『子どもの誇りに灯をともす』

『子どもの誇りに灯をともす─誰もが探究して学びあうクラフトマンシップの文化をつくる』

『子どもの誇りに灯をともす
─誰もが探究して学びあうクラフトマンシップの文化をつくる』

ロン・バーガー 著、塚越 悦子 訳、藤原 さと解説/256頁/2000円+税/英治出版

アメリカ・カリフォルニア州のサンディエゴに、世界中から視察が絶えないチャータースクール「ハイ・テック・ハイ」がある。教科書や成績表はなく、クラスやチームで作品をつくり上げるなどのプロジェクト型学習を実践し、子どもたちが自ら学び、可能性を切り開いていく学校として、日本でもよく知られる。

この教育思想に大きな影響を与え、「教育書のバイブル」として20年読み継がれてきたのが本書だ。著者のロン・バーガー氏は、公立学校で教鞭を執る傍ら、40年以上にわたって教員育成に携わってきた。その経験を存分に生かした本書におけるキーワードが「クラフトマンシップ」だ。本書のいうクラフトマン(職人)とは、誠実さと知識を兼ね備え、自分の仕事に誇りを持って一心に取り組む人。その文化をみんなで共有すると、生徒は内面から自分を変えていくのだという。課題などを提出して終わりではなく、仲間からの批評をもとに何度も草案をつくり直し、「美しい作品」をつくり上げるように、より良いアウトプットを目指す。そうした授業こそが深い学びをもたらすのだと著者は主張する。そうすることで、生徒は自分なりの美意識や評価基準を原動力にして学ぶようになるという。

どうすればそのような授業ができるのか。本書ではその手法を3つの「工具箱」に分類して紹介している。1つ目の工具箱にあるのは、「学校にエクセレンスの文化をつくる」ための手法だ。「エクセレンス」とは、学業面、芸術面、個人の人格にも及ぶ広いものを指す。誠実さや責任感、勤勉さを大事にする子どもを育てるために、そのモデルとなる学校文化を構築するヒントが語られている。2つ目のテーマは「エクセレンスを追求する学び方」だ。一例として、子どもたちの自尊心を高めるのは、決して教師の褒め言葉ではないと著者は言う。良い「作品」をつくり上げる過程で自尊心が養われる事例が多数紹介されている。3つ目には「エクセレンスを教える」手法が披露される。そのなかで著者は、今の教員養成制度には、教える技術を指導し、その習得をサポートする仕組みが不十分だと警鐘を鳴らす。著者の指摘は20年前のアメリカの制度についてだが、今の日本にも当てはまるのではないか。そうした意味でも、2003年に原著が書かれた本書の内容は、まったく色褪せることがない。プロジェクト型学習を取り入れても、生徒の主体性をうまく引き出せていないと感じる教師必読の一冊だ。

新刊一覧

●学校教育一般

チームで協働してリノベートする
職員室の「働き方改革」

上部 充敬 著/184頁/2000円+税/明治図書出版

幸福感に満ちた学校をつくる
塚田 昭一 著/224頁/2100円+税/東洋館出版社

「自己指導能力」を育てる生徒指導
松浪 健四郎 監修、齋藤 雅英、宇部 弘子、市川 優一郎、若尾 良徳 編著/242頁/2600円+税/福村出版

●学級経営

ラベルワーク×グループワークでできる!>
生徒が「参画する」学級のつくり方
西林 慶武 著/144頁/1960円+税/明治図書出版

新年度ここで差がつく!
教師1年目のスタートアップ
髙橋 朋彦 著/128頁/1800円+税/学陽書房

そこに、遊びがある授業
安藤 浩太 著/312頁/2100円+税/東洋館出版社

Well-beingなクラスになる♪
5分あそび

樋口 万太郎、神前 洋紀 編著/160頁/1800円+税/学陽書房

子どもの見方が変わる!
「見取り」の技術

若松 俊介、宗實 直樹 著/144頁/1900円+税/学陽書房

学級づくりは教育哲学で決まる
鈴木 健二 著/112頁/1800円+税/日本標準

●ICT

生産性が爆上がり!
さる先生の「全部ギガでやろう!」
坂本 良晶 著/192頁/1800円+税/学陽書房

●高等教育

よくわかる大学生のための研究スキル
ノートルダム清心女子大学 人間生活学科 編160頁/1300円+税/大学教育出版

高等学校 「探究的な学習」の評価
ポートフォリオ、検討会、ルーブリックの活用
西岡 加名恵、大貫 守 編著/204頁/2200円+税/学事出版

●幼児教育

保育リーダーのための
職員が育つチームづくり

現場でよくある悩みを解消
公益社団法人全国私立保育連盟 監修、鈴木 健史 編著/166頁/2200円+税/中央法規出版

●人材育成・マネジメント

人的資本経営 実務ハンドブック
非財務情報を企業の競争力に変えるこれからの経営資本管理
パナリット株式会社 編、トラン・チー、小川 高子、梅原 潤一 著/340頁/3700円+税/中央経済社

チームビルディング
働きがいのある最高のチーム作り
狩俣 正雄、李 超 著/248頁/2800円+税/中央経済社

新 管理職1年目の教科書
外資系マネジャーが必ず成果を上げる36のルール
櫻田 毅 著/250頁/1600円+税/東洋経済新報社

●その他

新時代のスクールカウンセラー入門
松尾 直博 著/272頁/2200円+税/時事通信出版局

偏差値45からの大学の選び方
山内 太地 著/208頁/820円+税/筑摩書房

教師と保護者のための
子ども理解の現象学

土屋 弥生 著/184頁/2100円+税/八千代出版

帰国子女に学ぶグローバルで活躍する
子どもの育て方

中尾 弘太郎 著/232頁/1300円+税/産業能率大学出版部

注目の一冊

『国際バカロレア教育に学ぶ授業改善 資質・能力を育む学習指導案のつくり方』

『国際バカロレア教育に学ぶ授業改善
資質・能力を育む学習指導案のつくり方』

御手洗 明佳、赤塚 祐哉、井上 志音 編著、木村 光宏 著/192頁/2400円+税/北大路書房

コンピテンシー育成の優れた教育プログラムとして評価の高い国際バカロレア(IB)。この教育で育つ海外の子どもたちの姿に魅せられた著者らが、IBで採り入れられている教育理論を日々の授業で活用することを提案する。

目指すべきは、「問い」に駆動される授業づくりだと著者らは言う。そのため、自らの実体験を交えた実践事例が各教科・科目別に紹介され、単なる方法論の解説にとどまらず、極めて実践的だ。巻末には実際の指導案も収載され、明日の授業に生かせるヒントが満載。