『教壇に立つ20代のあなたに伝えたいこと』

『教壇に立つ20代のあなたに伝えたいこと』

『教壇に立つ20代のあなたに伝えたいこと』
樋口 万太郎、小谷 宗 著/230頁/1800円+税/東洋館出版社

「授業づくりをアップデートするには?」「子どもとの接し方はこれでいいの?」「職場ではどう振る舞うべき?」など、教育現場の業務に忙殺されながら、さまざまな悩みや葛藤を抱えている教員は少なくないだろう。特に20代の若手に向け、よくある悩みに答え、エールを送るために編まれたのが本書だ。

著者2名のリアルなエピソードを紹介する第1章では、何かにイライラしたり、まだ実力もないのに天狗になったりしていた樋口先生の素顔が語られている。

一方の小谷先生も、生徒指導が上手くいかず保護者に怒鳴られたり、子どもへの寄り添い方に戸惑ったりする様子を披露。教師として必ずしも「優等生」でない側面が素直に綴られ、親近感を覚える読者も多いだろう。

続く第2〜4章では、授業、学級経営、仕事術、教師生活で大切なことが43のメッセージにまとめられている。ユニークなのはその執筆スタイルだ。事前に集めたアンケートを小谷先生にぶつけ、その回答を受けて樋口先生が思ったことを綴っている。既に20代を「卒業」し、30代後半の樋口先生と、20代を現在進行形で生きている小谷先生の思いが重なることで、骨太な回答になるよう意図されたという。

例えば、授業中に決まった子どもしか発表しない場合の対策として、小谷先生は「子どもが自分の困り感を言える環境づくりが大切」と答える。それに対して樋口先生は、「そもそも全員発表を目指す目的は?」と問い返す。それによって学びが本当に深まるかを見極めるべきだと考えるからだ。

あるいは、「教師を辞めたいと思ったことは?」という問いかけには、両名とも率直に「ある」と答えている。特に小谷先生は、2年目にして5年生単級40人を担任した際、「毎日がしんどすぎて」何度も辞めたいと思ったとのこと。樋口先生も29歳のとき、生徒指導につまずき、うつの一歩手前まで精神的に追い込まれた経験があるという。どれも現場での奮闘ぶりが伝わってくるエピソードだ

こうした43のメッセージはそれぞれ独立しているため、目次を見て気になった項目から読み進めることができる。疲れが溜まったり自信をなくしかけたりしたとき、授業準備の合間のひとときや通勤中の細切れ時間に目を通し、「心の栄養剤」として読むのにもってこいの一冊だ。教職につく20代の読者はもちろん、これから教師になろうとしている学生、または20代を終えた教員にとっても、自分の悩みを解消したり、教師観をアップデートしたりする一助となるだろう。

新刊一覧

●学校教育一般

自己調整学習
主体的な学習者を育む方法と実践
木村明憲 著/192頁/1960円+税/明治図書出版

教職の愉しみ方 授業の愉しみ方
堀 裕嗣、宇野 弘恵 著/176頁/1900円+税/明治図書出版

個別最適な学びを実現する
AL授業10の原理・100の原則

堀 裕嗣 著/224頁/2160円+税/明治図書出版

学校がしんどい先生たちへ
それでも教員をあきらめたくない
私の心を守る働き方
ゆきこ先生 著/192頁/1500円+税/KADOKAWA

●教科学習

学校で戦争を教えるということ
社会科教育は何をなすべきか
角田 将士 著/176頁/2200円+税/学事出版

●学級経営

学級システム大全
有松 浩司 著/240頁/2060円+税/明治図書出版

●高等教育

ルポ 大学崩壊
田中 圭太郎 著/288頁/900円+税/筑摩書房

大学をいかに経営するか
村上 雅人 著/214頁/1500円+税/飛翔舎

留学のための異文化トレーニング
知る、共に学ぶ、実践する
勝又 恵理子 著/172頁/3000円+税/春風社

●幼児教育

保育所・認定こども園・幼稚園対応
配慮を必要とする子どもの「個別の支援計画」

5つのステップで取り組みやすい!
藤原 里美 著/136頁/2200円+税/中央法規出版

アクティブリスニングでかなえる
最高の子育て

島村 華子 著/176頁/1400円+税/主婦の友社

●特別支援教育

「気になる子」の理解からはじめる
発達臨床サポートブック

こんな理由があったんだ!
綿引 清勝 著、イトウハジメ 絵/134頁/1700円+税/学苑社

特別支援が必要な子どもの
「就労」「進学」「進路」相談室

山内 康彦 著/240頁/1500円+税/WAVE出版

普通にできない子を医療で助ける
境界知能とグレーゾーンの子どもたち5
宮口 幸治 著、佐々木 昭后 作画/160頁/1500円+税/扶桑社

●人材育成・マネジメント

フォロワーシップ行動論
「こと・ば」と言葉
松山 一紀 著/240頁/ 2800円+税/中央経済社

部下が伸びるマネジメント100の法則
佐々木 常夫 著/232頁/1650円+税/日本能率協会マネジメントセンター

熱狂のデザイン
楽しく結果を出すチームのつくり方
岸 昌史 著/288頁/1680円+税/クロスメディア・パブリッシング

従業員エンゲージメントを仕組み化する
スキルマネジメント
中塚 敏明 著/232頁/1780円+税/クロスメディア・パブリッシング

●その他

生涯学習と地域づくりのハーモニー
社会教育の可能性
田中 雅文 監修、柴田 彩千子、宮地 孝宜、山澤 和子 編/192頁/2000円+税/学文社

注目の一冊

『NPOカタリバがみんなと作った不登校─親子のための教科書』

『NPOカタリバがみんなと作った
不登校─親子のための教科書』
今村 久美 著/274頁/1400円+税/ダイヤモンド社

社会に10代の居場所と出番をつくる活動を長年続けるNPOのカタリバ。本書はその代表理事を務める著者が、子どもに寄り添う親や教師、支援者に向けて著した伴走ガイドブックだ。

不登校は、誰がなってもおかしくない。その前提に立ち、不登校の子に寄り添う時の7つの心得や、学校や先生との関わり方が綴られている。

不登校に悩んだ先輩親子、心や教育の専門家、現場の支援スタッフたちと一緒につくったという本書には、実践的なヒントが詰まっている。