『子どもが面白がる学校を創る―平川理恵・広島県教育長の公立校改革』

『学問としての教育学』

『子どもが面白がる学校を創る―平川理恵・広島県教育長の公立校改革』
上阪 徹 著/264頁/1800円+税/日経BP

広島県の教育が大きく変わり始めている。しかもわずか4年の間にだ。その変化を牽引するのが、2018年4月に県の教育長となった平川理恵氏である。リクルートで活躍し、米国留学や起業を経て横浜の公立中学で8年間校長を務めた後、広島県知事に請われて教育長に就任した。本書は気鋭のブックライターが、4年にわたる教育改革を追いかけ、さまざまな関係者にインタビューを重ね、変化し続ける教育現場の「今」をまとめたものだ。

平川氏が最初に掲げたのが徹底的な現場主義。初年度だけで158校を視察して気づいたのは、頭では主体的・対話的な深い学びが大事だと理解していても、実際にはできていない学校が多いという現実だ。ここで平川氏は、理想論を掲げるだけでなく、自ら伴走しなくてはと痛感した。

「ブルドーザーのように」県教委や学校現場を動かしてきた成果のうち、本書には異学年集団イエナプランの導入や国際バカロレア認定校の創立、プロジェクト型授業導入による商業高校アップデートなどの事例が詳述されている。

例えば商業高校の変革には、イエナプランや国際バカロレアのような派手さはないかもしれない。だが、高校卒業後に地元に残り、県の未来を担うのは、商業高校をはじめとした専門高校の卒業生だ。そうした子どもたちの心に火をつけようと、平川氏は大胆な改革に乗り出す。まずは商業高校の教員を引き連れてアメリカのビジネス高校を視察。そこでは有名企業の販促キャンペーンを考察し、自分たちなりのマーケティングを考えるといった実践的な授業が行われていた。教員たちが何より衝撃を受けたのは、派手な色に髪を染めたりタトゥーを入れたりしている生徒が、非常に熱心に、課題に取り組んでいる姿だ。その様子に刺激を受け、きっと広島でも何かできるはずだと、「ビジネス探究プログラム」のカリキュラムづくりが始まった。

翌年度、入学早々の生徒たちに新たなプログラムを実施すると、4時間連続の長い授業中、誰一人寝るものはおらず、全員が課題に没頭していたという。子どもたちが一度の授業で変わったのだ。この手応えをもとに平川氏は現在、工業高校や農業高校のアップデートにも取り組む。さらに今後は乳幼児教育やICT教育にも力を入れていきたいという。

平川氏は常にこう問い続ける。「誰のために、何をやっているのか。それは本当に子どもたちのための仕事ですか」と。今の教育に少しでも疑問を抱くすべての人に一読を勧めたい。

新刊一覧

●教育学

教育格差の診断書
データからわかる実態と処方箋

川口 俊明 編/238頁/3000円+税/岩波書店

●学校教育一般

先輩教師に学ぶリアルな働き方
中学教師1年目の教科書
こんな私でもいい先生になれますか?

前川 智美 著/256頁/2260円+税/明治図書出版

2030年の学校をつくるスクールリーダーへ
学校が変わるために、今、必要なこと
『教職研修』編集部 編/296頁/2000円+税/教育開発研究所

●学級経営

ポジティブ心理学を生かした中学校学級経営
フラーリッシュ理論をベースにして

松尾 直博、東京都八王子市立由木中学校 著/184頁/2200円+税/明治図書出版

「学びがい」のある学級
子どもの声を引き出す教師の言葉がけ

白坂 洋一 著/208頁/1800円+税/東洋館出版社

中学校 ホンネを引き出す技術
力久 晃一 著/136頁/1800円+税/東洋館出版社

学級経営は「なぜ?」から始めよ
須永吉信 著/160頁/ 1800円+税/明治図書出版

●高等教育

スポーツで大学生を育てる
東洋大学の指導者に学ぶコーチング・メソッド

谷釜 尋徳 編/236頁/2300円+税/晃洋書房

2050年の入試問題
神成 淳司、田中 浩也、脇田 玲、矢作 尚久 ほか 著/256頁/1800円+税/日本経済新聞出版

●ICT

逆引き版 ICT活用授業ハンドブック
渡辺 光輝、井上 嘉名芽、辻 史朗、林 孝茂、前多 昌顕 著/144頁/2000円+税/東洋館出版社

●幼児教育

非認知能力をはぐくむ絵本ガイド180
寺島 知春 著/212頁/1600円+税/秀和システム

●特別支援教育

通常学級の「特別」ではない支援教育
校内外支援体制・ユニバーサルデザイン・合理的配慮

佐藤 愼二 著/124頁/1900円+税/東洋館出版社

発達凸凹を生きる力に変えるコンプリメント子育て
ADHD・自閉症スペクトラムなど適応障害から不登校…つらい子育てにさよなら

森田 直樹 著/184頁/1400円+税/小学館

●人材育成・マネジメント

組織になじませる力
オンボーディングが新卒・中途の離職を防ぐ

尾形 真実哉 著/240頁/1700円+税/アルク

越境学習入門
組織を強くする「冒険人材」の育て方

石山 恒貴、伊達 洋駆 著/256頁/1800円+税/日本能率協会マネジメントセンター

ドラッカーが教えてくれる「マネジメントの本質」
國貞 克則 著/272頁/1800円+税/日本経済新聞出版

●その他

学校が合わなかったので、小学校の6年間プレーパークに通ってみました
天棚 シノコ 著/208頁/1800円+税/太郎次郎社エディタス

全米トップ校が教える自己肯定感の育て方
星 友啓 著/208頁/790円+税/朝日新聞出版

注目の一冊

『個別最適な学びの足場を組む。』

『個別最適な学びの足場を組む。』
奈須 正裕 著/270頁/2000円+税/教育開発研究所

「個別最適化された学び」に注目が集まる一方、画一的な教育に慣れ親しんだ教員からは戸惑いの声も聞こえる。本書はそうした教員の疑問を取り上げ、歴史的な理論や実践をもとに、著者と対話しながら理解を深められるよう工夫されている。

「みんな一緒」を思い切って手放そう、と著者は呼びかける。それでこそ、子ども「たち」向けではなく、子ども「一人ひとり」の教育へと解像度を上げることができるのだ、と。具体的な手立てにつながる示唆が豊富に盛り込まれた一冊だ。