちの可能性を引き出す上で、両者をいかに一体的に充実させるべきか、理論と実践の両側面から検討する。

15名もの編著者による視点も多様だ。ICTをはじめとした新しい取り組みばかりでなく、過去の膨大な実践資産をも振り返る本書は、今後の教育に欠かせない羅針盤となるだろう。