『デジタル化時代の学校教育ビジョン―ようこそ、成層圏の旅へ』

『デジタル化時代の学校教育ビジョン―ようこそ、成層圏の旅へ』

デジタル化時代の学校教育ビジョン―ようこそ、成層圏の旅へ
マイケル・フラン 著、塩崎勉 訳/230頁/2300円+税/東洋館出版社

GIGAスクール構想に則り、ICT機器を使った授業を導入してテクノロジーの威力を実感している教育現場も多いだろう。だが、テクノロジーの持つ潜在力を最大限に生かせていると自信を持って言えるだろうか。最新のテクノロジーを使ってはいても、従来型の授業をなぞっているに過ぎない例もあるのではないか。

1人1台端末の普及によって急速にデジタル化が進んだ学校教育において、教育はどうあるべきか。その本質を問うのが本書である。著者のマイケル・フラン氏は、30年以上にわたり、学校間・地域間を有機的に関係づける学校経営を実現し、教師のモラルを最大化する研究を究めてきた世界的権威だ。

その豊富な経験から導き出した結論は、ペダゴジー(教授法)、変革の知識、テクノロジーを統合することが欠かせないというものだ。副題にある「成層圏」とはこの3つの力を総称したものである。著者の見識によれば、成果を上げられない教育現場では、ペダゴジーの観点から見て、テクノロジーの活用の仕方が大雑把かつ不十分である場合が多いという。

大きな成果を上げている例として、本書ではトロント市近郊のパーク・マナー校という公立中学校が紹介されている。同校ではコアとなる目標として、「世界を変革するために共同できるグローバルなクリティカル・シンカー」の育成を掲げ、ペダゴジーをドライバー(牽引力)として、その中心に生徒がいて学んでいることを明確にしている点が特徴的だ。テクノロジーはF1グランプリレースのマシーンの役割を果たし、生徒たちをより速く安全に目的地まで連れて行ってくれる。なぜ特定のテクノロジー・ツールを使うのか、それが生徒たちの学びのニーズを満たすのはどのようなときかなどを、一人ひとりの教師が明確に説明できるよう、「学びを加速するフレームワーク」が確立されているのだという。

テクノロジーがますます存在感を増しているなか、無計画に教育分野に取り込もうとすれば、格差の拡大につながりかねないと著者は警鐘を鳴らす。それを回避するためにも、すべてを学びに関連づけ、テクノロジーを浸透させ、システム全体を関与させる必要があると著者は説く。抗しがたいほど魅力的な学びの体験をつくる仕事に多くの経費をかけ、テクノロジーを味方につけ、ペダゴジーとテクノロジーを結びつけたイノベーションを蓄積しておく深い「プール」を用意しようと呼びかける。

表層的なICTの導入法ではなく、デジタル化時代の教育像を本質的に描く本書は、新しいペダゴジーを創出する一助となるだろう。

新刊一覧

●教育学

教育機会保障の国際比較
早期離学防止政策とセカンドチャンス教育

横井 敏郎 編著/288頁/4000円+税/勁草書房

●学校教育一般

若手が育つ指示ゼロ学校づくり
「一緒に働きたい」と思われるリーダーの条件

住田 昌治 著/192頁/1860円+税/明治図書出版

自律的・協働的な学びを創る
教師の役割

楜澤 実、川前 あゆみ 編著/208頁/2300円+税/学事出版

生徒指導論
生徒は善くなりたいと願っている

前田 治 著/144頁/1800円+税/大学教育出版

学校はなぜ退屈でなぜ大切なのか
広田 照幸 著/240頁/860円+税/筑摩書房

ひとりで解決!理不尽な
保護者トラブル対応術

齋藤 浩 著/228頁/1800円+税/学事出版

●学級経営

教室マルトリートメント
川上 康則 著/308頁/2000円+税/東洋館出版社

マインドフルネスで気持ちが落ち着く!
「しずか」をつくる教室アクティビティ50

三好 真史 著/79頁/1680円+税/黎明書房

●特別支援教育

障害学生支援入門
合理的配慮のための理論と実践

桑原 斉、中津 真美、垣内 千尋、熊谷 晋一郎 著/168頁/2200円+税/金子書房

あなたの隣で困ってはいないか?
教室の中の自閉スペクトラム症
その「相違(ズレ)」を読み解く

有川 宏幸 著/208頁/2000円+税/明治図書出版

●人材育成・マネジメント

リーンマネジメントの教科書
あなたのチームがスタートアップのように生まれ変わる

細野 真悟 著/264頁/1800円+税/日経BP

ビジネスの名著を読む〔マネジメント編〕
日本経済新聞社 編/556頁/2400円+税/日本経済新聞出版

こうして社員は、やる気を失っていく
松岡 保昌 著/296頁/1600円+税/日本実業出版社

男性リーダーのための女子力を100%活かす「ありがとう」マネジメント
塩崎 真士 著/200頁/1600円+税/セルバ出版

●その他

子どものデジタル脳
完全回復プログラム

ヴィクトリア・L・ダンクリー 著、川島 隆太 監修、鹿田 昌美 翻訳/328頁/1800円+税/飛鳥新社

子育てとケアの原理(新版)
望月 雅和 著/192頁/2200円+税/北樹出版

家庭と学校のはざま 学童保育室の子どもたち 24年間おしゃべりの記録
村上 薫 著/312頁/1800円+税/みらい

やっぱり学校っていいな
~コロナ禍の2年・子どもたちの生活と表現~

日本作文の会 編/224頁/1455円+税/本の泉社

子どものための居場所論
異なることが豊かさになる

阿比留 久美 著/240頁/2000円+税/かもがわ出版

注目の一冊

『開かれた協働と学びが加速する教室』

『開かれた協働と学びが
加速する教室』

河村 茂雄 編著/164頁/2200円+税/図書文化社

授業と学校生活を固定された「学級」で行う日本の教育現場では、自律性と協調性あふれる自治的な学級集団をつくることが、より良い授業づくりに欠かせない。本書は順を追ってその実現方法を解説する。まず、オープンでフラットな人間関係を構築し、個々の子どもたちの考え・理解・思いをフラットにつなぐ。その上で、担任の教育実践を組織的に支え、学校が一丸となって理想の集団づくりに迫るという流れだ。学力差を超えた協働を経て、「深い学び」に至る道筋を示す好著である。