『人材マネジメントの革新 理論を読み説くための事例集』

『人材マネジメントの革新─理論を読み解くための事例集』

『人材マネジメントの革新
─理論を読み解くための事例集』

江夏 幾多郎、石山 恒貴、服部 泰宏 編著/
256頁/3200円+税/千倉書房

変化の激しい時代において、企業の競争力を左右するのは「人」の力にほかならない。だが、人材マネジメントの理論を現場で活かし、成果につなげるのは容易ではないだろう。そこで、人事の現場や部下の育成に迷いを抱える読者にお勧めしたいのが本書だ。メルカリ、イオンリテール、ロート製薬、住友商事、コカ・コーラ ボトラーズジャパンなど、よく知られる12の企業・組織の取り組みを、気鋭の研究者が丹念にインタビューし、その実像に迫る事例集だ。

しかも単なる事例集にとどまらず、その背景にある理論的枠組みについても十分な考察がされている点が特徴である。執筆陣の多くが大学および日本労務学会に籍を置く研究者であり、日頃の研究成果に基づき、理論と現実を往還する視点が活かされている。章末には各事例に関連する理論を簡潔に紹介するコラムもあり、理論武装が求められる際のリファレンスとしても心強い。

取り上げられている事例を1つ示そう。データ活用による先進事例として紹介されているのが株式会社サイバーエージェントである。創業から25年経った今も、創造的なアイデアが生まれる企業であり続けている背景には、適材適所を実現する人事管理とそれを支えるデータ活用がある。人事部門は「コミュニケーション・エンジン」と位置づけられ、社内コミュニケーションのハブとなって、経営にも深くコミットしている。

その仕組みがうまく機能するために開発されたツールが、「GEPPO」と呼ばれる独自の人事管理システムである。毎月全社員にアンケートが実施され、その時々のコンディションを「快晴・晴・曇り・雨・大雨」の5段階で回答することが求められる。天気のメタファーを用いた直感的な表現を使うことで、「最近メンタルが不調気味」といった深刻なことがあっても、率直に回答しやすくなっている。人事部門による頻繁な社員面談に加え、こうしたデータを「GEPPO」に蓄積することで、社員一人ひとりの状況を把握しやすいうえ、部署全体のコンディションを測るサーベイとしても活用できるという。こうした工夫の結果、20〜30歳代という流動性が高い世代が約8割を占める組織でありながら、離職率は7.4%(2023年)と、業界水準からすればかなり低い水準で推移しているという。

人的資本の情報開示が義務化されたとはいえ、このように他社の人事管理の現場を知る術はなかなかないだろう。理論と実践をつなぐ架け橋として、本書は人材マネジメントに携わるすべての人にとって大いに参考になるはずだ。

新刊一覧

●教育学

教育の危機と現代の日本
渡邊 弘 著/256頁/1700円+税/
東洋館出版社

統治機構改革は教育をどう変えたか
現代日本のリスケーリングと教育政策
德久 恭子、砂原 庸介、本多 正人 編/
256頁/3800円+税/ミネルヴァ書房

エッセンシャル教育心理学
今福 理博、鹿子木 康弘 編著/282頁/ 2500円+税/大学教育出版

●学校教育一般

僕たちのサードプレイス
学校のなかに「居場所」をつくる
宮田 貴子 著/240頁/2000円+税/藤原書店

外国人受け入れへの
日本語教育の新しい取り組み

田尻 英三著/292頁/ 2000円+税/ひつじ書房

●学級経営

図解 見るだけでクラスも整う 授業術
髙橋 朋彦 著/160頁/1900円+税/明治図書出版

●高等教育

文系大学生は専門分野で何を学ぶのか
専門分野別習得度から考える
本田 由紀 編、小山 治、椿本 弥生、二宮 祐、香川 めい、
河野 志穂、久保 京子、松下 佳代 著/220頁/2700円+税/
ナカニシヤ出版

●ICT

授業準備と校務が劇速になる
教師のためのCopilot仕事術
小池 翔太、鈴木 秀樹 編著/112頁/2100円+税/学陽書房

●特別支援教育

図で学ぶ 障碍のある子どものための
「文字・数」学習[第2版]

菅原 伸康、渡邉 照美 著/180頁/2400円+税/ミネルヴァ書房

発達障害の子が羽ばたくチカラ
気になる子どもの育ちかた
川崎 聡大 監修・著、川上 康則、神谷 哲司、三富 貴子、
和田 一郎、石田 賀奈子 著/224頁/1600円+税/KADOKAWA

●人材育成・マネジメント

人が壊れるマネジメント
プロジェクトを始める前に
知っておきたいアンチパターン 50
橋本 将功 著/264頁/2000円+税/ソシム

静かに分断する職場
なぜ、社員の心が離れていくのか
高橋 克徳 著/300頁/1300円+税/ディスカヴァー・トゥエンティワン

スケーリング・ピープル
人に寄り添い、チームを強くするマネジメント戦略
クレア・ヒューズ・ジョンソン 著、二木 夢子 訳/408頁/2500円+税/日経BP

失敗しない「人と組織」
本質的に生まれ変わるための実践的方法
小池 明男 著/368頁/2600円+税/発売:中央経済社、発行:BOW&PARTNERS

●その他

「電チャリ通」から考えた地域づくり:
高校生と一緒に作った安全な町

北村 友人、国際交通安全学会編/2400円+税/東京大学出版会

13歳からの進路相談 仕事・キャリア攻略編
松下 雅征 著/304頁/1700円+税/すばる舎

現場の言葉が織りなす社会学
イデアの交流からロゴスの形成へ
岩崎 信彦 著/344頁/6000円+税/昭和堂

注目の一冊

『大学におけるキャリア教育の社会学 偏差値序列に対する適応と抵抗のストラテジー』

『大学におけるキャリア教育の社会学
偏差値序列に対する
適応と抵抗のストラテジー』
菊池 美由紀 著/252頁/2600円+税/大学教育出版

偏差値の高い大学卒業者ほど大企業に就職し、「ホワイトカラー」のキャリアを築く者が多い。一方、難易度の低い大学では、多くの卒業生を「販売・サービス職」などに送り出している。こうした現状に、大学におけるキャリア教育はどう関与しているのか。

本書では、大学の文化や偏差値との関わりという観点から、キャリア教育を比較し、社会学的に分析している。

キャリア教育が実質的に義務化されてから15年目を迎える今、その意味を問い直す上で大いに参考になる。